正徳寺の会見(3)
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「へっくしっ! なんだか一瞬、ゾクッとものすごい寒気がしたわ。風邪でも引いたかしら。もしかして新型コロナウィルスに感染しちゃった? すぐにPCR検査を受けないと」
「何を慌ててるんですか。そんな訳ないでしょ」
「まぁ気のせいならいいんだけど。ひょっとして、誰かがアタシの噂をしているのかしら」
「もしかすると斎藤道三殿は、陰に隠れて殿を見ているのかも知れません」
「なるほど。出会い系の待ち合わせなんかによくあるパターンね。わざと約束の時間より先に行って、後からやって来る相手の外見を陰に隠れてチェックして、ブサイクだったら待ち合わせをすっぽかす、みたいな」
「アンタそんな事してるんですか。最低ですね」
「アタシじゃないわよ、マムシがそうしてるんじゃないかって話よ。まさかアタシのこの格好に驚いて、約束をすっぽかしたりしないわよね」
「そう思うんなら、もっと普通の格好をしてくれば良かったじゃないですか。そんな変な格好じゃなくて」
「これがアタシにとっての普通なのっ! ……ていうか恒興、さっきアタシのことをアンタって呼ばなかった?」
「殿に向かって、そんなこと言うわけ無いじゃないですか」
「え? そう? おかしいわね、気のせいかしら……。あとアンタ、さっきアタシの格好を『変な格好』って言ったわよね」
「言いましたよ。だって変な格好なので」
「ちょっとぉー。ツインテールにロングスカートのいったいどこが変なのよ。アタシは爺が自害した時に、今後はこの格好にするって泣いて誓ったんだから!」
「変な誓いを立てないで下さいよ」
「変とは何よ。アンタのちょんまげの方がよっぽど変でしょ」
「この時代はこれが普通なんですよ」
「マジ? ガチ? 何その変な頭。ヅラ? 宴会芸?」
「誰が宴会でこんな髪型にするんですか。あと、ヅラじゃありませんから。地肌に地毛の本物ですよ」
「何それ。自慢? そういうのアタシ、興味無いんだけど」
「殿の方から聞いてきたんでしょーが」
「そうだっけ? まぁいいわよ。会見の時はちゃんとお色直しするから」
「その結婚式の花嫁衣装みたいな言い方、やめて貰えませんかね」




