お徳の悪だくみ
「お徳よ。とくと聞いてくれ」
「何それ。ダジャレ?」
「いや、マジメな話なのだ。信秀様からワシに『お徳を吉法師の乳母とする』との命が下された」
「え? 私に吉法師様の乳母になれ、と?」
「仕方なかろう。信秀様の命には逆らえぬ」
「あなた、私の乳首がどうなってもいいの? あの子、これまでに3人の乳母の乳首を噛み破ったそうじゃない」
「いや、なんとか乳首だけは無事であって欲しい。最悪、お前はどうなっても構わん」
「何よそれ。私より乳首が大事かよ。まぁいいわ。でもさすがに二人分の母乳なんて出ませんよ?」
「然らば先に吉法師様に母乳を飲ませ、残りを恒吉に飲ませるのじゃ。吉法師様の分が足りなくなる訳にはいかんからの」
「それじゃあ、恒吉の分が足りなくなるじゃありませんか」
「致し方あるまい」
「そんなの嫌よ。私たちの子と他所の子と、どっちが大切なのよ」
「他所の子って、お前。信秀様のお世継ぎの吉法師様であらせられるぞ」
「それでも嫌なものは嫌よ。そうだ、私にいい考えがあるわ。フフフ……」
「お前は何を企んでおるのだ」
「母乳が足りない分は、水で薄めて飲ませればいいのよ」
「さすがにそれは……」
「だったらお米の研ぎ汁を混ぜちゃいましょうよ。米ぬかには栄養があるって言うし」
「まぁ、ただの水よりはマシかも知れないが……」
「とりあえず、やるだけやってみましょう。ちょうどいま恒吉にお乳を飲ませたところだから、次はこうして……」
「この場面は生々しい描写になるからカットじゃな」
「え? 何か言った?」
「いや何も。なるほど、そうやってお釜で研いだ米の研ぎ汁で母乳を薄めて、皿から口へ流し込むわけか」
「ほら、やっぱり皿を齧ったわ。あ、顔をしかめてるわよ。ほーれ、ざまぁみろ。これが私の乳首だったらと思うとぞっとするわね」
「ざまぁみろ、ってお前。信秀様のお世継ぎの吉法師様であらせられ……」
「まぁ普通に飲んでるみたいだし、いいじゃないの。って、普通どころかガブ飲みしてるわよ、この子」
「おぉ、飲んでおる。飲んでおるぞ。こりゃあ見事な飲みっぷりだ!」
「まるで武将が『どぶろく』でも飲んでるかのような豪快な飲みっぷりだわね」
「確かに見た目は『どぶろく』に見えなくもないからの。こりゃ、相当な酒飲みになるかも知れんのう。ともかく、これで一安心じゃ」
こうしてお徳の大事な乳首は守られたのであった。
後にこれが思いもよらぬ事態を引き起こすことになる事とは露知らず……。




