③ここに至る過程について。そして自分のこと。
祥子、祥子本当にごめんなさい!
友達の彼氏を好きになってしまった……。
でも、彼女を傷つけたくない。
それでもこの恋心は止められない!
――っていう、香の言いたいことは理解しました。
「……良くん、私あなたのことをずっと……」
「香……、俺も……!」
がしっ←抱き合う音
……みたいな甘ったるい会話があったかどうかなんて知らないけど、目の前の二人を見ている分には少なくともついさっき付き合い始めましたー♪ なんて雰囲気は感じられないから、確実に二股してたね今日まで藪坂は。
いつからだコラ。
その間、講義でも昼ごはんでも会ってたよね、私とこの二人。
よくまー、普通に話してられたですね。
「祥子を傷つけたくないから、この関係は隠さなきゃいけないわ」
っていう感じですかねどうですかねおぜうさん。
想像の翼が羽ばたいて、おねーさん頭痛くなりそうです。
同級生だけど、こんなところでこんなことする時点で、精神年齢的に認めません。
恋に恋する思春期……いや思春期関係ないや。
思春期の人ごめんなさい。
この二人は、きっと、ふ~たりのために~みたいなお花畑で生きてるのです。
怒りは置いといて。
とりあえず。
――いらねぇ、藪坂。
なんか脳内で裁判してる気分になってきたけど、まー私がこうやって脳内裁判に没頭できるほどよくしゃべってくれるわ。
もう少ししおらしくとか、罪悪感に打ちのめされてとか、そこらへんの態度はできないものなんでしょうかできませんかそうですか。
これがそうなら、笑っちゃいそうなんだけど。
……私、榎本祥子は、皆様が感じてるとおり、だいぶ冷めてる性格です。
うん、冷めてるつもりはないんだけど、あまり感情を表に出すことが難しいというか、端的に言えば微表情というか。
私としては緑茶と和菓子を愛する一平凡女子のつもりなんだけど、女子大生の括りに入れるのもどうかと思うと幼馴染に突っ込みいれられたなそういえば。
……余計なお世話ですよ。
一応、目の前の藪坂 良輔とは、三年付き合ってた。
こう情熱的な青春まっさかりみたいなものはなかったけど、お互いおだやかーに過ごしてきたと思ってる。
特に喧嘩もなく、特に盛り上がることもなく。
私はそれでよかったんだけど、藪坂はそれじゃ駄目だったってことですね。
二股の言い訳にはなりませんけどね。
最近、おかしいなって思ってたんですよ。
絶対に手放さない携帯。
着信やメールがあると、すぐに席を外して私から離れる。
会わなくなった週末や、休日。
合わせるとそらされる目。
ある意味、ここまで分かりやすい人っていないと思う。
まぁだからこそこういうことなのかもしれないって気づけたし、対策も考えることができたんだけれど。
更科 香とは中学校からの付き合い。
入学式の日、式直前にいなくなるという、こっちの記憶で忘れたくても忘れられない出会いだった。
なんで一般的公立中学校の校舎内で、行方不明になれるんだろうと思った。
入学式後、教師とクラスメイトで校内を探して(教師で入学式の担当のない人たちは、式中ずっと探してたみたいだけど)、やっと見つけた香は桜の下で居眠りしてた。
それは妖精のようだった……、と一部男子が言ってて呆れた記憶……あ、これ抹消したいなもう。
話を聞けば、最初けがをしている猫を見つけて手当をしようとして追いかけてるうちに疲れて桜の木の下に座り込んだら、追いかけていた猫が出てきて嬉しくなってついついそのまま寝てしまったという。
……ついついから先の行動の意味が分からない。
結局手当されてない猫も、その猫を満足そうに抱きしめて寝ている香も。
でも、なぜか香の天然さに絆されて、注意は受けたけれど罰は受けなかった。
それこそ、香マジック。
それに絆された人間に、私も入るんだけどね。
一生懸命考えて行動する子なんだけど、それが思ってもみない事態を招いてしまう。
でもすべてに真剣で、冷めてる性格に定評のある私でさえ天然だけど頑張る子という印象を持たせたのだ。
価値観が違い過ぎて、深く付き合おうとは思わなかったけど。
それでも、友達だと彼氏に紹介するくらいは好ましく思ってたのは確か。
ぼんやり過去に遡っていた私の意識は、机の上で組んでいた手を引かれたことで覚醒した。
目の前には、さっきと全く変わらない光景。
涙を流す香と、慰める藪坂。
本当は椅子を蹴倒してここから消えたいんだけれども。
いくら天然だろうがなんだろうが、私の心情位は女なんだしわかってくれませんか?
「祥子、もう……友達ではいられないの……?」
いられると思える香が凄いですよ。
「嫌われたかもしれないけれど、でも、友達でいたいの……」
……ここまでぶっ飛んで、価値観違うとは思いませんでした。
香の脳内は、お花しか詰まってないのかもしれない←マジ顔