銀の背中と甘い果実
深い熱帯雨林の奥深く、陽光が木々の隙間から木漏れ日となって降り注ぐ群れの広場。そこに、群れ一番の強さと美しさを誇る若い雄ゴリラ、アルタがいた。
つややかに輝く黒毛と、若くしてすでに銀色を帯び始めるたくましい背中。鋭い眼光と彫りの深い顔立ちを持つ彼は、群れの雌たちからの人気を独占していたが、同時に口が悪く意地悪なことでも知られていた。
「おい、またそんなところでいじいじしているのか? 体ばかり大きくて、中身は赤ん坊のままだな」
低く魅力的な声に肩を震わせたのは、小柄な雄ゴリラのリルだった。
リルはつぶらな瞳と柔らかい毛並みを持つ、少し引っ込み思案な男の子。争い事が苦手で、いつも群れの少し外側でひっそりと大好きな熟した果実を探して過ごしている。
「あ、アルタ……。ごめん、邪魔だった……?」
リルが慌てて身を縮めると、アルタは鼻で笑いながらドカッと隣に腰を下ろした。大きな体が触れ合いそうな距離に、リルの胸は跳ね上がる。アルタはいつもリルを見つけると強引に近づいてきては、意地悪な言葉でからかうのだ。
「誰が邪魔だと言った? それより、お前が持っているそれ、一番美味いところだろう。よこせ」
アルタはそう言って、リルが大事そうに抱えていた希少な甘い熟した果実を、大きな手でひょいと取り上げてしまった。
「あ……それ、アルタにあげようと思って、朝から探したんだけど……」
リルが小さな声で呟くと、果実を口に運ぼうとしていたアルタの手がピタリと止まった。
「……は? 俺のために探しただと?」
「うん。アルタ、最近群れの警護で忙しそうだったから、元気が出るといいなと思って……」
リルは恥ずかしそうに下を向き、短い指をモゾモゾと動かした。本当はアルタが怖いはずなのに、彼が誰よりも群れのために体を張っていることを、リルはちゃんと知っていたのだ。
アルタは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに意地悪な笑みを浮かべて顔を近づけた。大きな影がリルを覆う。
「ふん……相変わらずおめでたい奴だな。そんな甘い考えじゃ、厳しいジャングルじゃ生きていけないぞ」
「う……ごめんなさい……」
「だが」
アルタは力強い腕でリルの首元をぐっと引き寄せ、自分の胸の中に抱き込んだ。強烈な雄の匂いと、あたたかい体温がリルを包み込む。
「俺のために探したんなら、責任を持って俺の目の届くところにいろ。他の奴に横取りされたら不愉快だからな」
「え、アルタ……?」
耳元で囁かれた低音の吐息に、リルの顔は毛の下で真っ赤になった。
アルタは果実を一口かじると、口元に笑みを浮かべながらリルの頭の毛を乱暴に、けれど愛おしそうになでまわした。意地悪な言葉とは裏腹に、自分を抱きしめる腕がどこまでも優しくあたたかいことを、リルはちゃんと感じ取っていた。




