人類の敗北
世界中で混乱と崩壊が進む中、日本では民間人の避難も最初こそは混乱には陥ったが順調に進んだ。
防衛出動が発令され、自衛隊の配置も自衛隊主導で行っていた。
1200
東京都千代田区霞が関
「硫黄島からは無事に撤退できのね、よかった。報告ありがとう。」
統合幕僚長は専用車で首相官邸、防衛省庁舎を何回も往復していた。
硫黄島からの部隊と民間人が無事に撤退できた報告を受けて一安心した。硫黄島には、ハワイとグアムにいた民間人と軍隊が避難先として、一時的に設置していた。民間人は少なかったが、自衛隊とアメリカ軍部隊が多く残っていた。メテオの大部隊が移動しているとの哨戒結果から硫黄島放棄と撤退を以前から段階的に行っていたのだ。
残念ながら、いい報告だけではなかった。
与那国島といった南西諸島の住民らは、沖縄本島か台湾に避難した。自衛隊及び海上保安庁。在日アメリカ軍、台湾軍は、付近の監視を続けているが、本土よりも戦力は少々劣ることや物質の輸送の制限もある。本土においても課題になっているのが、石油といったエネルギー資源が枯渇しつつあることだ。弾薬類においても、輸入に頼っていた部分では足りなくなっている。
首相官邸に到着し、車両から降りようとした時に隣りにいた副官に電話を渡される。
副官の顔は必死だった。
「もしもし?」
「先程、レーダー及び衛星がメテオを探知。新たなメテオが落下中。落下予測地点は、東京湾周辺。また、硫黄島を目指していたメテオ集団も、接近しており、先日に落下した大量のメテオ集団も領海とEEZの外側ですが、太平洋に出現しました。」
「なっ!?」
電話を放り投げた。
警備員に一度止められたが、知らん。
それどころじゃないんだ、馬鹿者。
1205
東京都江東区お台場
陸上自衛隊富士教導団機甲教導連隊 第1戦車中隊 小隊
『メテオが東京湾に落下する。各隊は十分に警戒も上、メテオの攻撃に備えたし。終わり』
沿岸地域防衛のために、南西諸島と北海道に集中配備されていた機甲戦力は重要都市付近の沿岸地域に臨時配置された。政府、自衛隊の指揮系統として重要となっている場所、メテオが上陸して占領されると困る場所である。逆に、避難民が多い内陸部の防衛には退役済みの74式戦車や対戦車兵器、重機関銃満載の普通科連隊、偵察警戒車を配備させて警戒をさせている。
在日アメリカ軍も防衛に協力してくれている。祖国に帰国することも考えられたが、日本にいるアメリカ人のことを守る必要性もあることや、本土の方は十分な戦力があるため帰国せずとも問題ないとして、日本に残る判断が下された。
「メテオ、落下中!」
目視で確認。複数の物体が落下してきた。もやは、着弾であるだろうが。
戦車のエンジン音が響いている中で、メテオによって異様な雰囲気で包まれた。
緊張からか、体温が上がる。
袖を折っていく。
血流がいいはずなのに、指先が冷たく感じた。
『メテオ、着水。』
「各隊、弾種徹甲、正面、射撃用意。」
戦車からの排気ガスを浴びて目が痛い。咳も出てくる。
なのに、不思議と気にならなかった。
『メテオ、上陸してくる! 』
『上陸用舟艇、戦車、船舶などの様々な種類を確認。歩兵型は確認できず、送れ』
『アパッチ2機、到着まで3分。』
『特科、射撃用意。』
無線機から聞こえてくるのは、雑音でしかなかった。
緊張で何も聞こえなくなっている。
他の戦車が、砲手の緊張で操作を誤ったのか一発発射するというトラブルあったが、そんなこと何ともなく。
……何も感じなかった。
『メテオ接近!』
『機雷が反応。メテオ、複数撃破。』
『戦車各車、戦闘開始。各中隊判断で、射撃を開始せよ。』
間髪入れずに、棒読みで命令。
「砲手前方、上陸用舟艇、撃て。」
車長用のモニターには、様々な姿のメテオが見えている。戦車などの攻撃で海の藻屑になっていくのも。
「装填完了。砲手は装填後、俺の指示なしに基本撃っていい。撃て。」
「発射。」
水陸両用車を破壊。
化け物はお呼びじゃないぜ。
奥の方にまるで強襲揚陸艦のようなメテオがいる。そこから大量にメテオが出ている。
「きりがない。」
『特科、射撃開始。初弾弾着まで30秒。』
こういう30秒は、なぜか長い。
メテオの攻撃も始まった。こちらの陣地にもメテオの砲撃が着弾している。
『初弾、弾ちゃーく、今! 次弾弾着まで30秒。』
