雑記(2)
発言全体の流れから、僕はこのときの彼女の発言を次のように理解した。
「(私は男の身長が)170(cm以上)無いと、正直(に言えば)人権(が)無い(というくらいに思っている)んで」
( )が多くて読みづらいから書き直す。
彼女はこう言っていたのだ。
「私は男の身長が170cm以上無いと、正直に言えば、人権が無いというくらいに思っているんで」
彼女の発言は、このような表現を省略したものだ。
(この程度の意味の補完は即座に出来るようでなければならない)
この表現は端的に、彼女の心境と彼女の男に対する好みを表現していると思う。
そして、実に正直な表現だと思う。
彼女の苛立ちがダイレクトに伝ってくる。
では、彼女の正直な発言に敬意を表して、僕もこの発言を聞いた正直な感想を書いておくことにしよう。
「ふーん、そうなんだ」
もしも喫茶店かどこかでテーブルを挟んだ状態で、彼女が目の前でさっきの発言をしたとしたら、僕はこう感想を言った後、ストローでも咥えてアイスコーヒーを飲みながら、窓越しの景色を眺めているであろう。
そして僕は、内心こう思っているだろう。
「そう思ってるなら、そう思っておけばいいんじゃないの?」と。
だが背の低い男は、こう言って怒り出すのだ。
「身長が170cmないと人権が無いとは何事だ。背が低い男をバカにしているのか。謝罪しろ」と。
結果的に彼女のこの発言は暴言とされ、彼女は所属チームから解雇されることになった。
いちおう断っておくが、僕は「身長が170cm無い男には人権が無い」という主旨の発言に同意はしていない。
同意はしていないが、特に怒りも感じなければ侮辱とも感じない。
僕の身長は180cm近くあるので、彼女からは何とか男として、あるいは人間として見てもらえそうであるが、仮に僕の身長が低くて、彼女の言う人権が無い対象に含まれていたとしても、おそらくは別に何とも思わない。
こういった表現は言葉のアヤであって、そもそもあの流れでこの話が出てきた時点で、文脈から「それほど彼女にとっては身長170以下の男は恋愛対象にならない、眼中に無いんだな」という意図が汲み取れなければお話にならない。
もしも本気でそういった意図を汲み取る事が出来ず、ただ身長170cm以下の男を侮辱しているだけ、という理解しか出来ていないのだとしたら、そっちの聞き方の方がよほど問題がある。
言い方に棘があって毒舌なのは確かだが、彼女が言っていることは、「私は背の低い男は眼中に無いし、付き合うとかマジで無理。どのくらい眼中に無いかというと、そいつらには人権が無いと言えるくらい」という事を言っているのであって、あり得ないというレベルを表現するために、大げさに語っているだけのことだ。
こういう形容表現は日常的に使われているはずであり、ちょくちょくそういった毒舌を挟んでくる人の話の方が、僕は聞いていて楽しいと思う。
おそらく彼女は、仲間内でも日常的にそういった表現を使って話している人物なのであろう。
また、普段その話を聞いている周りの人たちも、そういう表現を面白がって聞いているであろう。
だからこそ、つい普段の調子で話してしまい、ああいった発言が表に出ることになってしまったのだろう。
(補足しておくが、彼女がこの発言をしたのはメンバー限定の動画内であり、つまりは仲間内の話である。発言を一般者にまで広く晒されて叩かれる事は、彼女にとって不本意であったろう)
僕には彼女の話した内容が、他愛の無い毒舌としてしか耳に入らない。
彼女とて、道を歩いていて身長が170cm以下の男を見るたびに「お前らに人権は無いんだから、身長を伸ばすか、さっさと死ね」なんて、いちいち突っかかって行く訳でもあるまい。
こんな他愛の無い毒舌に、「謝罪しろ」なんて本気で言っているのか。
むしろ、「へー、『骨延長手術』なんてあるんだ。知らなかったな」とか「骨延長手術、いいね!」なんつって、いいねボタンでも押しときゃいいと思うんだが。
実際、骨延長手術を行なっている整形外科などは、いい宣伝になったんじゃないかと思う。
