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変食さんと私  作者: 黒月水羽
第四幕 迷いを吐き出す
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4-6 羽澤トキア

「何者なんですか、トキア様っていうのは?」

「外レ者の中でも頂点に位置する、目をつけられたらヤバい人」

「……マーゴさんよりも?」

「ボクみたいな下っ端なんか、相手にならないよ。クティさんでも相手にならないもん」


 弱り切ったマーゴの声に、愛澤が固まっている。

 

「そんなすごい人がなんで私の夢の中に?」

「それはボクが聞きたい! なんでトキア様が……いや、トキア様が関わってるなら、中途半端に千春ちゃんの記憶が残ってるのも納得なんだけど」

「あっそれ、夢で言ってた気がします。外レ者は、自分より弱い相手の能力は効かないって」


 マーゴは弱々しく頷く。それから頭を抱えた。


「メモリアよりもトキア様は上。ってことは、メモリアの能力を、トキア様が何らかの方法で打ち消した」

「私に加護をつけたけど、初めてだから失敗したっていってました」

 

 加護という言葉に、マーゴは目をむいた。それから額を押さえて天井を仰ぐ。


「待って、いつの間に。トキア様、今は山に引きこもってるのに、いつの間に」

「私も覚えがないので、前の私が仲良くなったんですかね?」


 半信半疑のままそういうと、マーゴは涙目になる。


「ってことは、近いうちにボクらと接点できるってことじゃない!? だって千春ちゃん、ボクらと行動してたんだよね!? クティさんと一緒にいたんだよね!? ってことは、ボクも巻き込まれる!!」


 マーゴは頭を抱えて「嫌だぁあ!!」と叫んだ。そのままベッドに額をこすりつけて、布団をバンバンと叩く。愛澤が微妙な反応をしたが、あまりの嫌がりように、人のベッドでやめてくださいという言葉は飲み込んだようだ。


「そんなに嫌なんですか?」

「嫌だよ! 機嫌そこねたら、何されるか分からない人だよ!?」

「そんなに怖い人には思えませんでしたけど」


 全てを思い出したわけではないが、夢の中のトキアはずっと楽しそうに笑っていた。千春の好物であるアップルパイをごちそうしてくれたし、千春の記憶が消えたことを謝ってくれた。

 マーゴのいう怖い人と、夢であったトキアの姿が繋がらず、千春は首をかしげる。


「それは、千春ちゃんがトキア様に気に入られているからだよ! どうでもいい人間はゴミのように扱うし、嫌いな相手へのしつこさが異常なんだからね! 一度嫌われたら、一度死んだくらいじゃ許されないんだから!」


 涙目でマーゴはそういうと「もう関わり合いになりたくない!」と叫んだ。その悲痛な叫びを聞いて、千春は再び愛澤と顔を見合わせる。


「愛澤先輩、どう思います?」

「……藤堂がとんでもない奴に好かれる才能持ちだということはわかった」


 どんな才能? と思ったが、愛澤がやけに神妙な顔をしていたので、千春は黙る。


「言うことは、聞かない方がいいんですか?」


 千春としては記憶を取り戻す可能性があるのなら、どんなに恐ろしい人の提案だろうと試してみたい。しかし、千春にはメモリアとニムと連絡をとる手段がない。マーゴに協力してもらえなければ、トキアの提案を試すことすらできないのだ。


「……いや、トキア様が関わってるならボクに拒否権なんてないよ。ボクが協力しなかったなら、後でボクがどんな目に合わせられるか!」

「そこまでですか」

「クティさんの数十倍怖いからね!」


 クティの数十倍という言葉に愛澤も青ざめた。愛澤の中で一体どんな想像がされているのだろうか。


「でもまあ、トキア様のおかげでメモリアを呼び戻す口実は出来たかな。トキア様案件は最優先だから」

「ほんとにすごい人なんですね」


 千春はトキアの姿を思い浮かべるが、やはりマーゴがいうような怖い人には思えなかった。気に入られているからだとマーゴはいうが、そんな怖い人になぜ千春は気に入られたのだろう。