『アパッチによる航空支援到着まで1分。』
『F-2による対艦攻撃まで5分。』
『第1小隊、右翼に移動せよ。MCVの援護に回れ。』
「操縦手、後退用意、後へ。......操縦手、右へ、前へ。」
機械的に命令。
まるでメテオのように、機械的。
ただ、敵を倒すゲーム。作業だ。
そんな自分が恐ろしい。
「操縦手止まれ!」
『MCV小隊、援護に来たぞ。』
『10小隊、援護に感謝。』
富士教導団機甲教導連隊の第1中隊は、10式戦車の部隊だ。第2、第3戦車中隊は90式戦車。
10式戦車の機動力を活かして、陣地を移動して応戦、援護に回る。
しかし、戦車にも弾薬はいつかは切れ、燃料もなくなる。どこかに、防衛線に穴ができてしまう。
『F-2、敵強襲揚陸艦に攻撃開始。』
『中央防衛線の戦車中隊、補給準備。後方の機動戦闘車隊は、前進開始。』
『特科、最終弾発射、陣地を第2陣地へ陣地転換する。』
戦車内部がガスで充満している気がする。
目が痛い。
目を擦る。
振動が起きた。
「車内に嫌な音が一瞬だが響いた。
「被弾したか!?」
「正面に被弾。」
「操縦問題なし!」
「装置に影響なし。射撃続行!」
流石のメテオも、圧倒的の火力には耐えきれていないようだった。
視界が不明瞭になってきた。まだ昼間で天候も晴れであるのに、暗視装置を使っている。それほど激戦となっているのだろう。
学習しているかと思いきや、ただただ攻撃しながらこちらに進行してきているだけ。メテオは、命が軽い。この点からでも、メテオはロボットだ。相手が対人、国家の軍隊なら、被害は大きかっただろう。
『撃ち方やめ! 撃ち方やめ!!』
『各車、射撃中止! 撃ち方やめ!』
辺り一帯が戦車や火砲の射撃、エンジン、爆発音で無線からの声も聞こえなかった。
環境だけでなく。ただメテオを倒す、恐怖の存在を打ち消すことばかりを思ってしまっていると、命令は全体に通らなかった。
『撃ち方やめ! 撃ち方やめ!!』
『総員、射撃やめ!』
「な!? 砲手、撃ち方やめ!」
砲手もびっくりした表情をしていた。
他でも射撃が止まり、再びエンジン音などの音で支配される。
いや、疲労で支配されている。
ただ撃つ。
それだけなのに。
戦闘のストレスは、酷いものだ。
「ごほっ、ごほっ。」
「ハッチを閉めよう。ガスで苦しい。」
火薬、オイルなどの臭いで鼻が狂っている。色々な鼻も目も、至る所が麻痺っているようだった。
ハッチを閉めてもあまり変わらなかったが、開けているよりかはよかった。
席に座り楽にすると、熱々の空薬莢に腕が触れた。
「アッツ!!」
笑えねぇ。クソ。
1300
第1戦闘団指揮所
第1師団や他の師団、旅団から派遣された様々な部隊/職種で編成された戦闘団の指揮所には、メテオを負傷者数名で撃破できたという安堵と達成感はあったが、指揮所では新たな問題を発見し、悩ませていた。
「弾薬が足りんな。」
「そもそも近年の情勢で、戦車の120ミリよりも。MCVの105ミリ弾の在庫が多いからな。あっても、訓練とか展示の空砲とかだし。他部隊の砲弾を要請しても、何発届くか。」
近年、某NK最高指導者が交代したことによる情勢変化、C国による東シナ海、尖閣諸島周辺海域や南シナ海への海洋進出により日本周辺の情勢は急速に悪化。R国も軍改革と近代化を推進し、活動を活発化。
自衛隊は、「統合機動防衛力」が打ち出された。上記の通り、急激に変化しつつある安全保障環境を背景に、近年削減傾向の陸上自衛隊の人員増が認められた。陸上防衛力の南西諸島方面での警戒および展開能力の向上、監視体制を始めとする海上および航空防衛力を増強。宇宙、サイバー、電磁波を含めて、これらを有機的に活用するべく統合運用が一層推進されることになった。陸海空、宇宙、サイバー、電磁波の領域を統合的に運用。今までになかった、スタンドオフ・ミサイル(反撃能力)や戦闘機を搭載できる護衛艦、統合したミサイル防衛、領域展開や国民保護の装備などを整備していった。
戦車も例外ではない。10式、90式戦車は削減。退役した74式戦車と一部の90式戦車は、モスボールに。島嶼防衛を念頭に九州への配置、機動力向上に16式機動戦闘車の配備。弾道ミサイル防衛や島嶼防衛を重点を置いたことなども受けて、冷戦期とは異なり戦車の数は減った。
余談だが、戦車だけでなく、火砲においても数は削減しつつある。
