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終わらない恋

番外編です。楽しんで頂くために以下のことをご了承ください。

・一部流血表現があります

・死についての話があります

・ヴァンパイアについて独自の設定があります


妹の仇であるヴァンパイアの屋敷から見つけた一通の手紙。そこにはヴァンパイアが人に戻る方法が書かれていた。


もし白月さんと本当に添い遂げるなら、これを試すくらいの覚悟がないと許せない。だから私は賭けに出た。きっとジークならするだろうと踏んで。しなかったら私が貰い受けるつもりだった。


まぁ向こうは兄のようにしか思っていないだろうが。


それでも良かった。白月さんが私のものになるなら。結果としてはならなかった。それが意味することは一つだ。


あのヴァンパイアはやってのけたのだ。ははっ男として負けた。私が同じ立場なら怖気付いてしまうだろうから。私は大人しく引き下がり、二人が幸せになることを祈った。



二人が無事に結ばれてから2年程が経ったある日。自宅のあるマンションの裏手に一人の金髪の女性が息苦しそうに悶えているところに遭遇した。


この血の匂い、ヴァンパイアか。


大方血が不足して死に至る手前といったところか。以前の私なら素通りしていた。けれど何となくその女性を放っておくことができなかった。



「大丈夫ですか?」


「お兄さん…あの…不躾なお願いで申し訳ないんですけど、血を恵んでいただけませんか?」


「…はぁ。」


「ごめんなさい!私やっぱりこのまま飢え死にしますね!忘れてください!」



溜息をついただけなのになぜそんなに慌てるんだ?私は手首を差し出し女性に告げた。



「私の血でよかったら。」


「え?」


「いらないならこの手を引っ込めますよ。」


「いえ!あのじゃあお言葉に甘えて…ちょっと待ってください。やっぱり親指くらいで大丈夫です。」


「なぜ遠慮するのですか?」


「だって歯形が付いたら困るでしょう?」



このヴァンパイアは妙なところで気を使うな。まぁそういうならと親指を出し血を吸わせてやった。女性は生き返った〜!と至極元気そうに笑顔を向けた。



「本当に助かりました!ありがとうございました!」


「いえ。…では私はこれで」


「待ってください!お礼にその…家事でも何でもやります!」


「貴女ねぇ。女性がなんでもと気安く言ってはいけませんよ。」


「すっすみません!でも本当に助かったので…」



何が琴線に触れたのか分からなかったが顔を赤くしてモジモジしていた。何か変なことでも言っただろうか?だが、家事か…丁度溜まっていたことがあるから疲れているしありがたいと働かない頭でその申し出を受けてしまった。



家に上がらせると早速魔法で皿洗いを終わらせてくれた。早いな。これは使える。



「あの次は何をやりましょうか?」


「では床掃除をお願いしても?」


「はい!任せてください!」



こき使われているだけなのにどうしてもそんな笑顔で頷けるのか甚だ疑問だった。もしやお馬鹿なのか?…今日は本当に疲れているな。女性に断りを入れて私はさっさと就寝したのだった。



次の日、流石にもうどこかへ人間を狩りに行ってしまっただろうと思い玄関のドア開ける。するとエプロンをつけてお玉を持ちながら出迎えられた。



「おかえりなさい!ご主人様!」


「ただいま帰りました。そしてそのご主人様というのはやめてください。」


「だってお名前知らなかったから」


「…黒瀬真尋です。」


「へ?」


「私の名前です。お好きなように呼んでくださって構いませんよ。」


「では真尋様と呼びしても?」


「…何でもいいです。」



正直様付けにもツッコミを入れたかったが面倒になって放置した。スーツを脱ぎ、ネクタイを解いていると焦ったような声で話しかけられた。



「すみません!ご紹介が遅れました!私はエレーナと申します!」


「そうですか。ではエレーナさん。なぜまだここにいるのか説明して頂いても?」


「えっと…実は私同族狩りに遭いまして…」


「は?」



エクソシストを生業にしていた際、噂には聞いていた。しかし本当に起こっているとは思わなかった。



「ご迷惑を承知でここで避難させて頂いておりました…申し訳ございませんでした…」


「そうですか…もしや昨夜のあれも?」


「はい…怖くて逃げたんですけど途中で力尽きてしまって…でもそんな時、真尋様が助けてくださったんです!感謝してもし切れません!」



エレーナさんは眩しいくらいの笑みを浮かべた。そうか…私はこの女性に妹の笑顔を重ねていたのか。気づいてしまったら放っておけなくなり暫く家政婦として匿うことにした。



そんな奇妙な関係が3ヶ月程続いたある日のことだった。



帰宅すると誰かに荒らされたかのように部屋が散乱していて見るに耐えない状態になっていた。私は嫌な予感がして匂いを辿った。



他の血の匂い。



クソッどうしてこういう時の予感は当たるんだ!!!私は急いで魔法陣を展開し粒子を洗い出した。近くの廃墟のビルまで繋がっているな。忌々しいヴァンパイアめ。エレーナさん今助けるから待ってなさい。



普段は魔力消費が激しいから使わなかった転移魔法を使い廃墟ビルまで一気に飛んだ。そして目に飛び込んだのは衣服がぐちゃぐちゃにされ、あられも無い姿になったエレーナさんだった。



「よくも…この子に手を出したな…地獄に堕ちろ!!!ヴァンパイア共め!!!」


「ひっひっひ!こいつ人間だぞ!美味そうだ!」


「そうだなぁ!のこのことやってきて馬鹿な奴だ!」


「馬鹿はどちらだ?gates of hell(地獄の門)」


「「ぎゃあああああ!!!」」



ふっ雑魚だったな。私の下位魔法で一網打尽にできてしまうとは。それよりもエレーナさんに早く血を与えなければ!



