正徳寺の会見(2)
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「んあーっ! 今日はよく晴れていて気持ちがいいわね、恒興。こんな日は鷹狩りにでも行けたら最高なんだけど」
「またそのような呑気なことを……。いいですか、殿。今日のこの斎藤道三殿との会見は、今後の尾張の行く末を左右する大事な会見に御座ります。くれぐれも粗相の無いようにお願いしますよ?」
「あら、ずいぶん気の早い事を言うわね。まだまだ会見までは時間があるでしょーに。今からそんな調子じゃ疲れちゃうわよ? 少し深呼吸でもして、落ち着いたらどう? 息を2回吸って、1回大きく吐くのを繰り返してると気持ちが楽になるわよ? ほら、ヒッ、ヒッ、フー……」
「……ヒッ、ヒッ、フー。これでバッチリ安産ですね。って、おい。そりゃ深呼吸じゃなくてラマーズ法だろ。まったく、この大事な時に何を教えようとしてるんですか。そんな呼吸法じゃ、かえって落ち着かないですよ」
「じゃあアタシが歌詞を付けてあげるわよ。歌にしちゃえばリラックス出来るからね。じゃあ行くわよ。♪きっ、びっ、だーん。きび、きび、だーん♪」
「♪おっ、にっ、たーいじ。おに、おに、たーいじ♪」
「あら、恒興にしてはノリがいいじゃないの」
「そりゃあ水カンの丸パクりですからね。選曲が古すぎますけど」
「コムアイちゃん、どうして脱退しちゃったのかしら」
「さぁ……どうしてですかね」
「今のボーカルの娘って、昔の篠原ともえと剛力彩芽をミックスような感じで、アタシがちょっと苦手なタイプなのよね」
「また余計な事を……。口は災いの元ですぞ」
「どうしてよ。アタシは正直な感想を言っただけよ。まぁでも今はそんな事より、早くあのマムシに、アタシの自慢の黒光りした固くて長くて立派な棒をいっぱい見せつけてやりたいわ」
「普通に鉄砲って言ってくれませんかね」
「あー、もう我慢出来ないわ。わざとコートの下に隠しておいて、女子高生が近くに来たらガバッと見せつけちゃおうかしら」
「それ、絶対やっちゃダメなやつだから。ていうか、この時代に女子高生とかいないから」
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「ほれ、信長が姿を現したぞ。おっ、何じゃあの格好は!」
「髪を左右両側の耳の下あたりで束ねておりますな。あと、何やら腰から長い布を巻きつけているような、見慣れない格好をしておりますぞ。さすがは尾張の大うつけに御座りますな。あのような姿の武将など、見た事がありません」
「うーん、まさかこれ程とはの。後で『信長キモ〜い』とイジり倒してやろうぞ」
「それは良い精神攻撃に御座りますな」
「さて、これで普段の信長が分かった事だし、そろそろ我々は先回りして、あの『うつけ』を正徳寺で待つことにするかの」