「……クティさんもトキアさんも、前の私を気に入ってるんですよね」


 小さなつぶやきは自分でも驚くほど湿っていた。言う予定じゃなかった言葉が飛び出したことに驚いて、千春は慌てて口を塞ぐがもう遅い。

 青ざめていた愛澤も、嫌だと喚いていたマーゴも、千春をじっと見つめていた。


「……前の千春ちゃんがどういう人だったのか、ボクはわかんないけどさ」

 マーゴは慎重に言葉を選びながら話しだし、千春を安心させるように笑みを浮かべた。


「きっと今の千春ちゃんとそれほど変わらないと思うよ。前と今で別人みたいに変わってたら、クティさんもトキア様も協力なんてしないだろうから」

「たしかにクティさんは情がなさそうですね」

「いや、あれでクティさんは身内に甘いところあるから、トキア様の方が酷いよ。前の君は好きだったけど、今の君には興味ない。って笑顔でバッサリいうからね」


 マーゴは妙に高い声を出してトキアの口真似をした。口真似の完成度はいまいちだったが、トキアがマーゴが口にしたセリフをいうところは簡単に想像することが出来た。想像することが出来たということは、前の千春はそういうトキアの姿を見ていたということだ。それに気づいて千春はゾッとした。やっとマーゴが怖がっていた意味が分かる。


「トキア様が出てきたなら、ボクは嫌だけど協力するほかないからさ。ボクは嫌だけど」


 心底嫌そうな顔をするマーゴを見て、トキアはマーゴに何をしたのだろうと千春は不思議に思った。


「それに、クティさんにとって都合がいい選択肢に、誘導される可能性が減るし」

「誘導……」

「クティさんは千春ちゃんの選択が見えるからね、千春ちゃんの選択を誘導して、自分にとって都合が良い方向に向かわせるのはお手の物なんだよ」


 マーゴにいわれてその可能性にやっと気がついた。マーゴと愛澤はとっくに気づいていたらしく、驚く千春に呆れた視線を向けた。


「私がいくら頑張っても、ダメってことですか?」

 泣きそうな顔で聞けば、マーゴは「落ち着いて」と苦笑する。


「言ったでしょ。可能性が減るって。トキア様との接点が増えれば増えるほど、千春ちゃんはクティさんの誘導から逃れられる」

「どういうことですか?」

「外レ者は自分よりも弱い相手の能力が効かない。つまり、トキア様の干渉を受けている間の千春ちゃんの分岐は、クティさんからは見えない」


 千春と愛澤は目を見開いた。トキアという存在がいかにすごいのか、やっと理解する。


「クティさんがどこまで、千春ちゃんの分岐を把握してるのかは分からないけど、トキア様が夢で接触してきたのには気づいていないはず。となると、なるべく早くメモリアを呼び戻して、トキア様に会いにいったほうがいいね」


 マーゴはそこまでいうと、じっと千春を見つめた。


「でもいいの? 思い出したらもう引き返せないよ? 前の記憶は千春ちゃんにとって辛いものだと思う」

「私は知りたいです」


 迷わずに千春は答えた。間をおかずの返答にマーゴは驚いたようで目をパチパチとまたたかせ、それから首をかしげた。


「そういうところが気に入られたのかなあ」

「クティさんにですか? トキアさんにですか?」

「二人ともだね」


 マーゴはそういうとニコニコ笑う。 

 

「じゃ、メモリアが帰ってきたら教えるから、千春ちゃんは心の準備しておいてね」

「はい!」


 元気いっぱいに千春は返事をした。不安よりも期待が大きい。今まで感じていたモヤモヤが、やっと解消されるのだという希望を感じていた。

 浮かれる千春を見てマーゴと愛澤は微妙な顔をする。二人のなんともいえない視線を肌で感じたが、千春は気にしなかった。


「……気合い十分なのはいいけど、瀬川のことも少しは考えてやれよ」

「あっ……」


 忘れてたと表情で語る千春を見て、愛澤は「可哀想に」と心底同情した様子でつぶやく。それに対して千春は、顔をそらすことしかできなかった。

 

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