「エレーナさん!聞こえますか!」


「ま…ひろ…さま?」


「全く…心配をかけさせないでください。心臓が止まるかと思いました。」


「す…みませ…」


「手荒な真似で申し訳ありませんが許しなさい。」


「へ?」



私は唇を思い切り噛んで口移しで血を与えた。うん。しっかり飲んでいるな。これなら回復もすぐだろう後は服か。私は妹が着ていた白の花柄のワンピースを着せた。そして転移魔法で自宅へ戻ってベッドに寝かせたのだった。



翌日の夜、目を覚ましたらしいエレーナさんは顔を真っ赤にさせて部屋から出てきた。



「あの…真尋様」


「なんですか?」


「えっと…昨日はありがとうございました!私掃除してきます!」


「まだ全快した訳じゃないんですから無理なさらなくても」


「いえ!掃除がしたい気分でしたので!では!」



掃除をしたい気分ってなんだ?それに耳まで真っ赤だった。もしや昨晩のことを気にしているのか?まさかな。



けれどそれから数日ずっとエレーナさんと目が合うことはなく、私は痺れを切らして家事に勤しんでいるエレーナさんを無理矢理ソファに座らせた。



「エレーナさん。どうして目を合わせないんですか?」


「それは…」


「私が何かしてしまったなら謝ります。ですから説明してください。」


「あっあの…笑いませんか?」


「はい。笑いませんよ。」


「実は…その…真尋様からされたキッキスが初めてで!!!頭から離れなくてそれで!!!」


「わっ分かりましたから落ち着きなさい。」



水色の双眸から涙が溢れそうになって慌てて宥めた。気にしていたのか。しかも初めてでは尚更か。



「うっ…私ばかりが気にしてすみません…」


「いえ…私の方こそすみません。考えが及ばず…」


「そんな…救命措置ですもんね…」


「まぁそうですね…」



なんだこの気恥ずかしさは。相手はヴァンパイアで、だが女性に変わりはないし…ダメだ頭が混乱してきた。私達は気まずい雰囲気のままその日を終えたのだった。



エレーナさんと共に過ごして一年程経った。なんだか最近は元気がない気がする。私はその原因を何となく本人に聞くことができずにいた。


しかしある日の夜突然、エレーナさんはさも当たり前のように告げてきた。



「私もうすぐ寿命が尽きそうなんです。」


「は?」


「今までお世話になりました。真尋様、お元気で。」


「待ちなさい!!!」


「わっ!!!」



気づけば私は彼女を引き寄せ腕に抱き込んでいた。あぁそうか私はエレーナさんが好きになっていたのか。



「好きですよ。」


「えっ?」


「ふっあんなにも憎んでいたヴァンパイアに恋焦がれるなんて馬鹿な男ですね。私は。」


「そんなこと…」


「私は妹をヴァンパイアに食い殺されました。」


「なら…どうして私なんかを」


「貴女は私の妹に似ているんです。勿論女性として好いていますが。」


「妹さんに…よければ教えて頂けませんか?妹さんのこと。それと真尋さんのことを」


「喜んで」



そうして私達の唇が重なった。一瞬だったけれど、幸福感に満ち溢れていた。



それから妹の話や私の身の上話、エレーナさんの過去について色々話した。夜も更けて月が高く登った頃、エレーナさんが緊張した面持ちで口を開いた。



「真尋様…お願いがあります…」


「なんですか?」


「一度でいいのです。私を抱いてはくださいませんか?」


「…いいんですか?」


「はい。真尋様がいいんです。」



彼女は私の一番好きな笑みを浮かべて、頬を私の手に擦り寄せた。貴女も同じ気持ちだったんだな。そして私は彼女と体を重ねたのだった。



翌朝、ベッドの横を見るとそこには砂山ができていた。まさか…彼女は…もう…



「うわあああああああああ!!!!!」



どうして!!!彼女はヴァンパイアだったんだ!!!人ならこんな呆気なくいなくなったりしないのに!!!私は砂を涙で濡らした。来世こそ人として出会えますように。そう切実に願いながら。




私は黒澤真、二十五歳。突然だが前世の記憶があると言ったら信じるだろうか?どうやら私には前世恋仲だった人がいたようだが、悲恋で終わってしまったらしい。


まぁだからと言って相手を探せるかと言われれば分からない。余りにも記憶が断片的で、思い出せるのはエレーナという金髪のロングで水色の目を持った美しい女性だったということだけだ。



そんな記憶を抱えながらビルが立ち並ぶ街中を歩いていた際、一人の金髪の女性とすれ違った。


この人だ。


私は妙な確信を持って彼女を引き留めた。



「あのすみません」


「はい?」


「…エレーナという名前をご存知ですか?」


「…もしそうだと言ったら?」


「私の前世が黒瀬真尋という名前だったと言えば信じて頂けますか?」


「真尋…本当にその記憶をお持ちなのですか?」


「えぇ。貴女も?」


「はい。エレーナというその…架空の存在だと信じられてきた存在だったという記憶が朧げにあります…」



そうか。それだけ分かれば十分だ。



「その、突然呼び止めてすみませんでした。」


「いえ…あの、この後予定ってありますか?」


「特には。」


「なら食事でも一緒にどうですか?」


「…いいですよ。」


「よかった!」



あぁあの頃と同じ笑みだ。私は前世の彼女の笑みと重ねて微笑み返した。今度はこの手を離さぬように。もう一度、恋をしよう。貴女と共に。

ここまでご覧頂きありがとうございました!書きたいところは全て書けたのでこれにて終了とさせて頂きます。お付き合い頂き本当にありがとうございました。

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