松平元康との同盟
「信長殿。先日の桶狭間でのご勝利、誠にお見事に御座りました。この松平元康、心から感服致しました」
「なーに調子のいいこと言ってんのよ。アンタ、今川に付いてこの尾張に攻め込んだくせに」
「仕方がなかったのです。もしも今川に逆らっていたら、松平家などとっくに取り潰されてしまったでしょうから」
「冗談よ。アンタの事情は私もよく知ってるわ。吉法師と竹千代の仲だったじゃないの」
「それは元服前のことに御座りましょう。今では織田信長殿と松平元康に御座ります」
「そんな水くさいこと言わないでよ。アタシ、またタケちゃんマンがピコピコハンマーでブラックデビルを叩いてるところが見たいわ」
「自分、タケちゃんマンなんて呼ばれた事ないですし、ピコピコハンマーで人を叩いた事も無いですよ。っていうか、タケちゃんマンと竹千代って、タケしか合ってないですよ。人違いじゃないですか?」
「そうだったかしら。昔の記憶はアテにならないわね」
「ところで信長殿。折り入ってご相談があるのですが」
「あら、なぁに? もしかして合コン?」
「はい。今度の新入社員は美人を揃えましたからね。何と言っても人事課課長代理の私が外見オンリーで選びましたから」
「あら素敵。社内合コンって事? まったくしょうがないわねー。課長代理にもなって、まだそんな事やってんの? もしかして肉食系男子?」
「肉食系男子かどうかは分かりませんが、強いて言えば雑食系男子ですかね。私は歳の差も身分の差もあまり気にしないですから」
「あら、アグレッシブね。これはアタシも負けてらんないわ。バイアグラの力を借りて頑張っちゃおうかしら。でも純正のバイアグラは医者の処方が必要だから、ここはバイアグラのジェネリックを個人輸入するしかないわね。VIGOREとかKAMAGRAとかさ。いざ、KAMAGRA。なんちゃって」
「殿! フザけてる場合じゃないですぞ。あと、元康殿も殿の戯言に乗っからないで下さいよ」
「何よ、恒興。せっかく盛り上がってるのに水を差すんじゃないわよ」
「あ、いや、ごもっとも。この元康、確かにフザけ過ぎておりました。ご相談というのは、信長殿との同盟に御座ります」
「えっ? 同盟っ!?」
「そんなに驚かれると、こっちが驚いちゃいますよ」
「アタシと手を組もうって事?」
「その通りに御座ります」
「手を組むって、どうやって? 恋人繋ぎ?」
「誰が手を繋ぐって言ったんですか。私は手を組むって言ったんですよ。しかも信長殿と恋人繋ぎとか、キショ過ぎてドン引きですよ。腐女子向けのBLみたいじゃないですか」
「何なら、大しゅきホールドで繋がってもいいわよ」
「絶対イヤですよ」
「何よ、そんなに毛嫌いしなくたっていいじゃないの。タケちゃんマンのくせに。アタシに向かってキショいとか絶対イヤとか、もしかしてオカマを差別してんじゃないの? LGBTを尊重しましょう、っていうのが昨今のトレンドなんだからね」
「何ですか、そのLGBTってのは」
「えーっ! そんな事も知らないの? Lはレタス、Bはベーコン、Tはトマトでしょ」
「それ、BLTサンドと間違ってませんか?」
「あれ? これだとGが抜けてるわね。Gって何だっけ。ゴーヤ? ゴボウ? まさかゴキブリ!?」
「そんな訳ないでしょ。ゴキブリを挟んだサンドイッチなんて提供したらすぐに営業停止ですよ」
「あら、近年では昆虫食が注目されているのよ? ちょっと前にコオロギパウダー入りのパンを給食に出したとか、そんな話があったでしょ。ゴキブリだって昆虫なんだから、衛生的に育てれば食用になるのよ。デュビアとかって聞いた事ない?」
「誰が昆虫食の話をしてるんですか。今はそんな事どうだっていいでしょ。そうではなく、我らは不戦同盟を結んで共に外敵に立ち向かいましょうと言っているのです」
「外敵って誰? ブラックデビル?」
「ですから殿。さすがに古すぎて、そのタケちゃんマンのネタには誰も付いて来れませんぞ」
「何でよ、恒興。ビートたけしも明石家さんまも、知らない人なんて居ないでしょーに」
「ビートたけしと明石家さんまは知ってても、タケちゃんマンとかブラックデビルは知らないの! 完全に昭和のネタじゃないですか」
「まぁいいわ、タケちゃんマン。それじゃあアタシと同盟を結びましょう。アタシは京へ上る事しか興味無いからね。尾張から東なんてどうでもいいのよ」
「(タケちゃんマンじゃないんだけどなぁ……)それでは尾張から東は我らが固めましょう。信長殿は心おきなく西へ向かって下さい」
「分かったわ。じゃあアタシは手始めに美濃を奪ってから京を目指すわね」
「では私は今川の領地を切り取りながら、東を目指します」
「負けずにアタシだって、ニンニキニキニキ西へ行くわよ! 西にはあるんだ夢の国♪ってか」
「それ、ドリフターズの「飛べ、孫悟空」じゃないですか。西遊記のパロディ人形劇で、いかりや長介が三蔵法師だったやつ……」
「あら、よく知ってるわね」
「だーかーらーっ! 読者が付いてこれない昭和のネタは止めろって言ってんだろ、このオカマ野郎」
「つ、恒興殿の口調が怖すぎる……」




