爺の説教(1)
「殿! 殿! どこにおられますか、殿!」
「ここに居るわよ、騒々しいわね。いったい何の騒ぎよ」
「おおっ! 殿! ここに居たのですか。あちこち探しましたぞ。馬小屋とか帰蝶様のお部屋とか、鷹狩りスポットの手前にある茂みとか……」
「げっ。なんで爺がその場所を知ってんのよ」
「そんなことより、今日は殿に大事なお話が御座ります。亡き殿に代わって織田家の当主と成られた信長様には、是非とも現在の当家の状況を知っておいてもらわねばなりません」
「何なのよ、急に。爺の話は長くて嫌なのよ。あと、口も臭いしさ」
「歳を取ると、どうしても口臭が強くなるので御座います。いや、そんな事よりこの平手政秀、亡き殿の立派な後継者として信長様を育て上げる義務が御座りますれば、無理やりにでも話を聞いて頂きますぞ」
「えー? アタシ、爺の話なんて聞きたくないんだけど。だいたい、オカマに知識を植え付けてどうすんのよ。マツコ・デラックスにでもなれって言うの?」
「まさかそのような……。って、固有名詞を出すのは止めて下され。クレームの元ですぞ」
「爺も恒興と同じ事を言うわねぇ……。そんな心配はランキング上位に入ってからすればいいのよ。どうせ誰も読みゃしないんだから、そんな心配するだけ無駄でしょーよ。例えるなら、ミニスカートを履いたブスが階段を昇る時にスカートを手で押さえるようなもんよ。自意識過剰だっつーの。あれ、腹が立つわよね。誰がアンタみたいなブスのスカートの中を覗くかよ。むしろブスがミニスカートを履いてる方が、よっぽど犯罪的だと思わない? 覗きを取り締まる前に、そっちを取り締まれっての。美人のスカートの中を覗いて捕まるんなら諦めもつくけどさ、ブスのスカートの中なんか覗いて捕まった日にゃ、目も当てられないわよ」
「ちょっと言っている意味が分かりませぬな。でもそんなこと言って、本当はスカートの中が見えるんだったら顔がブスでも覗くのでは御座りませぬか? っていうか、ふつうスカートの中を覗くときは後ろから覗きますよね? ブスかどうかなんて、振り返りでもしない限り分からないのではありませんか?」
「あら、よく気付いたわね。そりゃスカートの中が見えるんだったら覗くに決まってるわよ。だって女のスカートの中には、男の夢とロマンと生きる希望とスリルとサスペンスとばんばんざいが詰まってるのよ? 覗かない理由が無いわよ。それがたとえブスのスカートの中だとしてもさ」
「一体どんだけ詰まってるんですか。いろいろ詰め込み過ぎですぞ。夢とロマンぐらいならまぁ何とか分かりますけど、後半はまったく意味不明ですぞ。ていうか、最後のばんばんざいはYouTuberじゃないですか。あと、なんだかんだ言って結局は覗いてるんじゃねーか」
「じゃねーか、って爺。アンタ自分のキャラを忘れてんじゃないでしょーね。語尾に気を付けなさいよ」
「あ。いや、つい興奮してしまっただけに御座ります」
「そうなの? まぁいいけどさ。それより、さっきの爺の言い方にはだいぶ語弊があるわね。そんな人聞きの悪い事を言わないでくれる? この際だから、きっちり訂正させてもらうわよ。正確には、アタシはスカートの中を覗いてるんじゃなくて、悪意のある誰かにスカートの中を覗かれたら大変だから、わざわざ先回りして善意でチェックしてあげてるのよ。あくまでチェックなんだからね。遠足で例えるなら、下見よ、下見」
「相変わらず意味不明な例えに御座りますな。そんな善意がどこにあるんですか。じゃあ聞きますけど、仮にそのチェックに不合格だった場合は、それを本人に注意してあげるんですか?」
「そんな事できるわけ無いでしょ。本当はアタシだって、そうしてあげたいのは山々なんだけどさ、下手に注意すると、かえってアタシが覗いてたと勘違いされちゃうじゃない? 迂闊なことは言えないわよ」
「実際、覗いてますからね」
「ほら、そうやって誤解されるのよ。こっちは良かれと思って善意でチェックしてあげてるだけなのに」
「でも本人には注意しないんですよね。それじゃ、やはりチェックになってないでは御座りませぬか」
「そんなこと言われたって、『アンタ、黒いレースのパンティが見えてるわよ? これが証拠の写真よ』なんて忠告しようものなら、アタシが警察に突き出されちゃうわよ」
「盗撮までしてるんかーい! そりゃ警察に突き出されるでしょ」
「だから仕方なく黙ってんのよ。『是非に及ばず』だわ」
「そのセリフを、覗きと盗撮の言い訳に使わないで貰えませんかね。まったく、このバカ殿は」




