第6話
~ルカside~
「あ、アンタって踊れたんだね……」
曲が鳴り終わりワインをもらっている時に姫が吃驚しながら言った一言。
「失礼だなぁ。俺だっていざという時はできる男だよ?」
……まぁ少し練習したんだけどね。
前からパーティーの招待は来てたけど特に一緒に行きたい人なんて居なかったから来たのだって初めてだし――――それに
「貴女の為ならなんでもします」
姫の為ならなんでもできる。
真面目な口調でそう言うと姫は少し顔を赤らめながら誤魔化そうとした。
人気のあるパーティー会場を抜け、煌びやかに光る床を見ながら歩く。
「何? トキめいちゃった?」
姫に視線を合わせ声は出さずに笑う。
悪い顔で笑っているのが自分でも分かる。
こんな顔で笑いながらこんな言葉をかけると決まって返ってくるだろうこの言葉。
「……ありえないし……」
「素直じゃないねぇ姫は」
でもまさかこんな言葉は言われると思ってなかったから。
「……自意識過剰。アンタなんか好きでもないのに」
好き
じゃない
「……好きじゃないなら何」
……こんな事聞いて
分かってるに決まってるのに。
「……え……き、嫌い……?」
それでも言って欲しくなかった。
そんな言葉言ってほしくなかった。
傷つかないとでも思ってる?
「そんなに嫌い……か」
「ぇ、……ルカ?」
またこうやって嫌われる方法を選んでしまう。
全部全部……壊してしまいたい。
滅茶苦茶に壊してしまいたい。
俺はいつもこうだ。
分かってるのに。
分かってる……筈なのに。
ドレスにかけようとしていた手を止め俯く。
「……ルカ……?」
その声も、その髪も、その長い睫毛も全てを俺のものにしたい。
「……ル「……んでだよ」
また俺の名前を呼ぼうとしていた姫の言葉を遮る。
「……え?」
姫は何? という顔で俺を見上げる。
「……んで」
なんで
「俺だけのものになんねーんだよ……」
「……ちょっとルカ? ど、どどどどうしたの」
どもる姫を見てハッと我にかえる。
駄目だ。
「ルカ……?」
「……じょ、冗談♪ 本気にした?」
……だって、誤魔化すしかない。
この気持ちは知れたらいけないんだ。
姫にも、誰にでも。
“ヒメ”に恋はしてはいけない。
溢れそうになってきている想いを隠そうとする程涙となって溢れてきそうになる。
「……ばっばか! そう……だと思ってたし!」
「あ、バレてた?」
精一杯笑顔をつくって姫に言う。
……本当にバレてるかもしれない。
この気持ちが。
ねぇ知ってる?
君の事を愛してるんだよ
ただの愛……なんて小さいもんじゃない
狂う程愛してるんだ
届けたい
本当は今すぐにでも
でも無理だから
まだ伝えられないから
誤魔化しているこの気持ちに気づいて欲しい様で気づいて欲しくない
この矛盾した気持ち
……君がこんな気持ちに気づく事なんてあるのだろうか
~ルカside 終~
*
「……はぁ……」
あの後ルカは私を置いて何処かへ行ってしまった。
そう、あの表情を残して――――
ルカのあんな表情初めて見た。
苦しそうで泣きそうで何かを耐えている様な……表情。
城への帰り道を歩きながら
掴めそうで掴めない月を眺め手を伸ばす。
「今日は……三日月、かぁ」
……ていうか勝手に抜け出してきちゃったな
まぁルカも舞踏会にはもう居なかったみたいだしいっか。
……なんで
なんであの時すぐに『嫌い』って言えなかったの?
嫌いじゃ……ないの?
言った後『違う』って思った。
『こんな事言いたいんじゃない』って。
私はルカの事が好き?
す―――
……って
「こんな女々しいの私には似合わないッ!!!!!」
もう気にせずに居ればいいんだ。
全部誤魔化して、全部気づかないフリして。
全部元通りに……すればいいんだ。
「……ロイもう帰ったかな」
私はもやもやした感じを誤魔化しながら重い足取りで歩いた。
*
~ルカside~
……なんで俺はなんでも器用にこなせないんだろう。
ロイみたいに器用にこなせたら姫も俺の事好きに――――
いや、嫌いじゃなくなる位簡単な事だと思うのに。
俯きながら角を曲がったら舞踏会用の靴が足元に見えた。
「珍しいですね」
それは自分のでもなく、もちろん姫のヒールでもなく。
……は? 誰、と思った時には既に条件反射で上を見上げていた。
自分よりも数十センチ短い背、自分と同じ銀色の髪、姫と似た……水色の瞳。
……なんでこんな時に会うんだろう。
「ルカが一人の女の子に食い入るなんて」
――――ロイ
……マダムキラーが何しにきたんだ。
まぁどうやって抜けてきたか、と聞かれたら得意の作り笑顔で悩殺してきたんだろうけど。
「別に、……食い入ってなんかいないよ」
「見てたんです」
「……だから?」
「僕が見てて気づかないとでも思いますか」
「だから何が」
そう言うとロイは少し呆れた様にため息をついた。
「貴方がヒメを好きになっている事です」
「好きじゃない」
「……いい加減認めたらどうですか」
「―――っ……だから! 好きじゃねぇっつってんだろ!」
思わず口調が悪くなる。
ロイには誤魔化せないと分かってても誤魔化してしまう。
「……好きって言ってる様にしか聞こえません」
「――――っ……!」
なんなんだよ……
“ヒメ”に恋はしちゃいけない。
それを一番知ってるのはロイじゃねーかよ
「……わざと言ってんの?」
睨みながらそう言うとロイは上目遣いでクスっと笑った。
「どうでしょう」
「……曖昧な返事はやめてくれる?」
「なら賭けをします? ヒメをどちらが先におとせるか、おとせなかった方が“ヒメ”を好きになった罰を受けるということで」
「……姫は物じゃない、冗談でものを言わないでよ」
「……冗談が得意な貴方だけには言われたくないですね、……それに僕が“冗談”じゃなかったらどうするんです」
……は
「それって……」
「なら賭け楽しみにしてますね」
そう言ってロイはゆっくりと去って行った。
「……嘘、だろ」
そう言った一言は暗い闇の中に溶けて消えていった。
~ルカside 終~
はいすみません! 短いです!
宿題早速サボってしまいましたーAGEHAです~(サボんな
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