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「ほーむら、聞いてる?」
ぼーっと空を眺めているとお見舞いに来てくれた佐々木が声をかけてきた。
「え、ごめん。聞いてなかった」
咄嗟に謝ると佐々木は微笑んだ。
「いーよ、今日は空眺める日?」
「んー、今日も綺麗だなぁーって」
空は綺麗だ。毎日違う表情を見せてくれる。曇りだって雨だって僕にとっては一日しか見れない特別なものだと思っている。ただ理解してくれる人はあまりいないけど。
「そっか、いつも思うんだけど写真撮れば?」
「うんー、気分かな」
「ふーん・・・」
興味深そうに僕の顔を眺める。
『パシャ』
「え、何?」
静かな病室にシャッター音が響く。突然の音に驚き、佐々木の方に顔をやる。
「いや、空眺めてる穂村ってきらきらしてていいなって」
「へ?きらきら?」
「そう、きらきら」
何を言ってるのか理解できない。
「・・・よく分かんないけど消して?」
「やーだね」
即答で答える。醜いこの顔を写真に収めて何の得があるのだろう。僕は佐々木が手に握っているスマホを奪おうと手を伸ばす。
「だーめ」
意地悪な顔でスマホを上に上げる。
「ちょ」
僕はめげずにスマホを必死で掴もうとする。
当然の如くこの身長差では取れない。
「ふはははっ」
悪魔のような笑い声をあげて嬉しそうに僕を見下ろす。何とも憎い・・・。
「んじゃ今日は帰ろうかな」
佐々木はそっと立ち上がり鞄を手に持つ。
「うん、来てくれてありがと」
「んー?気にせんでいいよ、俺が勝手に来てるんだし」
佐々木はいつもこう言う。正直いって僕なんかに構ってて大丈夫なのだろうか。佐々木の人柄からして友達は山ほど居そうだが。
「じゃあまた明日」
佐々木は手を振り病室から出ていく。
僕は背中をベットに倒す。誰もいなくなった病室はものすごく静かで寂しく感じる。
再び空を眺める。今日も夕陽は綺麗だ。淡いオレンジと青が混ざったような色が空全体を埋め尽くしている。そこで意識がふっと消える。