「戦車の弾は一応確保はできていたが。この量はすぐに消えるな。」
指揮所の運用幹部らは頭を抱えたように、下を見て、ため息をした。
異様な雰囲気な指揮所に異様な戦場というこの状況は、まさに人間と人間で繰り広げられる戦場の地獄に異質な存在を追加した奇妙な雰囲気だった。指揮所にいる通信は受話器などを置いてはすぐに持って、部隊間の連絡や調整を行っていた。休みもなく前線とは異なる疲労が蓄積されていた。
「弾薬運搬に、ヘリを使うのは? 以前、沖縄にミサイルを陸路で輸送できなかった時にチヌークで運んだだろ? 今回もそれはできないか?」
「いい案だが、近くにある弾薬庫は遠い。到着まで時間がかかる。現状、弾薬があるのは内陸部の駐屯地と北海道ぐらいだ。チヌークでも時間がかかる。やらないよりはマシだが......。」
「そもそも、どこも弾薬不足だ。補給要請しても、どれくらい応じてくれるか......。」
戦うための生命線となる武器弾薬。その武器弾薬を製造するのが民間の企業、工場であるのだが、日本で生産していたり外国から輸入してたりしているが、現状の情勢で工場に勤務する従業員も避難したために、機能しなくなった。確保していた弾薬も少ない日本は、ここまでの戦闘で陸海空自衛隊の弾薬は大幅に使用されて残りはほとんどなかった。もって、何日というレベルだった。在日、在韓、ハワイ、グアムのアメリカ軍も含めれば、少々増えるが、それでも少ない。
戦車や火砲の削減、精密な対艦、対空、反撃能力数の増加しているが、メテオ相手では精密攻撃というよりも、戦車や火砲などでの物量で叩き潰す手法が効果的だった。勿論、メテオは水上艦艇のようなものもあるので、ミサイル系が全ていらない、というのは間違っている。あくまでも、現代情勢とは異なり、「冷戦や大戦期のような戦略と同じだ。」
「榴弾砲の数も少なくなっているな。迫撃はしばらくは保つか?」
「航空支援の調整もしなきゃな。パイロットの疲労も蓄積しているはずだ。」
1500
東京都千代田区霞が関 首相官邸
「現場の自衛官には感謝を申し上げる。よくやってくれた。負傷者は少し出たようだが、死者がいなくてよかった。だが、問題も山積みか。」
”防衛成功” ”死者ゼロ”
……という喜ばしい報告の一方で、弾薬不足の問題を抱える現状にはなんとも言えない空気にさせた。軍事に詳しくなくとも、弾薬が不足していることはどういう状況なのか分かり、何も言えなかった。逆に、どうしてこのようなことになったのか、過去の自分らに呪っているのかもしれない。
「今から避難場所にいる工場の従業員を集めさせるか?」
「それこそ家族とかが反対するだろう。戦前のような強制的に工場に働かせているという批判もくる。
福島に契約している工場がありますが、やはり混乱や従業員も避難してますから。それと、完成した弾薬があっても、どうやら運送にて問題が。」
軍事組織において兵站は、戦闘力維持において重要な要だ。人間の器官でいう心臓とも言えるだろう。食料、弾薬、燃料、医療品、兵員の輸送・補充、整備などを担う兵站は、言わずもがな重要なことである。
中でも輸送に着目しよう。
日本の輸送は車両、鉄道、航空機、船舶と、様々ではあるが、日々日本、世界に物を運んでいる。この力があるからこそ、便利な日常を過ごせる。
民間の輸送力は軍事においても重要となる。軍隊には兵站を担う部隊/職種が存在するが、それでも限界がある。そこで、民間に頼るのだ。自衛隊を例にすれば、防衛や災害派遣の時だ。南西諸島にて有事が発生した際に、北海道の戦車などの機甲戦力を南西諸島に向かわせるには、相当の時間がかかる。陸路は時間がかかりすぎてしまい、海上自衛隊の輸送艦などは数が足りないことや航空自衛隊輸送機の数や積める量も限界がある。その時に、防衛省と契約している民間のある高速フェリーにて北海道の苫小牧港から大分県の大分港に輸送したり、鉄道にて車両を輸送することもできる。また、弾薬燃料を民間のトラックなどで輸送するなど、日本での災害派遣での行動が、そのまま防衛にも繋がる。その逆も然り。
「トラックドライバーも避難してるからね。工場も運送も止まって、経済も回ってない。まぁこの情勢で、経済だ経済だ、という連中もいないからメテオの対処だけで済むけども......。」
「工場はゼロというわけではない。今からでも少しずつでも募集すべきだ。」
