父・信秀の死(1)
「若様、いつまでそのようにイジけておられるのです。もう信秀様の葬儀は始まっておりますぞ」
「べつにイジけてなんかいないわよ」
「そう言う割には、さっきからずっと膝を抱えてしゃがみ込んで、下を向いているでは御座いませんか。いつまでもクヨクヨしてないで、元気を出して下さい」
「どうせアタシの気持ちなんて、誰にも分からないのよ」
「いいえ。この恒興には、全てお見通しですぞ」
「じゃあアタシがいま何を考えてるか、当ててみなさいよ」
「『あーん、お父上が死んじゃって、これからアタシ、どーすればいいのよーん。プイプイプイプイーン』に御座りましょう」
「誰がアタシの声マネをしろって言ったのよ。アンタが言うとキモいのよ。しかも全然似てないし。あと、ホロライブを卒業した6期生の沙花叉クロヱがなぜか混じってるし。ただの悪意しか感じなかったわよ。アンタ、アタシを馬鹿にしてるでしょ」
「まぁ、ちょっとだけ……」
「えっ? なぁに?」
「いえ、別になにも……。でも、図星に御座りましょう」
「まさか。全然違ぇですわ」
「だからその『違ぇですわ』って言い方、やめてもらえませんか」
「アタシはね、もっと違う事を考えていたのよ」
「では下を向いて、いったい何をお考えになられていたのです?」
「……どうしてアリって、巣を作るのかしら」
「今そんなこと考えてる場合か! 生物観察の鬼かよ」
「アタシ、YouTubeで『おーちゃんねる』もよく見てるのよ。あの人スゴいわね。スズメバチを自分の部屋で飼ったりしてるわよ。アタシ以上にぶっ飛んでるわね」
「そんなこと知りませんよ。ていうか、もっと他に考える事は無いんですか?」
「失礼ね。アタシだって、アタシなりにいろいろ考えてるわよ」
「その『いろいろ』がしょーもないって言ってるんですよ。じゃあ聞きますけど、実際、他に何を考えていたんですか?」
「壱百満天原サロメの配信って、なんであんなに中毒性が高いのかしら。最近は、あの『ですわー』っていう声を聞いてからじゃないと、なかなか寝つけないですわー」
「やっぱりしょーもない事を考えてるじゃないですか。しかも、モロに影響受けちゃってるし……。つか、Vtuber好き過ぎだろ。あと、時代背景を無視した発言はやめて貰えませんか? 読者が混乱しますよ?」
「ごちゃごちゃうるさいわねー。いいのよ、この作品は何でもありなんだから。どうせ誰も読みゃしないわよ」
「また自虐ネタですか。いい加減にして下さいよ。それより、早く信秀様の葬儀に参りましょう。今から急いで着替えれば、まだ間に合いますぞ」
「えー? 何それ、めんどいわー。べつに裸じゃないし、この格好でもいいわよね。それじゃ、さっさとこのまま行くわよ! それーっ!」
「あ、若様。お待ち下さい! くそー、あのオカマ野郎。機動力と瞬発力はゴキブリ並みだな」




