乳兄弟
そして、天文14年(1545年)。
時の流れとは早いもので、いよいよ吉法師も来年には元服を迎える歳となった。
「若君、いざ参る!」
「恒吉、どっからでも掛かっていらっしゃい!」
バチバチと木刀がぶつかる音が響き渡る。
二人で剣術の稽古をしているのであろう。
「私の太刀筋を見切るとは、さすがは若君」
「ちょっとぉ〜。バカにしないでくれる〜? 年下のアンタの太刀筋を見切れないでどうすんのよ」
二人とも汗だくである。
「あーもう疲れちゃった。恒吉、アタシちょっと休憩するわ」
そう言って吉法師が近くの切り株に腰を下ろす。
その様子を見た恒吉も、黙ってその正面に座る。
「アタシもう、こんな田舎はゴメンだわ。もっと都会で暮らしたいのよ」
「都会とは、京のことですか?」
「そうよ。アタシ、京へ行ってもっと優雅に暮らしたいの。あと、ムッキムキの黒光りした男と、くんずほぐれつしたいわ」
「えっと、話の後半は聞かなかったことにして……、それじゃあ京へ上洛できるような大名にならなくてはいけませんね」
「そうね。そして周りの者たちをギャフンと言わせてやりましょう」
「ギャフンと言わせるなんてセリフは漫画の中にしか出てこないですけどね」
「うるさいわね。まぁいいわ。アタシ、絶対いつか武田や今川と張り合えるような戦国大名になってやるんだから!」
「この恒吉も、ずっと側で若君をお支え致します」
「本当にー? こんなキモいやつ、さっさと見限ろうとしてるんじゃないの?」
「まさかそのような。滅相も御座りません」
「あははは。冗談だって。アンタの忠義の心を疑ったりはしないわよ」
「それならば安心です。ですが、そのような戦国大名になるのであれば、その前に言葉遣いを直さないといけません。今のような話し方では威厳が保てませんから」
「やっぱそうよねー。でもさ、アタシも好きでこんな言葉遣いをしているわけじゃないのよね。威厳のある戦国武将らしい話し方をしようと思っても、なぜかどうしてもこんな話し方になっちゃうのよ。どんなに直そうと思っても直らないの。たぶんアタシ、そういう呪いにかかってるんじゃないかと思うわ」
「おかしな話ですよね。周りにそんな話し方をする人は居ないというのに」
「ほんとよねー。恒吉と同じ乳を飲んで育ったはずなのに、なんでこうも話し方が違ってくるのかしらねー」
「不思議に御座りますな」
「もしかして、アタシだけ変なものを飲まされたんじゃないの? なーんてね」




