雑記(2)
また桑田佳祐という人は、どういうわけか歌うときに変顔をする事が多いのであった。
この「変顔をして歌う」というのも、僕の記憶によれば、彼が最初に始めたものだ。
ちなみに僕の父親は、変顔で気が触れたように「勝手にシンドバッド」を歌う桑田佳祐を見て、「早口で何を歌っているか分からないし、落ち着きが無いし、アイツはキチガイだ」と言っていた。(差別的な表現だが、発言者の意図を汲んでそのまま記載させて頂く)
キチガイという表現は不適切極まりないが、当時お行儀よく歌っていた他の歌手との比較で言えば、確かに彼は「うつけ者」扱いされても仕方が無いという挙動をしていたと思う。
その一方で、日本の歌謡界に強烈なインパクトを与え、その後の歌手に延々と受け継がれ続けている「なに言ってんだか分かんねー唱法」を編み出した彼は、やはり天才と言うべきであろう。
俗に「バカと天才は紙一重」と言うが、なるほど、という気がする。
ピンクレディだって、最初は水商売風の女に露出の高い衣装を着せて頓珍漢な歌を歌わせるという、業界人の悪ふざけ的なノリで始まったイロモノのユニットに過ぎなかった。
所詮はイロモノでインパクト勝負だから、ペッパー警部、UFO、サウスポー、透明人間などの歌に見られるように、ピンクレディの曲の歌詞はそのほとんどが「くだらない」としか評価のしようがないものばかりであった。
ところが、これらの詞を書いた阿久悠という作詞家は、昭和を代表する一流の作詞家なのである。
そのような一流の作詞家が、こんな「くだらない」歌詞ばかり提供していたという事実こそ、当時のピンクレディがイロモノとして扱われていたことを逆説的に証明しているとも言える訳である。
沢田研二は、口紅をしてステージに上がった事に対して「男が化粧をするな」と大人から批判された。
RCサクセションの忌野清志郎も、その奇抜なスタイルとメイクから、やはりイロモノ扱いされた。
ついでに言っておくと、忌野清志郎は桑田佳祐の編み出した「なに言ってんだか分かんねー唱法」には批判的であった。
フォーク出身の彼らしいと言えば彼らしい。
忌野清志郎は、ファッションやメイクが奇抜で歌い方も独特ではあったが、その発音と発声は極めて明瞭であり、何を歌っているのか分からないという歌い方は決してしなかった。
彼のロックに対する思いは、「THE TIMERS」名義の「ロックン仁義」という曲の歌詞に、その他の愚痴と共に綴られているから、興味のある人は曲を聴くなり歌詞に目を通すなりしてみて欲しい。
歌詞の引用は投稿規約で禁止されているようなので、以下に歌詞の参考URLを貼っておく。
(https://music.oricon.co.jp/php/lyrics/LyricsDisp.php?music=188122)
ちなみに「THE TIMERS」というバンドは忌野清志郎によって結成されたバンドであり、作詞・作曲・ボーカルももちろん彼であった。(名義はZERRYとしていたが)
このバンドは、現代風に言えば、彼が所属していた「RCサクセション」というバンドの裏アカに相当する。
正規アカウントの「RCサクセション」では歌えないような問題視されそうな歌を、裏アカの「THE TIMERS」で歌っていたのである。(だがその独特な歌声から、中の人が忌野清志郎なのはバレバレであった)
彼らのアルバム「COVERS」は、エルビス・プレスリーの「Love Me Tender」に、原子力発電に反対する歌詞を充てたために発売中止となり、この騒動がテレビのニュースでも取り上げられていた。
だが、しばらくしてこのアルバムは別のレーベルから発売されることになる。
当時の僕もすぐにそれを買って聴いている。
なぜ僕が忌野清志郎をこんなに長く語っているのかというと、もちろん僕が彼のファンだったからである。
僕はよく学校へ行く前に、RCサクセションの「自由」を聴いてから学校へ通ったものだ。
この曲は、学校をつまらなく、また下らなく感じていた当時の僕のストレス発散にはピッタリだったのだ。
意気がっていたあの頃が懐かしい。
……なぁんて、つい昔を思い出してあれこれと余計な事を書いてしまった。
まぁ要するに、最初はイロモノとして見られていたサザンオールスターズの桑田佳祐も、ピンクレディも、沢田研二も、RCサクセションの忌野清志郎も、やがて押しも押されぬスターとなって、最終的には批判していた大人を黙らせる結果になったという話だ。
いつの時代も大人というのは、こういった常識を覆しにかかる若者を「うつけ」と批判したがるものなのだ。
実は当時の信長に対しても、これとよく似た現象が起きていたのではあるまいか。
彼の強烈で型破りな自己表現に、おそらく周囲が付いていけなかったのだ。
ましてや彼のように天才的な人物なら、なおさらである。
ゆえに、彼は「うつけ」と呼ばれたのだ。
僕はそう思っている。




