信長とあ乳盛
「人間五十年〜。アーチチアーチチ……」
「殿。上半身を裸にして、いったい何をしておられるのです?」
「あら、誰かと思えば恒興じゃないの。これは『あ乳盛』よ。下天のうちを比ぶれば〜。アーチチアーチチ」
「何なんですか、その『あ乳盛』ってのは。敦盛なら聞いた事ありますけど」
「聞いたことあるって……アンタ、ずいぶん遅れてるわね。『あつ森』って言ったら、今どき知らない人なんて居ないわよ。任天堂スイッチの超有名なゲームじゃないの」
「誰が『あつまれどうぶつの森』の話をしてるんですか」
「アタシ、スイッチは持ってないけどDSで相当やり込んだわよ。しずえさんがいつもニコニコしてて可愛いのよね」
「そうですね。たぬきちも可愛いですよね……って、おい。そうじゃないだろ」
「アンタが『あつ森』って言い出したんでしょ」
「私は敦盛って言ったんですよ」
「あら、そうなの?」
「そうに決まってるでしょ。殿が『あ乳盛』とか言うから、敦盛なら聞いた事があるって言ったんですよ」
「だったら最初からそう言いなさいよ」
「最初からそう言ってるじゃないですか」
「まぁいいわ。『あ乳盛』っていうのはね、敦盛をアタシなりに改良したものなのよ。ただの敦盛じゃ、面白くもなんとも無いからね」
「また余計なことを……。ていうか、敦盛って面白がってやるものじゃないでしょ」
「そんな事、誰が決めたのよ。何をやるにしても、どうせやるなら面白い方がいいに決まってるじゃないの。そりゃ真面目にやるのもいいけどさー、面白い方がアタシの好みっていうか、アタシのテンションが上がるってことよ。あ、最近はテンションって言わないでバイブスって言うんだっけ? まぁそんなのどっちだっていいけどさ。とにかくアタシは、これを歌って舞っていると気分がどんどん高まってくるのよ。夢幻の如くなり〜。アーチチアーチチ」
「あのー、さっきから気になってるんですけど、そうやって歌の途中に入る『アーチチアーチチ』っていう掛け声は何なんですか?」
「アンタ、そんな事も分からないの? そんなの『あ乳盛』だからに決まってるでしょ。ソーラン節だって、ソーランソーランって言うからソーラン節なんじゃないの。それと同じで、あ乳盛だからアーチチアーチチって言うのよ。あれ? アーチチアーチチって言うから『あ乳盛』なんだっけ?」
「どっちでもいいですよ、そんなこと。あと、何なんですか? その変な動きは」
「えっ? もしかして恒興、『あ乳盛』に興味があってアタシに教えてもらいたい感じ? しょうがないわねー。じゃあ特別に教えてあげるわよ」
「いや、べつに教わりたい訳では……」
「まず最初に上半身だけ裸になるの。ほら、さっさと上着を脱いで」
「はぁ……(誰も教えてなんて言ってないのに……)」
「あ、下は脱がなくていいからね?」
「絶対脱ぎませんよ」
「じゃあ、まず両手でパーを作って、手のひらを自分の方へ向けるの」
「手を開いて、両手の手のひらを見ればいいんですね」
「次に両手とも、人差し指と中指だけをくっつけるの。『カトちゃんぺ』みたいな感じで」
「今どき『カトちゃんぺ』で伝わりますかね? なぜか私には伝わりますけど」
「そんなの気にしたら負けだわ。ていうか一時期、女の娘がピースサインをするときに、今みたいに人差し指と中指をくっつけるのが流行ってたわよね。最近は一周回って、またジャンケンのチョキみたいなポーズに戻ってる感じだけど」
「はぁ……」
「あ、こっちの話よ。そしたら、その状態で両脇を開いて肘を持ち上げるの。肘から中指の先端までが地面と水平になるようにね」
「なるほど。後ろから誰かを目隠しする時のような体勢ですね」
「そう。それが出来たら、右手の中指で自分の右の乳首を、左の中指で自分の左の乳首を、それぞれ隠すように押さえる」
「こんなふうに自分の乳首を押さえてどうするんですか?」
「そしたら手首のスナップを効かせて、両手の中指で乳首を上下に激しく弾くの。1秒間に4回のペースで」
「めちゃくちゃ早いじゃないですか」
「そうしながら、『アーチチアーチチ』って言うのよ」
「アーチチアーチチ……って、おい。いったいアンタは何を教えてるんですか。もしかしたら、これを実演しながら読んでる人が居るかも知れないじゃないですか」
「え? アタシはただ、『あ乳盛』を教えているだけよ。こうするとね、誰でも気分が高揚してくるのよ」
「えーっと……殿、正直な感想を言ってもいいですか?」
「何よ、改まって。言いたい事があるなら言いなさいよ」
「じゃあ言わせてもらいますけど、これってただの、いや、だいぶ変わったチクニーなのでは?」
「ちょっとぉー。アタシが編み出した『あ乳盛』をチクニーとか言わないでくれる? ググっちゃう中高生が居たらどうすんのよ」
「アンタがやり出したんだろ」
「違うわよ、失礼ね。チクニーなんかと一緒にしないでちょーだい」
「むしろ、それよりヒドいですけどね」
「何言ってんのよ。これはアタシにとって神聖な儀式なのよ。そうだ、アタシ決めたわ。これからアタシは、この『あ乳盛』をここぞという時に舞うことにするわ」
「そんなヘンテコな舞いを見せられる、こっちの身にもなって下さいよ」
「バカね、アンタも一緒に舞うに決まってんでしょーよ。何シレっとギャラリーに紛れ込もうとしてんのよ」
「誰がしますか、こんな事」
「ほら、アンタも一緒にやるのよ。同じアホなら踊らにゃ損、損」
「誰がアホですか。殿と一緒にしないで下さいよ、まったく」
「なに恥ずかしがってんのよ。アンタみたいにアソコを常に大っきくしてる方がよっぽど恥ずかしいわよ」
「そんなとこ常に大っきくしてませんよ。何回言わせるんですか」
「まぁいいわ。何だかアンタと話したせいで、せっかく盛り上げてきた気分が白けてきちゃったわよ。これじゃ、また最初からやり直しだわ。人間五十年〜。アーチチアーチチ……」
「勝手に一人でやってろ!」