テレビのCMでも、「Yes! 何とかクリニック!」とか、「なんちゃら美容外科〜♪」とかやってるわけだから、それっぽいどっかの整形外科が彼女のスポンサーになってあげたらよかったのにと思う。
ついでに、「人権だけで満足ですか? 〇〇整形外科」とか、「男は黙って170」などと挑発的なキャッチコピーでも打って、骨延長手術をアピールしたら面白いと思うんだけど。
まぁ半分は冗談だが、僕に言わせれば、冗談の通じない人の方がよっぽど人権への配慮が足りてないんじゃないかと思う。
そもそも、ゲーマーに「人権が無い」と言われたからといって、即座にその人の人権が無くなるわけではないし、将来的にその人の人権が脅かされるわけでもない。
一体それの何が問題なのか。
彼女は政治家でもなんでもなく、プロゲーマーなのである。
すなわち、実害は何もない。
なのに、それを伝え聞いた身長の低い男が、「聞いた俺が不愉快になった。どうしてくれるんだ。謝れ」と言って騒いでいるのである。
彼女に代わって、僕が答えてやる。
「知るかよ」
「人権が無い」なんて、なかなか気の利いた言い回しじゃないか。
「死ね」とか「ムカつく」などと言う貧弱な語彙しか持ち合わせていない連中よりは、よほどまともである。
どのくらい前かは忘れたが、「〜する資格は無い」とか、「〜する権利は無い」という言い回しがよく聞かれた時期があった。
「お前にそんな事を言う権利は無い」とか、「そんなやつに生きる資格は無い」とか。
僕は「人権無い」という表現は、こういった表現と類似した表現として理解している。(より誇張された表現になってはいるが)
こういう言い回しが出来る人の話は面白い。
立川談志やビートたけし、爆笑問題の太田光なんかと同じ匂いを感じる。
それに、自分が言いたい事を遠慮して黙っていたり、無理やり表現を変えて本来自分が伝えたいニュアンスで伝わらないくらいなら、彼女のように、本当に思った通りに包み隠さず言ってもらった方が、それを聞いた周囲の男も分かりやすくていいと思うんだが。
「もしかしたら彼女と仲良くなって付き合えるかも」と期待している身長170以下の男と、「170以下の男なんか眼中に無ぇんだよ」と思っているプロゲーマーの女とが、腹の探り合いをしながらどんなに話したところで、お互いにとって不毛な時間を過ごすだけであろう。
(当然だが、「不毛」という言葉はハゲを侮辱した表現ではない)
これは素朴な疑問なのだが、しょうもない事にクレームを付けてくる人たちは、そうやって過剰に反応してクレームを付ける事が、かえって自分を貶めているんだという事にどうして気付かないのだろう。
例えば、不毛という言葉を「毛が無い人に対する侮辱」だと感じる人とは、「毛が無い状態を恥ずかしい」ことだと理解している人である。侮辱と感じるのは「そう言われて恥ずかしい」とか「そう言われたくない」という意識を聞く側が持っているからだ。
例えば、毛が無い事を誇りに思っている人や何とも思っていない人が、「不毛」と聞いてそれを侮辱の言葉として理解するだろうか。
太っている自分に満足している人が、誰かに「太っている」と言われて腹を立てるだろうか。それを侮辱と感じるだろうか。
そんなはずは無い。
「バカは正直、人権無いんで」と聞いたバカは怒るだろうが、「天才は正直、人権無いんで」と聞いた天才は怒らないし、侮辱とも感じない。
「貧乏人は正直、人権無いんで」と聞いた貧乏人は怒るだろうが、「金持ちは正直、人権無いんで」と聞いた金持ちは怒らないし、侮辱とも感じない。
それは、例えば韓国人がどれだけ日本人をバカにした発言をしようが、日本人は自分たちが総合的に韓国人より優れていることを自覚しており、またそれを内外にわざわざ説明する必要すら感じないほど両者には差がある事も知っているので、彼らが何を言おうが負け犬の遠吠えとしてしか耳に入らず、黙って聞き流しているのと同じことである。
早い話が、彼女の発言を侮辱と捉える人たちは、自己肯定感が低いために背が低い事がコンプレックスになっており、彼女の発言によって自己の存在が脅かされたと感じている人たちなのである。
実際には、彼女が彼らを怒らせたのではなく、彼女の話を聞いて、彼らが勝手に怒り出したのだ。




