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2話 親子の再会

「私から入りましょうか?」

「ああ、そうしてほしい。どうせなら驚かせたいからな」


 シャルリー様はそう言って、少し悪戯な微笑を浮かべる。私もその彼に同調するように笑い、目の前の扉をノックして中に入った。


 すると、すぐにキラリと輝く天色のつぶらな瞳と目が合った。


「あっ! ママ!」


 四歳になった息子のフェリックスは、私に気付くと満面の笑みで駆け寄ってくる。

 毎日どころか、二時間前にも会っているのに、どうしてこうも毎回会うたび新鮮で可愛らしいのだろうか。


 目の色は私に似ていると思うが、それ以外はシャルリー様をそのまま子どもにしたであろうくらいシャルリー様にそっくり。

 そんな最強の遺伝子を引き継ぐフェリックスは、愛嬌たっぷりな性格も相まって、我が子ながら天使でしかなかった。

 毎日一緒にいるだけで、本当に幸せな気持ちになる。


「ママ会いたかった!」

「私もよ! いらっしゃい、フェリックス」


 屈んでフェリックスに声をかけると、彼ははしゃぎながら私の首に腕を回すように抱きついてきた。

 そんな彼の肩越しには、五分ほど前に終わったお勉強での頑張りが伺える。


「今日もよく頑張ったのね」

「うん! ふふふっ!」


 フェリックスが、私の肩口に顔を埋めて笑う。そのこそばゆい振動を感じながら、私もギュッとフェリックスを抱き締め返し、頭を一撫でした。


 シャルリー様も早く、フェリックスをこうして抱き締めたいだろう。

 今か今かとこの瞬間を待っているはずだ。


 私はフェリックスと一度距離を置き、爛々と光に満ちた彼の目を見て話しかけた。


「フェリックス。実はね、あなたがとーっても喜ぶお知らせがあるのよ」

「なあに?」

「ふふっ、入って良いですよ」


 背後にある扉に顔を向けて、外で待機している人物へと呼びかける。

 間もなく、その合図に合わせてシャルリー様がフェリックスの前に姿を現した。


「フェリックス、ただいま」


 ――さて、どんな反応をするのかしら?


 私は期待と好奇心を胸に潜ませながら、二人へと視線を行き来させる。

 そのとき、フェリックスが大きな目をさらに大きく真ん丸に見開くと、両頬に片手ずつ添えて叫んだ。


「パパ!」


 そう口にするや否や、フェリックスはそのまま両手を上げて駆け出し、受け止めるように屈んで両手を広げたシャルリー様に飛びついた。


 シャルリー様はそのフェリックスの衝撃に一切動じることなく、彼を抱き上げてすくっと立ち上がる。


「どうしているの? みんな、まだ帰って来ないって言ってたよ?」

「フェリックスとママに会いたくて早く帰ってきたんだ」

「そっかー! ふふっ、そんなにぼくとママに会いたかったんだね。でもね、ぼくはもっともっとパパに会いたかったよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、私はズドンと胸を打たれた。


 ――ああ、我が子ながらどうしてこんなに満点の回答ができるの……?


 社交界に出すには純粋過ぎて、今から心配になってくるほどだ。


 シャルリー様も同じ思いだったのだろう。

 フェリックスの言葉をダイレクトに食らった彼は、一瞬私に目を向けて、無垢な愛に戸惑うように瞳を揺らしていた。


 しかし、さすがは“氷の公爵様”。すぐに切り替えた様子で、抱き上げたフェリックスに視線を戻して声をかけた。


「ありがとうフェリックス。だがお父様はもっともっともっとフェリックスに会いたかったぞ」

「うん! でも、ぼくはもっともっともっともっとパパに会いたかったよ!」

「嬉しいな。だが、お父様はもっともっともっともっともっとフェリックスに会いたかった」

「ありがとう! でも、ぼくはもっともっともっともっともっともっと――」


 前言撤回、まったく“氷の公爵様”ではなかった。


 子ども相手に向きになっているシャルリー様なんて、クローディアの邸宅の外の人は想像もできないだろう。

 私は心の中で笑いながら、ふたりに声をかけた。


「とにかく、ふたりともそんなに会いたいと思えるくらい、お互いのことが大好きなのね」


 フェリックスが言い切るのを待ってから声をかけると、ふたりは私の顔を見て、同時に笑いながら頷きを返した。

 その笑顔を見るだけで、これまでの五年間が報われたような気持ちになる。


 一歩踏み出す勇気を出して偉かったと、あの日の自分に全力で褒めて感謝したい。なんて思っているうちに、私の横のふたりはとある会話を始めた。


「フェリックス、今日は何の勉強をしたんだ?」

「今日はね、字のおべんきょうと星明かりのしゅくさいについておべんきょうしたよ!」

「ふっ、字と星明かりの祝祭について勉強したんだな」

「うん! しゅくさいのお話がとっても楽しかったの!」


 星明かりの祝祭とは、毎年クローディア領地で伝統として行われる、地域住民交流のための祝祭だ。

 この祝祭の最大の特徴は、参加者は老若男女問わず全員が仮面を装着するということ。

 この日だけは身分の垣根をなくすため、という理由があるそうだ。


 ――星明かりの祝祭の話になると、あの時のことを思い出しちゃうわね。


 五年前、まだフェリックスが生まれていない頃に、私が初めてシャルリー様と参加した星明かりの祝祭。

 その日の思い出が、ふと私の脳裏に呼び起こされた。

3月10日(月)

本作『氷の公爵様と私の幸せな契約再婚』が双葉社様より発売されております!


加筆修正して、WEB連載よりさらにグレードアップしておりますので、お手に取っていただけますと嬉しいです。

応援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。


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