②泣いた時点でoutです。
うぉぉぉ、こんなにたくさんの方に読んでもらえるとは、ありがとうございますm--m
しばらく三文芝居が続くと思いますが、よろしくお付き合いいただければ嬉しいです。
「祥子、本当にごめんなさい。こんなことになるなんて、私……」
藪坂の自己主張に青筋立ちそうな額に叱咤激励中の私は、友人であるはずの香の声に視線をそちらに向けた。
目があった瞬間、思わずといった風体でびくりと肩を震わせた香を気遣うように、藪坂の手が肩を撫でている……のを見ている私のことを少しでも考えてますか考えてませんかそうですね。
香はでっかいまん丸の目を今は辛そうに細めて、両手を胸の前で組んで大量の瞬きをひたすら生産中。
ばっさばっさ音がしそうな天然まつ毛が濡れて、一筋頬に涙がこぼれた。
……ってどこの恋愛漫画だですよ。
思わず素で突っ込みいれようとした私は、藪坂の一言に動きを止めた。
「香は悪くない。これは、俺と榎本の問題だから」
いやいや、あえて言うなら私と香の問題だと思うんだけど、藪坂お前が無関係なんだけど。
友人の彼氏を好きになった友人、奪われた側と奪った側は友人なもので関係アリアリだと思うんですけど。
それと並行して、私と藪坂の問題があるわけだよ分かってますか?
「違う、違うよ良くん。私が一番いけないの。友達の彼を好きになるなんて、本当に最低……」
「それなら、彼女の友達を好きになった俺が一番悪いんだ」
――あんたら二人が最低です。
二人とも最低っていう選択肢はありませんか。
慰めあいを始めた二人を目の前に、私は一体どうしたらいいんでしょうかねと視線だけを周囲に巡らせる。
だってね、だってですね。
ここ。
「……学食で話そうと決めたのは、どっち?」
大学の学食ですよ?
既にお昼時を過ぎた四限中とはいえ、人がいないわけじゃないですからね。
しかも個室とかじゃないんだから、話駄々漏れですからね?
自分たちの馬鹿さ加減を第三者に知らしめて、いったい何がしたいのこの人達。
私の言葉に香はおどおどと視線をさまよわせながら、ぎゅっと手に力を込める。
「祥子を悲しませることになってしまって、本当に申し訳なくて。だから、早く……すぐにでも謝りたくて……」
尻すぼみになっていくのは、後ろめたいからですか?
それとも私の顔が怖いからかしら。
香は、可愛い。
中学から知っているけれど、外見も内面も可愛いと思う。
茶色いふわふわな髪の毛を、胸元でくるりと巻いて。
ばさばさの天然まつ毛に、黒目がちの大きな目。
ぎゅっとしたくなるくらい、華奢で小さな体。
藪坂がでかいから、隣にいるとまるで中学生のよう。
困っている人がいたら、手を差し伸べないと気が済まない子。
それでどうにもならなくなって、周りが助けるって場面によく遭遇した。
昔から告白されることが多かった香は、いつもいつも断ってから落ち込んでいた。
なんとかくんに、本当に悪いことをしてしまったと名前だしてたのはどうかと思っていたけれど。
天然な性格の彼女なら、悪気ないのもさもありなんと周囲が勝手に納得していた。
天然って、一番手に負えない性格なんですね。
分かってたけれど、ここまで実感したことなかったんですよ。
負の方で。
「本当に、本当にごめんなさい。許してなんて言えないの分かってる……、でも、祥子を失いたくないの」
本音なんだろうけど、この状態で友人関係を続けていきたいと思える香の脳内を十分くらいのドキュメンタリーにして見せて欲しいです。
すべてに突っ込みいれていくから。
「……祥子……」
懇願するように私を見つめる香の頬に、幾筋も流れる涙。
うん、考えるまでもないですね。
泣いた時点でoutです。
残念。
涙は女の武器というけれど、使われた方はたまったもんじゃないよね。
泣いた方が勝ちみたいになるの、なんでだろうね……ねぇ藪坂。