正徳寺の会見(1)
「帰蝶をくれてやった織田信長とは、どのような人物であろうの」
「美濃のマムシと呼ばれる斉藤道三様でも、やはり気になりますか」
「まぁ義理の息子じゃからの」
「信長殿は尾張のうつけ者として評判のように御座りますな」
「なに? 尾張のお漬け物? わさび漬けかの」
「それは静岡の漬け物だったような……って、おい。お漬け物では御座りません。うつけ者に御座ります」
「そうか。うつけ者か。しかし、そちもそそっかしいのう。この時代の静岡は遠江というに」
「うつけ者とお漬け物を間違える方がそそっかしいでしょ」
「まぁよい。お、あったあった、あの小屋じゃ。ついて参れ」
「……あのー、殿」
「なんじゃ」
「このような小屋に来て、いったい何をなさるおつもりですか?」
「先程そちは、信長が尾張のお漬け物……、じゃなかった、うつけ者と申しておったな?」
「ええ」
「じゃが、人の噂とはアテにならぬものじゃ。ワシも美濃のマムシと呼ばれておるが、本当のワシは、広い心を持った聖人君子なんじゃからの」
「どの口が言いますか。人を騙しまくって成り上がったくせに」
「ん? 何か申したか?」
「あ、いえ」
「とにかく、人の言うことはアテにはならぬ。じゃからこそ、信長がどのような者か、それを見極めるためにこうして小屋に隠れてのぞき見をしようとしておるのじゃ」
「なるほどー。何と言っても、のぞきは殿の得意技に御座りますからな」
「そうそう、毎晩向かいのマンションに住んでいる女子大生の部屋をこの双眼鏡で……って、おい。ワシの得意技がのぞきじゃと? 人聞きの悪い事を申すでない。誤解を招くであろう」
「しかし、それにしても殿。わざわざこのような事をなされなくとも、信長殿に会見の場で直接会ったときに確認すればよいでは御座りませぬか」
「それでは会見のために取り繕った信長の姿しか見れないであろう。ワシは信長の普段の姿が見たいのじゃ」
「まるで女性のすっぴんを見たがる中年オヤジのようですな」
「これ。そんなヤツと一緒にするでない。ワシは女性のすっぴんを見たがるなどという悪趣味は持ち合わせておらんぞ。ワシはの、女性は化粧をしてこそ、より美しさが際立つと思うておるのじゃ。むしろ、すっぴんの女性を見ると腹立たしいわい。特に30歳を超えて人前ですっぴんを晒しているような女性は、礼儀知らずのド阿呆じゃ。そんなもの、女を捨てた只の化け物にしか見えぬわ」
「……」
「ワシが以前勤めていた職場にもおったのじゃ。いい歳してすっぴんで出社してくる、女の面の皮を被った礼儀知らずの化け物が。よいか、女性のすっぴんが許されるのは、せいぜい20代前半までじゃ。その年齢を超えてすっぴんで外出するような女性は、女性として失格じゃ。いや、人間失格と言ってもいい。つまりは化け物じゃ」
「ん? 以前勤めていた職場? いったい何の話をされているのです?」
「あ、いや、こっちの話じゃ。とにかくワシは、きちんとメイクをした若くて綺麗な女性が好きなんじゃ」
「そうですか。私はすっぴんの女性でも全然行けますけどね。何だかウブな感じがするじゃないですか。いろいろと仕込んであげたくなっちゃいますよ」
「これ、そのように薄気味悪いことを申すでない。ワシはすっぴんの女性など見たくもないわ。すっぽんぽんの女性なら見たいがの。ドゥフフフ」
「やはり殿はマムシよりも、いろんな意味でスッポンの方がお似合いですな」
「決まっておろうが。今夜もワシの反り返ったスッポンで、すっぽんぽんの女性を後ろからスッポン、スッポン……」
「殿! 度が過ぎたおふざけはクレームのもとですぞ。読者が少ないから助かってますけど」
「なぁに、冗談じゃ。ほれ、もうすぐここを信長が通るはずじゃ。黙って見ておれ」




