お市の輿入れ(浅井長政との結婚)
「ちょっと、お市。アンタに話があるから、ここに座ってちょーだい」
「兄上、どうなさいましたか?」
「ちょっと頼みたい事があるのよ。アンタにしか出来ない事なの」
「何に御座りましょう」
「アンタ、浅井長政と結婚してくんない?」
「えっ? 何故に御座りますか。理由を聞いても?」
「美濃を攻めるためよ」
「美濃と言えば、たしか帰蝶お義姉さまの故郷でしたよね」
「そうよ。今は斎藤龍興が美濃を治めているわ。ここを取らないと、アタシのTENGA取り、じゃなかった天下取りは始まらないのよ」
「それが私と浅井長政様との結婚と、どう繋がるんです?」
「アンタ、そんな事も分からないの? いい? 長政が居る北近江と、斎藤龍興が居る美濃とは隣国同士なのよ。アタシが美濃を攻める前に両国が同盟を結んじゃったら、尾張一国で美濃と北近江の軍勢を相手にしなくちゃいけなくなるじゃないの。だから彼らが手を結んじゃう前に、先手を打って長政と手を結んでおく必要があるって事よ」
「つまり、政略結婚という事ですか?」
「一言で言えばそうなるわね。まぁでも今はそうかも知れないけどさ、好きになっちゃえば結果としては恋愛結婚と変わらないでしょ。長政はイケメンだから一緒に居るうちに好きになるわよ」
「そんな……」
「まぁそう気にしなさんな。好きになるのが先か、結婚するのが先かの違いでしかないでしょ。アヒルが先かフォアグラが先かの違いみたいなもんよ」
「そんなのアヒルが先に決まってるじゃないですか。フォアグラからアヒルは産まれてきませんよ」
「あれ、そうだっけ?」
「そうですよ。フォアグラは肝臓ですからね。肝臓からアヒルが産まれるわけ無いじゃないですか。それを言うならニワトリが先か卵が先か、でしょ」
「さすがはお市というだけあって、イチイチうるさいわね。まぁ要するに『出来ちゃった結婚』みたいなもんよ。言ってみれば、『結婚しちゃった結婚』みたいな感じ?」
「何ですか、それ。それじゃただの早まった結婚じゃないですか」
「いいのよ、それで。早まって結婚するくらいじゃないと、いくら美人のアンタでも行き遅れちゃうわよ? 『もっといい相手が見つかるはずだ』『もっとお金持ちの相手がいい』なぁんて選り好みしてるうちにどんどん歳を取って、歳を取った分だけ余計に高望みしたりするからもっと結婚しづらくなって、そうこうしているうちに若さと美しさが失われて、誰にも見向きもされなくなって、結局いっちもにっちもさっちも行かなくなっちゃうのよ」
「いっちもは余計でしょ」
「とにかくね、結婚相談所にはそんな女が溢れかえってるわよ。もうちょっと現実を見ろっつーの」
「結婚相談所……? 一体なんの話をされているんです?」
「いや、だからさ。ともかくアタシはアンタに長政の嫁に行って欲しいのよ。長政と言うだけあって、彼のあそこは絶対長いはずよ」
「今そんな話はしていないでしょう。それに、長政様は長男じゃないですか。長男と結婚するなんて、きっと苦労するに決まってるわよ。相手の両親の老後の面倒も一緒に見なくちゃいけないし……。どうせ結婚するなら次男とか三男がいいわ」
「なに平成初期のOLみたいなこと言ってんのよ」
「OL? OLとは何ですか?」
「うるさいわね。とにかく、この戦国時代に女の言い分が通用するわけないでしょ。観念してアタシの言う通りにしなさいよ」
「でも私、身長が170cm無い男は無理だから。男は170無いと人権無いんで。170を超えてから人権が生まれてくるんで。170無い男は、骨延長手術っていうのがあるから、それで170以上に身長を伸ばしてくれないと」
「アンタ、発言がプロゲーマーっぽいわね。まぁでもその辺は大丈夫よ。長政は身長が180あるからね。背が高いアンタとはきっとお似合いのはずよ」
「……」
「悪いけど、お市。そういう訳だから、お市だけに、イチニッサンバ、ニイニッサンバでお嫁にGo!してくれない?」
「それ、郷ひろみの『お嫁サンバ』じゃないですか」
「あら、よく知ってるわね。OLは知らなかったのに」
「そりゃ自作自演ですからね」
「シレっとそういうこと言わないでくれる? 営業妨害する気?」
「兄上こそ、電車でGo!みたいな言い方しないで下さいよ。まぁでも兄上がそこまで言うのなら、もう何を言っても無駄なのでしょうね。仕方ありません。これもこの時代を生きる女子の宿命に御座りましょう。ただし長政様が浮気でもしようものなら、私、毒入りリンゴを食べさせて殺してしまうかも知れませんよ?」
「ちょっとぉー。それじゃあ本当に『林檎殺人事件』になっちゃうじゃないの。フニフニフニフニ、あぁ悲しいねー悲しいねー♪、と」
「結局、最後は昭和ネタじゃないですか」
「えっ? そうなの? アッチョンブリケ!」
「だからそれが昭和ネタだって言ってんの!」




