美濃統一(1)
「やったー。何だかんだで美濃を統一したわよーっ!」
「だから雑だっての。またそのパターンですか。尾張統一の時と同じじゃないですか。これじゃ結果しか分かりませんよ」
「ごちゃごちゃ五月蝿いわね。結果が分かればそれで充分じゃないの。世の中はね、結果が全てなのよ」
「そんなこと言って、本当は説明が面倒くさいだけですよね。もうすっかり味を占めちゃってるじゃないですか。あまりにも雑過ぎですよ」
「雑だろうが何だろうが、そんなこと知ったこっちゃないわ。いい? 世の中はね、結果が全てなの。だからこそ、結果が全てなのよ」
「なんで同じ事を2回言ったんですか。ていうか、これじゃ『だからこそ』の意味がまったく分かりませんよ。ただ同じ事を2回言っただけで、何の理由付けにもなっていないじゃないですか」
「あら、アンタ知らないの? これが世にいう『進次郎構文』ってやつよ。つまり、『進次郎構文』よ」
「同じ事を繰り返されると、何だか聞いててイラッとしますね」
「なに言ってんのよ。復唱するのは大切な事だからね。客からのオーダーを復唱するのは、飲食店のバイトでは基本中の基本よ」
「誰が飲食店のバイトの話をしてるんですか。それに今は、タッチパネルを客が自分で操作してオーダーする店が一般的ですよ」
「大手チェーン店ならそうだけど、そうじゃない店もまだまだ多いのよ。って、今はそんな事どうだっていいでしょ」
「アンタが言い出したんだろ」
「でも、さすがは小泉進次郎だわ。こんな構文を堂々と使ってみせるんだから。そのうち世の中みんなが同じ事を2回言う時代が来るかも知れないわね。世の中みんなが同じ事を2回言う時代が」
「そんなの、ただウザいだけじゃないですか」
「それはそうと、せっかくアタシが美濃を統一したのよ? アタシに仕える家臣として、賞賛とか賛辞とか、そういう言葉は無いわけ?」
「そういうのは自分から欲しがって言わせるものじゃないと思いますけどね。まぁでも、これで殿がかねてより欲しがっていた念願の美濃が手に入りましたからな。この恒興、心よりお慶び申し上げます。殿にとっても、この喜びはひとしおに御座りましょう」
「ええ、もちろんよ。美濃の統一は、父上の代から続く織田家の悲願だったからね。でも、それだけじゃないわ。アタシにとっての美濃統一は、誰よりもアタシの才を見込んで美濃を譲ると言ってくれた、今は亡き舅殿、美濃のマムシと呼ばれた斎藤道三殿へのレクイエム、ちんこ歌でもあるのよっ!」
「鎮魂歌ね」
「でもさー、美濃を奪ったのはいいけれど、アタシ、本当はミノよりハラミの方が好きなのよね。あ、お嬢ちゃん、ハイボールおかわり!」
「私はどちらかと言えば、ハラミよりカルビの方が脂が乗ってて好きですけどね。あ、お姉さん、こっちもレモンサワーおかわり!って、おい。そのミノじゃねぇ。ここは焼肉屋か」
「いちいちボケに乗っかるアンタもどうかと思うけどね。ところでアタシ、いい事を思い付いたわ」
「何に御座りますか」
「稲葉山城の名前を変えるのよ。稲葉山とか、ダサいと思わない? 力士の四股名かっつーの。それに稲とか葉とか山とか、字面が田舎っぽいのよ。オシャレじゃないっていうかさ」
「そうやって田舎の人を敵に回すような発言はやめてもらっていいですかね。尾張だって似たようなもんでしょ」
「アンタのその言い方だと、尾張も田舎だって言ってるのと同じだからね」
「いえ、決してそのような意図では……」
「とにかく、アタシは稲葉山城っていう名前が気に入らないのよ。だから城の名前を変更する事にしたわ」
「ではどのような名前にするのですか?」
「イナバウアー城よ」
「何ですかそれ。聞いた人が思わずのけ反っちゃいそうな名前じゃないですか。ていうか、それじゃ稲葉山城と大して響きが変わってないですよ」
「何でよ。カタカナ表記でオシャレじゃないの」
「もっとまともな名前を付けられないんですか?」
「アンタならそう言うと思ったわよ。だから別の名前も用意してきたわ。城の名前はズバリ、ギフ城よ」




