爺の説教(3)
「まぁいいでしょう。で、先ほど申しました通り、殿は弾正忠家の当主なので御座ります」
「ダンジョンが何だって?」
「ダンジョンでは御座りませぬ。『だんじょうのじょうけ』に御座ります。……って、さっき言ったばっかだろ。ちゃんと聞いとけよ、この大うつけのオカマ野郎」
「大うつけのオカマ野郎って、どういうことよ。ていうか爺、もうアタシへの暴言を隠す気ないじゃないの」
「言っときますけど、我慢にも限界ってものがあるんですよ。まぁともかく、織田家は尾張一国の内部で分裂しているので御座います。さらに言うと、殿が当主となった弾正忠家の中でさえ、分裂気味なのです。殿の弟の信勝様などは、殿が弾正忠家の当主になることに露骨に文句を言っておりますからな」
「え? ダンジョンが何だって?」
「ダンジョンでは御座りませぬ。『だんじょうのじょうけ』に御座ります。……って、何回やる気ですか、このくだり」
「しつこく繰り返すのがお約束ってもんでしょーが。まぁでも正直アタシも飽きてきちゃったわ。……ってことで、さっさと話を進めてちょーだい」
「分かりました。さて、次に尾張を取り巻く周囲の大名に御座りますが……」
「ぐがぁー」
「おいっ! 寝るの早っ! ……って、まさかこれも繰り返すつもりですか」
「あ、今のはマジ寝だから」
「余計ひどいだろ」
「ん? また爺、タメ口になってない?」
「そんな事より話を続けさせてもらいますぞ」
「そんな事って、アンタ……」
「今、尾張は3つの国に囲まれております。ざっくりと申せば、北は斎藤家、東は今川家、西は北畠家に面しているのです」
「そのくらい知ってるわよ」
「北の斎藤家とは和睦しておりますから、今のところは心配無用です」
「まぁ、そのために帰蝶と結婚させられてるからね」
「西の北畠家は領土を広げようとする野心に乏しく、こちらも差し当たって脅威ではありません」
「下手をすると、日本史の教科書にも出て来ないほどのマイナーな存在だしね」
「という訳で、当面の脅威は東の今川義元率いる今川家に御座ります。義元は京へ上洛して将軍になろうと画策している様子ですので、ちょうどその通り道にあたる尾張に進行してくるのは時間の問題と思われます」
「なるほどー。じゃあそれまでになるべく勢力を広げておかないと、簡単に攻め滅ぼされちゃうわね」
「仰せの通りです。ある程度の勢力を築く事が出来れば今川家との同盟の道も開けましょうが、今のような尾張の半分にも満たない弱小勢力では、相手にもされますまい」
「ちょっとぉー。それって難易度高すぎじゃない? チュートリアルとか無いわけ?」
「そんなものは御座りません。ゲームじゃないんですから」
「ええー? マジかよー。こんなの無理ゲー過ぎるわよ。もしも今川家に速攻で攻め込まれちゃったら、一体どうすればいいのよ。何とか爺の首一つで許してくれないかしら?」
「無理ですね。ていうか、なんで真っ先に私の首を差し出そうとしてるんですか。バカじゃないの?」
「やっぱダメ? じゃあ恒興の首も差し出しちゃうわ。それで許してくれるわよね」
「そんなんで許すはず無いでしょ」
「えー、何でよー。じゃあもう出血大サービスで土田御前と帰蝶の首も差し出しちゃうわ。これなら許してくれるでしょ」
「そんな訳ないでしょ。つか、なんで最初から家臣や身内の首を差し出そうとしてるんですか。あーもう、どこまでうつけなんですか、このバカ殿は。これでは亡くなった信秀様に申し開きが出来ませぬ。ううっ……」
「いや、冗談に決まってるでしょ。爺、冗談だって。なんで泣いてるのよ」
「泣きたくもなりますぞ。まさかここまでバカとは。も、もう殿はバカ過ぎて私の手には負えませぬ。ううっ……。爺はこれ以上、何も申しませぬぞ。織田家の命運、もはやこれまで。……御免っ!」
「あ、ちょっと。爺! 爺っ! ……あーあ、行っちゃった。ほんっと年寄りって冗談が通じないから困っちゃうわよね。ていうか最後の方、暴言吐きまくりじゃないの。これはいくら爺でも許せないわね。来月からは俸禄を半分にしちゃうんだから!」




