父・信秀の死(2)
「……ここかぁ。親父の葬式会場は」
「はぁ、はぁ。やっと追い付きましたぞ、若様。さぁ、焼香に参りましょう」
「ちょっと、恒興。しょうこうって何? オウム真理教? しょこたん?」
「麻原彰晃でも中川翔子でも御座いませんぞ。つか、相変わらず発想が古過ぎですよ」
「ねぇ、ちょっと。固有名詞を出したらマズいんじゃないの?」
「アンタが今さらそれを言いますか。それよりほら、あの段の上に煙が立っているでしょう。焼香というのは、その隣にある入れ物からお香をつまんで……って、人の話を聞けっての。……あーあ、何も聞かずに行っちゃったよ。あのバカ、お焼香の作法を知ってるのかな」
「えーと……。ちょっと何よ、この変な粉は。もしかして、ふりかけ? マジでヤバ谷園だわ。あ、そういえば前の人はこの粉をつまんで匂いを嗅いでたわね。やっぱりみんな匂いが気になっていたのね。アタシも嗅いじゃうわよ。クンクン……」
「げっ。マジで匂いを嗅いじゃってるよ、あの人」
「……うわ、臭っ! このふりかけ、臭っ! 臭過ぎて草生えるわ。もしかして草って、臭いから草って言うのかしら」
「若様、顔をしかめて何かぶつぶつ言ってるけど、本当に大丈夫かなぁ……」
「あら? よく見たら横で煙が上がってるじゃないの。しかも、変なニオイだし。なんでふりかけなんて燃やしてるのかしら。臭いふりかけなんて、いちいち燃やさないでそのまま捨てちゃえばいいのに。こんなもん燃やしてたら、そりゃ臭いわよね」
「……っていうか、いま位牌の後ろで何か動いたわよ。きゃーっ!ゴキブリーッ!! 何か投げつけるものは無いかしら。あーもう仕方ないからこの臭いふりかけでいいわ。バサッ、バサッ! あーアタシもう、こんな所に居られないわよー!」
「げっ! 信長のヤツ、自分の父親の位牌に抹香をぶち撒けて、そそくさと出て行ってしまったぞ」
「さすがは尾張の大うつけ。やる事がぶっ飛んでおりますな。うつけとは聞いておりましたが、まさかここまでとは……。聞きしに勝るとは、このことですな」
「まぁ、このようなうつけが跡を継ぐとあっては、織田家も先が見えましたな。このままでは他国から格好のカモにされて攻め滅ぼされますぞ」
「いかにも。これはいよいよ弟の信勝様の出番に御座りますな」
「そうとも、そうとも。先ほど信勝様は正装の袴を着こなし、完璧な作法でお焼香を済ませておいででしたからな」
「やはり信長に跡は継がせられませんな。いずれは我らが信勝様を担ぎ上げ、機を見て挙兵し、信長を討たなくては」
「しーっ。声が大きいですぞ」




