桶狭間の戦い(3)
「信長様に申し上げます! 今川義元、桶狭間にて休息中! 兵はすでに鎧を脱いで、酒宴を開いている模様!」
「えっ? 今川義元が酒宴を開いているですって? 酒の肴は何かしら」
「どこに食いついてるんですか。そんなの何だっていいでしょ。おのれー、義元め。このような戦場で……。織田家もずいぶん舐められたものですな。殿! これは今川義元に打ち勝つ、千載一遇のチャンスに御座りますぞ」
「そうよね、恒興。こんなフザけた相手には意地でも負けられないわ」
「同感です、殿」
「いい? これは絶対に負けられない戦いなんだからね?」
「何だかテレ朝の煽り文句みたいですね」
「何よ、それ。余計な事は考えずに気合い入れて行くわよ!」
「もちろんです。我らが織田軍の意地を見せてやりましょう」
「当たり前じゃないの。こっちも負けずに派手な酒宴を開くわよっー!」
「よーし、そうこなくっちゃ! 今日はとことん飲むぞー!って、おい。酒宴で張り合ってどうすんだ」
「あら、ノリツッコミなんていつ覚えたのよ、アンタ」
「今はそんな事どうでもいいでしょ。グズグズしてないでさっさと突撃命令を出しやがれ、このオカマ野郎」
「アンタ、口も悪くなったわね」
「それも後で聞きますから。まったく、殿が寄り道をしたり、グズグズとしょーもない冗談を言い続けるから、雨が降り始めてきちゃったじゃないですか」
「あら、本当ね。ていうか、何でこんな急に土砂降りになってんのよ。アタシ、傘なんて持ってきてないわよ?」
「そうやって殿がいちいちボケをカマすから、天気が変わっちゃうんじゃないですか。これから突撃するのに傘なんて必要ないでしょ」
「そうやって、いちいちツッコミを入れてくるアンタも同罪じゃないの?」
「とにかく今はグズグズしてる場合では御座りません。殿が行かないのなら、私が今川義元に奇襲を仕掛けて参ります」
「ちょっとぉー。なに一人で抜け駆けしようとしてんのよ。戦端を開くのは、このアタシなんだからね! あ、戦端で思い出したけど、アタシは乳首の先端が一番気持ちいいの」
「そういう余計なカミングアウトも後にしてくれませんか?」
「うるさいわね。分かったわよ。それじゃ早速、今川義元がいるOK狭間に突撃をかけるわよ!」
「OK狭間じゃなくて、桶狭間ね。OK牧場みたいに言ってますけど」
「もちろん、わざと言ってんのよ」
「だからそういうボケは要らないって言ってんだろ。分かんない人だな」
「そんなに言うなら、もうボケないわよ。ところで恒興、桶狭間ってどこ?」
「ほらー、やっぱり知らないんじゃないですか。桶狭間と言えば、ここからすぐ下に見えている谷間の先にある場所ですよ」
「すぐ下に見えている谷間って、何だか興奮するわね」
「それ、アンタだけだから」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も。とにかく、仕掛けるなら今がチャンスです。この大雨で下がビチャビチャですから、敵は足を取られて思うように身動きが取れませんからね」
「下がビチャビチャって、なんかエロいわね」
「さっきからどんな連想してんだ、アンタは」
「どんな連想でもいいでしょ。それじゃあ行くわよ。それーっ! 突っ込めー!」
「オカマから『突っ込めー』って言われても、それはそれで何か微妙なんだよなぁ……」
「恒興殿。考えたら負けですぞ」
「おお、確かにそうであった。よし、では我らも参るぞ。それーっ!目指すは今川義元の首ただ一つ!雑魚に構うな!此度の報償は討ち取った首の数にあらず!義元が首を取った者にのみ与えられると心得よ!」
「あのー、それって本当は信長様が言うセリフじゃ……」
…………
…………
「殿! 毛利新介なる者が見事に今川義元を討ち取りましたぞ! これが義元の首に御座ります!」
「よくやったわ! おのれー、今川義元。よくもアタシの領地に攻め入ろうとしてくれたわね。ほんっと、ムカついちゃうわよね。こうなったら、今川義元の首から頭蓋骨を取り出して金箔を貼って盃を作って、そこにお酒を注いで飲み干してやるんだから!」
「それ、歴史的にもうちょっと後の話だから。あと、今川義元の首でそれをするのは止めてもらっていいですかね。紛らわしいんで」
「じゃあもう、こうなったら今川義元を骨だけになるまで徹底的に焼きまくって、残った骨をまとめて土の中に埋めてやらなきゃ気が済まないわ」
「それ、もはや普通の火葬じゃないですか。むしろ手厚く葬っちゃってますよ」
「ごちゃごちゃと五月蝿いわね。とにかく両面きっちりと焼くのよ。これが本当の今川焼き。なんちゃって」
「アンタ、最初からそれが言いたかっただけだろ」




