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雑記(2)

だが理由はどうあれ、この葬儀における信長の行動は、結果的に信長が「うつけ」だという強烈な印象を内外に与えたことは間違いない。

そしてこの時、信長とは対照的に、その態度と振る舞いで大いに株を上げたのが弟の信勝であった。


彼は信長とは違い、キチンとした身なりで葬儀に臨み、正しい礼儀作法で焼香を済ませたからである。(ま、それは別に特別なことでも何でもなく、普通っちゃ普通だが)


この信勝の様子を見て、「うつけの信長よりも弟の信勝に家督を継がせるべきだ」という機運が、家中に醸成される事となった。

これを境に、信秀亡き後の家督を巡る争いが表面化し始めたのである。


このとき、信長から見た信勝は「自分こそ家督を継ぐに相応しいと思っている愚かで野心家の弟」として映っていただろうし、反対に、信勝から見た信長は「とても家督なんか継がせられないうつけの兄」として映っていたであろう。


前に『乳兄弟』の雑記の中で、「なぜ弟の信勝との仲が悪かったのか、その理由についてはたぶん次回書くんじゃないかと思う」などと書いてそのまま放置してしまっていたが、簡単に言えば、「信勝が信長をうつけとして見ていた」ことが、この兄弟が不仲だった最大の原因であった。


もちろん信勝本人が野心家だったという側面もある。

さらに言えば、信勝の側近たちが信長との対立を煽るよう、けしかけたという一面もあったであろう。


要するに、この兄弟の間には最初から火種が燻っていたのである。


そういう意味では、仮にこのとき信長が父の位牌に抹香を投げ付けるという行動を取らなかったとしても、この兄弟の間で家督を巡る争いが起こるのは時間の問題だったと言う事も出来よう。


ところで、話は逸れるが、以前(と言っても相当昔の話だが)僕が通っていた小学校の同じ学年に、運動会の徒競走でわざとコケているヤツがいた。


何故わざとコケるのかというと、単に足が遅いからである。

普通に走っていると、どうしてもビリになってしまうのだ。

それじゃあ格好悪いからということで、彼はスタートと同時にさっさと自分からコケてしまう。


もちろんワザとだと悟られないように、あたかも自然にコケたように演技するのだ。


スタートでわざとコケる事によって、「これならビリになっても仕方がない」と見る側が勝手に思ってくれる状況を作り上げ、自分の足の遅さをカモフラージュするという姑息な作戦である。


さらに彼は、もう一つの演技をぶちかます。

起き上がるタイミングで、砂を掴んで「クソッ!」という感じに地面に投げつけてから、走り出すのである。


自分からコケておいて「クソッ!」も何も無いのだが、この悔しがる姿が、運動会を見に来ているママさん達の同情と感動を誘い、転んだ事を恰好良くドラマチックに見せる演出になるのだ。


普通に走ってビリだった場合は、全く見向きもされないか、せいぜい「あら、あの子、足が遅いわね」と思われて終わってしまうところが、コケてこれ見よがしに悔しがり、そこから必死に走ってダントツのビリになった場合は、皆に注目されて同情と感動を誘い、ゴールする頃には温かい拍手で迎えられていたりするのだから、運動会を見に来ているママさん達の目を欺く事などチョロいものである。


いやそれ、演技だから。

普通に足が遅いだけだから。

こいつ、ワザとコケてるからね!


放送席のマイクをONにして、そう言ってやりたい。


まぁでも、コケた本人も見ている観客も、それに満足して和やかな雰囲気になっているのだから、これはこれで演出としてはアリなのだろう。

さすがに僕も、この事は自分の胸だけにしまい込み、放送席のマイクを使ってバラしたりはしなかったが。


信長が父の位牌に抹香を投げつけたというエピソードを読むたびに、僕は彼が運動会でわざとコケて、掴んだ砂を地面に投げつけている姿を思い出してしまう。

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