第九話 『兄弟』
体験入店していた、悦楽の園クレムパイズの報酬の精算をようやく終えた私…。
「エスデンド様?大変お待たせしました…。」
私の…五人目の恋人となった、領主の息子エスデンド様には一緒に待機部屋で、待っていてもらっていた。
「ユナさん?アナタからエスデンド様と呼ばれるのは…他人ぽくて嫌だな?」
「では…エスデンドさん…?」
「うん。今の僕にぴったりだ!!」
周りにいた娼嬢や黒服さん達は、エスデンドさんの変わりようにとても驚いていた。
そのエスデンドさんを連れて、従業員専用の通用口がある事務所へと向かった。
――コンコン…
「ユナです!」
事務所のドアをノックした。
「ユナちゃん、どうぞ入ってらっしゃい?」
レジーナさんの声が聞こえた。
「はいっ!」
――ガチャッ…
――ギィィィィッ…
事務所の扉を開けた。
「ユナさん!!待ってたぞ?」
そこにはウエンディルさんの姿があり、声を掛けられた。
あれからずっと待っていてくれたのだ…。
「おいおい…。ユナさん…まさかの事態発生か?!エスデンド居るじゃないか!!」
「あ…。え…?!ウエンディル先輩!?どうして??」
絶妙に気まずいような空気が…事務所を包み始めた。
「ウエンディルさん!!紹介します!!五人目の恋人のエスデンドさんです!!」
事務職の時、クレーム電話に対して実践していた…“誠意をもって大声で答えれば相手も怯んで何とかなる説”を、久しぶりに実践した。
そうだ!!会社…。
リヴくんに召喚されてから、一週間以上…無断欠勤だ。
頑張って五年勤めたけれど、もう流石にクビだろう…。
でも…あの当時の状況から判断すると、お風呂に入ったのを最後に…忽然と姿を消した二十七歳、OL…ってニュースとか記事になってる方かも知れない。
事件性の香りプンプンするし…マスコミの力で、会社も無碍には私をクビには出来なくなるだろうし…。
まず一番に疑われるのは…元彼か…。
あ!!私、部屋の合鍵…返してもらってなかった…。
まぁ、もうどうでもいい…。
なんか遠くで私を呼ぶ声がする…。
ああそうだ…ウエンディルさんにエスデンドさんの事紹介して…思い出したんだっけ。
「おーい??ユナさーん?」
ウエンディルさんだった。
「僕の指名受ける前の客に、相当酷い事されたみたいですから…。」
「ああ、聞いた。ってか、そいつさ?レジーナさんの転送魔法で俺の前に送ってもらって、ボコしといた。」
レジーナさんが部屋に踏み込んできて、あの忌まわしいチ○牛系が消えたのは、そう言う段取りだったなんて…。
「うわ…。先輩…怒ると怖いからなぁ…。考えたくも無いですよ。」
エスデンドさんが先輩と言うのだ、仲が良いのだろう。
でも…イヴェリザさんが領主の息子に気をつけろと言っていたのは何故だろう…。
「あとで、お二人について聞きたいことが…。」
「構いませんよね?先輩。」
エスデンドさんは頷いてくれた。
「と言うか…エスデンド、お前…こう言う子がタイプだったのかよ?」
「いつも寄る服屋に居たら、ユナさんが試着させて貰えなくて、困ってたの見たら…。電撃が走った感じです。だから、声かけようと…外で隠れて出待ちしていたらですよ?店から出てきたユナさんの背後に、ダークエルフの暗殺者が姿を現した時は…流石の僕でもビビりましたよ。」
リヴくんはそれを分かっていて、ダークエルフの姿で背後から現れた事を今知った…。
やっぱり…かなり優秀だけど嫉妬深い恋人かもしれない。
「あー。お前、あの姿見ちゃったのかよ?あれ、ユナの一番目の恋人の通称リヴだぞ?」
「本当ですか?!先輩…僕だから、からかってません?」
実はウエンディルさんは、からかうのが好きなのか…。
私に対しては、からかって来ないのだけど…。
変に気を使わせているのだろうか?
