乳首かじり虫
「のう、御前。また吉法師が乳母の乳首を噛み破ったそうじゃの」
「ええ。そう聞きました。これで3回目ですわ」
「まったく、何なのだろうな、この子は。本当にワシの子なのであろうの?」
「当たり前じゃないの、失礼ね。どう見てたってアンタにそっくりの顔してるでしょーが」
「とてもワシに似ているとは思えないがのぅ。もしかすると、乳首かじり虫かも知れぬな」
「自分の子を虫扱いですか。ていうか、そんな虫の名前は初めて聞きましたよ」
「あ、いや、こっちの話じゃ。それにしても、本当にワシに似ているのかの?」
「似てますよ。自分の顔と見比べてみなさいよ」
「この時代の鏡は、銅の鏡じゃからのぅ。自分の顔がはっきり見えぬのじゃ」
「この時代の、って……」
「それにまぁ、顔はともかく性格がの。乳母の乳首を噛み破るなんて、空恐ろしくて肝が冷えるわい。いや、肝が冷えるっていうか、金の玉がヒュンってなる感じじゃな。俗に言うタマヒュンってやつじゃ。ジェットコースターが急降下をし始めたときの、あの感覚じゃの」
「いい年齢してタマヒュンとか言わないでくれる? 恥ずかしくないわけ?」
「ある意味この年齢だからこそ、別に何とも思わないって感じかの。むしろ男としては、女の乳首の扱い方を知らない方がよっぽど恥ずかしいことじゃて。何しろ乳首はデリケートじゃからの。噛むにしても、もっと優しく噛まないと。ていうか、乳首を攻める際は、吸ったり舐めたり舌で転がしたりするだけで充分だから、噛むのは感心できんのう。あと、女性の乳首を吸うときは、ひたすらチュウチュウ吸ってはいかんのじゃ。何ていうか、こう、チュパッ、チュパッ、と抑揚をつけてじゃな……」
「おい! 誰もアンタのテクニックなんか聞いてないわよ。何がチュパッ、チュパッよ。気持ち悪いわね。それに、赤ちゃんがそんなテクニックを使えるわけないでしょ」
「ま、それはそうじゃがの。ともかく乳母の乳首を噛み破って口に入れるとは驚きじゃ。これが本当のウーバーイーツじゃの」
「なにバカなこと言ってんのよ。ってかアンタ、最初からそれが言いたかっただけでしょ」
「やはりバレてしまったか。実はそうなんじゃ」
「まったく……。まぁでも、これで悪い噂が広まってしまったから、もう誰も吉法師の乳母を引き受けてはくれないでしょうね。私もほとんど母乳は出ないし……」
「心配するでない。ワシが毎日毎晩、お前の乳首をひたすら吸って舐めてやるからの。そのうち母乳も出るようになるじゃろて」
「ちょっと、気持ち悪いことを言わないでくれる? このエロオヤジ」
「冗談じゃ。ワシとて今さらお前のヤニ臭い陥没気味の乳首など吸いたくもないわ。だがまぁ心配するな。ちゃんとアテはあるからの」
「いったい誰に頼むつもりなんです?」
「お徳じゃよ。ちょっと前に、無事に池田恒利の子を産んだそうだからな。吉法師にも母乳を分けてもらうことにしよう」
「嫌がられませんか?」
「主君に命令されれば家臣は断れんからの。何ならついでにワシもお徳の母乳を味見して来ようかの」
「いっその事、ついでに斬り殺されてこいよ」