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斎藤道三の死(長良川の戦い)(2)

「それに、もしここでアタシがマムシを見殺しにしちゃったら、嫁の帰蝶が怒り狂ってエンジンを逆噴射しちゃうわよ」


「それは片桐機長でしょ。って、よくもまぁそんな昭和のネタをここでぶっ込む気になりましたね。今どき誰も知りませんよ」


「と、とにかくアタシはマムシを助けに行くんだからね! もしもマムシの身に何かあった時は一目散に駆け付けるって約束してたんだから」


「殿。道三殿をお助けしたい気持ちは分かりますが、もう少し落ち着いて冷静になって下さい。みだりに動いてはなりません」


「どうしてよ? じゃあ何? アンタはアタシにこのまま指を(くわ)えてマムシが攻め滅ぼされるのを黙って見てろって言うの? アタシはそんなの絶対嫌よ。それにアタシは自分で(くわ)えるよりも、誰かに(くわ)えてもらう方が好きなんだからーっ!」


「いったい何のカミングアウトですか。知りませんよ、そんな事。いいですか。私は冷静に判断した上で、今から救援に向かっても間に合わないって言ってるんです。それに、もしもそうやって城を開けている隙に、手薄になったこの城が誰かに攻め込まれたらどうするんですか。まだ尾張すら統一出来ていないっていうのに、他所(よそ)の国の親子の争いに首を突っ込んでいる場合ですか」


「そう思うんなら、アンタはついてこなくていいわよ。アタシは自分の手勢だけを連れて出陣するから」


「ちょっと待ってください。相手の兵数は17000ですよ? 殿の手勢だけを連れて行ったところでどうにもなりませんよ。わざわざ負けに行くようなものじゃないですか」


「うるさいわね。勝てそうとか負けそうとか、そんな事はどうだっていいのよ。いつも周りからオカマだの『うつけ』だのと言われてるアタシだって、いざとなったら腹を(くく)ってイク覚悟は出来ているわ。たとえ誰かにイクなとか、我慢しろって言われても、一人で勝手にイクわよ。一人で大声を出してイッちゃうんだからーっ!」


「なんで微妙にカタカナ表記なんですか」


「それにね、恒興。ついでだから教えといてあげるわ。べつに無理して間に合わせなくたって大丈夫なのよ」


「……?」


「イクのが間に合わなかったら、延長すればいいのよ。延長料金は取られちゃうけど」


「何の話ですか、それ。遊びで風俗店に行くのとは、(わけ)が違いますぞ」


「とにかく、アタシは助けに行くわ。じゃあ、常に起きてる恒興。アンタはここで寝ずの番をしてなさい。たとえ誰もついてこなくたって、アタシは一人でイクわ。一人でイクのだって、アタシは慣れてるからね」


「だからカタカナ表記を何とかしろっての。あと、夜は私も普通に眠りますので。常に起きてるとかあり得ないので」


「それならそれでいいわよ。『夏帆は寝て待て』っていうからね」


「そりゃ果報だろ。昔そんな名前のタレントがいたような気がしますけど」


「うるさいわね。それじゃ恒興、後は頼んだわよ。それーっ!」


「……だから人の話を聞けっての。あーあ、結局一人で飛び出してっちゃったよ」


………

………


「道三様。尾張の織田信長殿がこちらへ援軍に向かっているとの事に御座ります。今しばらくの辛抱ですぞ」


「何? 信長がこちらへ向かっておると? あれほど援軍は不要と申しておいたというに。見かけによらず律儀なヤツよの。このマムシなんぞ、まぁ無視してればよかったものを」


「この期に及んでダジャレとは、さすがは殿に御座りますな」


「なぁに、この程度のダジャレなら笑点の黄色いヤツでもすぐに思い付くであろう。ヤツはいつも、しょーもない回答ばかりしておったからの」


「林家木久扇ですか。とっくに笑点から卒業してますけどね」


「最近は笑点なんて見ないからメンバーを知らんのじゃ。ていうか、戦の最中にこんな話をしている場合ではないの」


「そうですね。信長殿もこちらへ向かっている事ですし、この戦、もう少しの辛抱に御座りますぞ」


「いや、信長の手を(わずら)わせてはならん。ヤツも今は尾張統一を目指して手一杯なはずじゃからの。このような親子の内輪争いに、ヤツの貴重な兵力を失わせてはマムシの名がすたるというものじゃ。むしろ今ワシは、あの織田信長という男から引導を渡されているような気分なのじゃ。そうとなったらグズグズしてはおれぬ。この戦、早々に終わらせねばならぬの」


「は。私も共に散る覚悟は出来ております」


「おお、そうじゃ。最後に信長宛てにワシの辞世の句をしたためておこうかの。……サラサラサラ、と。これでよし。もはや思い残す事は無くなった。あとはできる限りの敵を道連れに、華々しく散ってみせようぞ。皆の者、ワシについて参れ。それーっ!」


「我らも続くぞ! 最後まで殿をお守りするのだ。続けーっ!」


………

………


近年、斎藤道三が死の直前に信長に宛てて()んだとされる辞世の句が見つかった。


長良川の近くにひっそりと佇む神社の祠の中に、こっそり彼の辞世の句が書かれた書状が納められていたのだ。


そこには、こう記されていた。



義龍に

奪られた美濃を

よろチクビ


     道三

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