「自衛官の脱柵......退職者も増えている。それもそれで不味い。燃料も底をつきかけている。」
多くの問題を抱えたまま、会議はほとんど平行線。何もできなかった。
そして。
1600
『メテオ、複数探知。落下予想地点、千代田区周辺地域!』
『市ヶ谷のPAC–3も探知、捕捉済み。迎撃準備完了!』
『周辺空域を封鎖。首相メンバーらをヘリにて避難させるぞ。』
『ピューマ、ヒリュウは状況送れ。』
誰もが恐れていた、メテオの陸地への落下。ここまでは、海上に落下していたが、いつかはくると思っていた地球人。
目を背けたい。
しかし、背けられない義務になった。
メテオとの全面戦争を。
探知してから数十分後。
メテオが大気圏突入。航空自衛隊のPAC–3が迎撃を開始した。複数は迎撃できたが、ほとんどが防ぎれなかった。メテオは、千代田区周辺。日本の指揮系統の中枢にメテオの侵入を許した。
陸上自衛隊第1偵察戦闘大隊戦闘中隊
『MCV、全車待機中。指示を待つ。』
『偵察大隊の、戦闘中隊全車に通達。首相官邸にいた首相らの避難が間に合わなかった。現在、回収機と護衛機が首相官邸に接近中。戦闘中隊のMCVは、首相官邸LZを防衛せよ、終わり』
メテオ防衛のため、陸上自衛隊はお台場といった沿岸部に部隊が集結しており戦力が偏っている。そのため、千代田区周辺に落ちたメテオの対応には、待機中だった普通科連隊や付近にいたヘリぐらいで、即応できる部隊は限られていた。しかし、即応火力の陸上自衛隊16式機動戦闘車が全速力でお台場に向かった。他に走る車がないからこそ、時速100キロの力を発揮できたのだった。
「小隊、右へ。メテオがいたら叫べよ。」
途中で普通科連隊の車両隊と合流した。彼らもLZ防衛の任務で呼び出されたようだった。しかし、機械の集団メテオ相手に、普通科が対応するなんて、酷な話だ。普通科の対戦車兵器は、分隊に1、2名程度だ。それを、大量のメテオを相手にしなければならないという重い仕事だ。加えて、メテオが落下してどこに敵がいるかも分からない状況だからこそ、嫌な状況だった。出会い頭に戦闘が始まる可能性もある。交差点を曲がればいるかもしれないし、先に見つかってやられる可能性もある。
「目的地に到着、警戒待機。」
何とか到着した。首相官邸の屋上には、既に首相らが待っており回収機のヘリが着陸態勢に入っていた。入れ違いに普通科連隊の部隊が警戒ポストに移動して、LZを防衛する。
何も起こらないことを祈るばかりだった。
運命というのは。
いいことばかりじゃない。
期待を裏切られることもある。
当然かもしれないが。
首相らを乗せたヘリが飛び立ってから、数分後。別命があるまで待機していた時に、司令部から命令が下った。
『中隊に通達。首相らを乗せたヘリが撃墜された。生存者がいる可能性があり、捜索と回収を早急に実施されたし。位置をこれより、伝える。』
よりによって、苦労して逃がした首相らの乗るヘリが撃墜されたようだ。統幕長や官僚などを乗せた別のヘリは何とか逃げれたらしいが、よりによっての事態が発生した。おそらく主要な大臣が乗っていたはずだ。生存者がいれば、すぐに回収しなければならない。ここはメテオがが落下したことで、もう既に戦場の危険地域になったのだから。
『MCV前へ! 急ぐぞ。』
事態は、予想よりも逼迫した。
16式機動戦闘車の中隊が到着する頃には、ヘリの残骸周辺にメテオが大量にいた。
排除した後、確認作業をした。
結果は、酷いものだった。
日本全体の指揮命令系統は、喪失した。
‐数週間後
人類の敗北が確実になった。
まだ機能していた国に、メテオの集団が大量に襲来した。また、メテオの一部が発射したミサイルの飽和攻撃によって機能不全に陥った。
日本や、アメリカ、イギリス、ロシアなどなどの国は、数週間前までは機能していた。
しかし、指揮命令系統が寸断されて対処ができなくなったことや補給線が寸断されて戦線が維持できなくなり、軍隊は後退。
民間人らは、地下シェルターなどに地上から避難をしなくてはならなくなった。
地上は、機械の生命体。敵に大部分が占領された。
しかし、人類の抵抗は終わっていなかった。
There is no glory in war, only sacrifice and misery.
スコットランドの作家 ウォルター・スコット




