桶狭間の戦い(2)
「あ、そうだ」
「如何なされましたか、殿」
「ちょっと戦勝祈願をしに寄りたい所があるから、先にそっちへ行く事にしましょう」
「どこへ向かわれるのですか?」
「熱田ジンジャーよ」
「それ、ジンジャーと神社を間違えてませんか? ジンジャーエールを省略したような言い方してますけど」
「そういえば昔、喫茶店でよく耳にしたことがあるわ。ワンジンジャー、ワンオーレとか。あ、ワンオーレっていうのはカフェオレを一つって意味だから。ていうか、熱田ジンジャーじゃなかったの?」
「どう考えても神社でしょ。むしろジンジャーだと思ってる方が驚きですけどね。ていうか、そもそもあそこは神社じゃなくて神宮だから」
「ジンジャーじゃなくてジェンガ?」
「ジェンガじゃねーわ。ジェンガだったらすぐに崩れちゃうだろ」
「あら、そのツッコミ、角野卓造みたいね」
「角野卓造じゃねーわ。って、そのボケもおかしいだろ。角野卓造はツッコミ担当じゃねーから」
「うるさいわね。間違いは誰にでもあるわよ」
「そんな間違い、誰もしませんよ」
「ていうか、こんな所で言い争ってる場合じゃないわね。早く熱田ジャングルへ行かなくちゃ」
「ジャングルでもねーわ。川口浩か」
「そのツッコミが分かる読者は少ないんじゃないの?」
「そんなこと気にしてる場合ですか」
「最近アタシ、読者層にも配慮が必要かなって思うようになったのよ。だからやり直し」
「そんな必要ないでしょ」
「アタシがやり直しって言ってるんだから、アンタは素直にやり直せばいいのよ」
「はいはい、そうですか。分かりましたよ」
「ていうか、こんな所で言い争ってる場合じゃないわね。早く熱田ジャングルへ行かなくちゃ」
「ジャングルじゃねーわ。熱帯雨林か」
「そうそう、そんな感じ」
「どうでもいいから、さっさと熱田神宮へ行きましょう。これじゃ話がちっとも進みませんよ」
………
………
「ふぅ、ここが熱田ジャングルかぁ……」
「まだ言いますか。だからジャングルじゃなくて神宮って言ってんだろ。がっつり人の手が入った建築物だって、見れば分かるじゃないですか」
「冗談よ。知っててボケてんのよ。じゃあアタシはさっそく戦勝祈願のお参りをしてくるわね」
「チクニーした後で、よくそんな気になれますね」
「そりゃあ賢者タイムだからね。あとアンタ、あんまりチクニーチクニーって連発しないでちょーだい。大勢の中高生がSNSで『#チクニー』なんてハッシュタグを付けてツイートしたりなんかして、Yahooなんかで急上昇ワードにチクニーって出てきちゃって、最終的に流行語大賞まで取っちゃったら末代までの恥だわ」
「そんなパワーワードを流行語大賞の選考委員が選ぶわけ無いでしょ」
「それとか、ChatGPTで大勢の人が『チクニーを分かりやすく説明して下さい』なんて質問し始めて、AIがやたらとエロ用語に詳しくなっちゃって、そのせいでAIにおかしな自我が芽生えちゃったらどうすんのよ」
「知りませんよ、そんな事」
「まぁいいわ。とりあえずアタシはお参りしてくるから、アンタはその辺で甘酒でも飲んで待っててちょーだい」
「こんな時間に売ってねーわ。初詣か。それより、殿だけ一人で行かせるのは心配だから私も行きますよ」
「なんでアンタが付いてくんのよ。こっそりこのままアタシだけ逃げちゃおうと思ってたのに」
「この期に及んで何を言ってるんですか。絶対逃しませんからね」
「逃げないわよ、失礼ね。冗談に決まってるでしょ」
「本当かなぁ」
…………
…………
「ふう、やっと本殿に着いたわね」
「殿。正しい作法は二礼、二拍手、一礼ですからね」
「分かってるわよ。まずは2回礼をして、と。次は……二ハクシュ? 2回くしゃみをすればいいのかしら。ハクシュッ! ハクシュッ! うーん、カトちゃんみたいに上手く出来ないわね」
「まさか殿、ハクシュをくしゃみだと思ってないでしょうね」
「え? 違うの?」
「違うに決まってるでしょ。ニ拍手ってのは2回手を叩くの!」
「なら最初からそう言いなさいよ。はい、パン、パンと。本当はライスの方がいいけど」
「何をごちゃごちゃ言ってるんですか。それよりちゃんと祈願して下さいよ」
「うるさいわね。祈ればいいんでしょ。……アタシが今川義元に勝てますように。あと、口うるさい恒興が戦死しますように」
「ヘクシッ! ヘクシッ!」
「ちょっと、アンタが2回くしゃみしてどうすんのよ」
「いや、急に鼻の中がムズムズしてきまして。誰かが私の噂をしているのやも知れません」
「こんな時間に誰がアンタの噂なんてするのよ。あ、そうそう。最後に一礼、と。よーし、これでバッチリ祈願できたわ」
「そうですか。では、もう思い残すことは御座りませぬな」
「いいえ、あと一つだけやり残した事があるわ」
「何ですか、それは」
「おみくじはどこで引けばいいのかしら?」
「初詣か」




