表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/84

尾張の「うつけ者」

「はぁ……」


「……」


「はぁ……」


若君(わかぎみ)。さっきから、どうして何度もそのようにため息をついておられるのです?」


「あーあ。何でこの世はこんなにつまらないのかしらね。恒吉(つねきち)もそう思うでしょ?」


「べつに思いませんよ」


「だってパソコンもテレビも無いじゃない」


「そんなもの無いに決まってるでしょ」


「それにスマホも無いのよ? TikTokもYouTubeも見れないじゃないの。秘密結社holoXのラプラス・ダークネスの配信だって見れないし。こんなんじゃ、赤スパも投げらんないわよ」


「そりゃそうでしょ。そもそも電気が無いですからね」


「こんなの、いったい何を楽しみに生きろって言うのよ。食べ物だってマズいし。もうこの世の終わりよ。死ぬしかないわ」


「若君、そうやってすぐに『死ぬ』なんて言わないで下さいよ」


「うるさいわね。もうアタシの人生は終わってるのよ。あーもう早く死んじゃいたいわ。さっさと死んで令和の時代に生まれ変わるのよ」


「またそのような事を。若君のしょーもない愚痴(ぐち)を毎日聞かされるこっちの身にもなって下さいよ。だいたい、なんで令和の時代を知ってるんですか」


「ん? 何か言った?」


「いえ、何も」


「とにかくアタシなんか生きてたってしょうがないのよ。もう終わりよ。だから死にたいって言ってるの」


「だから『終わり』だとか『死にたい』とか言うなって言ってんだろ」


「ほら。どうせアンタもそうやってアタシを見下してるんだわ。もう終わりよ」


「そうじゃないですけど、若君の聞き分けが悪いからこんな口調になっちゃうんですよ」


「ウソだー。本当は『こんなバカ早く死ね』って思ってるくせにー。もう終わりだわー」


「思ってませんよ。……ちょっとしか」


「ほらー、やっぱりバカにしてるじゃないの。あー、もう終わりよ。終わりだわ。お先まっ暗よー」


「そんな事ありませんって」


「どうせアタシなんか生きていたって、いつかは家臣に裏切られて、寺で寝ているところを襲撃されて死ぬんだわ。絶対そうよー。うわー。もう終わりよーっ!」


「妙にリアルな事を言わないで下さいよ」


………

………


「ねぇ知ってる? 吉法師(きっぽうし)様のうわさ」


「えっ? なになに?」


「吉法師様は一日のうちに何度も『終わりよー』って言うらしいわよ」


「そうなの?」


「うん。でも一日のうちに何度も『終わりよー』なんて言うのは変だと思わない? たぶん(うつ)()があるんじゃないかしら」


「そうよね。一日に何度も『終わりよー』なんて言うのは、(うつ)()がある証拠よ」


「絶対そうよ。(うつ)()があるのよ」


……いつの間にか、このような会話が織田家領内のあちこちで(ささや)かれるようになった。


こうして吉法師は、すぐに「終わりよー」と言う(うつ)()がある者ということから、「おわり(尾張)のうつけ者」と呼ばれるようになったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