命名「吉法師」
「御前、よく頑張ったの」
「信秀様。無事にお役目を果たせたこと、嬉しく思います」
「なんのなんの。ところでワシはもう、この子に付ける名前をすでに決めておるのじゃ」
「いったいどんな名前なんです?」
「ほれ、この通り。こうして色紙にバッチリ書いてきたぞ」
「まぁ、気の早い方だこと……。えっと……、エロ法師? 何だと、こら。テメェ舐めてんのか? 自分の子にエロ坊主みたいな名前を付けて恥ずかしくねーのかよ」
「こ、これこれ。落ち着け。そなたは怒るとすぐにヤンキーに戻るから恐ろしいわい。よく見ておくれ。エロ法師ではない、吉法師じゃよ。きっぽうし!」
「あら、そうですわね。アタシったら、つい見間違えてしまいましたわ」
「それにしても、いったいどうやったら吉法師をエロ法師と見間違えるのだ。そそっかしいヤツよの」
「あ? ざけんなよ? テメェもういっぺん言ってみろ」
「あ、いや、何でも御座らん。おそらくはワシの字が汚いせいで、きっと見間違えたのであろうの」
「たりめーだろ。ったく、調子こいてんじゃねーぞ。おら、謝れよ。床に手ついて謝れ」
「わ、ワシが悪かった。ほれ、この通りじゃ」
「仕方ねーな。今回は許してやるよ」
「でも、ワシだけが悪いというわけでは……」
「あ? なんだって? お前今なんつった? ん?」
「あ、いや、何も……。って、またヤンキーに戻ってるし……」
「ゴチャゴチャうっせーな。そうだ、お前タバコ買って来いよ。こっちは出産前から医者に禁煙させられてイライラしてんだよ」
「わ、分かった分かった。すぐに買ってこよう。ところで何を買えばよいのかの」
「ラッキーストライクに決まってるだろ」
「またずいぶんとワイルドな好みよの。ふつう女性はメビウス・プレミアムメンソールなんかを吸ってるイメージなんじゃが」
「ワイルドで悪いのかよ」
「いや、べつに悪くは……。むしろピッタリというか……」
「何だって?」
「あ、いや、何でもない。ただの独り言じゃ」
「とにかく、さっさと買ってこいよ。5分で戻ってこないと、ケツの穴に梅干し入れっぞ!」
「う、梅干しって……。せめてコンビニ弁当とかに入ってる小梅にしてくれんかの。あれくらいの大きさなら入れても大丈夫そうっていうか、たぶん大丈夫っていうか……」
「あ? 小梅なんかで許されると思ってんの? 特大サイズの南高梅をケツの穴に入れてやるから覚悟しとけよ。それが嫌なら、さっさと買ってこい」
「さ、さすがにそれは……」
「なんだと、こら。何か文句あんのか? あ?」
「ひ、ひぃー。分かった分かった。この凶暴な性格が吉法師に受け継がれなければよいが……」