それはそれで、少し心配になってしまった。
「エスデンドさん…?ウエンディルさんの言ってる事は、本当ですよ?」
「えー。僕の人生、終わった…。絶対、先輩より強いんだろうな…。」
エスデンドさんの絶望した顔ときたら…相当きていた。
「まぁ、そうだな…?リヴはある意味…最強だからな?」
そう、ある意味変幻自在。相手を倒していくたびに、際限なく能力が増え、姿も変えられるのだ。
「じゃあ、レジーナさん?ユナ連れて帰るわ!!ユナの社会勉強の場作ってくれて、ありがとうな?」
「体験入店狙いのクズ達に、ユナちゃんが壊されちゃいそうで…ヒヤヒヤしたわよー?ねぇ、ユナちゃん?アナタは…コイツ達からお金やモノをいーっぱい貢いで貰いなさい?だから、こんな所には戻ってきちゃダメよ?わかった??」
一つ一つの言葉に、レジーナさんの優しさを感じた。
「はい!!レジーナさん…ありがとうございました!!」
深々と私はレジーナさんの前で頭を下げた。
「ってよ?エスデンド!!お前も…頼むぞ?」
「当たり前ですよ!!金回りだけは…先輩には負けたく無いですからね!!」
二人のそんな話を聞きながら、私達は事務所を後にした。
――――
ピンと張り詰めた空気の…宿屋の一室。
何故こうなってしまったのか…。
その理由はと言えば少し前に遡る。
悦楽の園クレムパイズから私達三人は、意気揚々と宿屋にあるウエンディルさん達の常宿の部屋まで、寄り道もせずやってきた。
――コンコン…
「おーい!!俺だー!!」
――カチャッ…
部屋の中からドアの鍵が外された音が聞こえた。
――ギィィィィッ…
ドアを開けると、部屋の中でリヴくんとアヴィラズさんは兵法についての話を、イヴェリザさんは何やら書物を読み耽っているところだった。
「聞いてくれ?ユナさんが…この世界に来て初めて、娼嬢の仕事でお金を稼いできてくれたんだ!!」
ウエンディルさんが私への労いも込めて、他の三人達の注意をこちらへ引きつけてくれた。
「金貨…三百三十枚くらいにしかなりませんでしたけどね?」
私の言葉に、部屋に居た三人は驚きの表情を浮かべた。
「それは…何人くらい相手にした金額なのだ?」
恋人なら普通…誰もが気になる相手にした数なのだが、アヴィラズさんは素直に聞いてきてくれた。
「三人です…。」
正直に人数は答えてはみたが…接客サービスの詳しい内容までは伝えなかった。
「三人?!あー!!もー!!俺のユナを蔑めたやつ…殺す。散々、色んな事されて遊ばれたんだろ??ユナの胎内に常駐させてる…俺の一部が防衛反応した形跡があるからなぁ?」
今日、私が相手にした人数を聞いたリヴくんは、今まで私達に見せた事が無い程、悪態をつき感情も露わにしてブチ切れていた…。
恐らく…リヴくんは今、ダークエルフの姿の為、性格も冷酷で残虐性のある感じに…寄ってきてしまっているのだろう…。
「あの…。今の…リヴくんの事…。私、凄く怖いよ…。」
――ぽよんっ!
「ユナ…ゴメンね…?ねぇねぇ?これなら良いかなぁ?」
愛くるしいスライムの姿に、リヴくんは戻ってくれた。
「えっ!?どう言う事ですか?!リヴさんって…スライムなんですか!?」
ウエンディルさんの後ろにいたエスデンドさんが一人驚きの声をあげたのだ。
「おやおや?これはこれは…領主の息子さんじゃないですか?今日は何用でこちらに?」
「高位悪魔のイヴェリザ!?最近、女性をはべらせている所を見ていないと思っていたら…。先輩のところに居たんですか?!」
「そうですよ?それにもう、私はユナさんの恋人ですからねぇ?」
「なっ!?僕も今日…ユナさんの五人目の恋人になった。イヴェリザ、ユナさんの為に…無駄な争いはやめよう。」
「では、今日から私達五人は、兄弟と言うことになりますね?ユナさんの身体を共有し、時に奪い合う。」
このイヴェリザの余計な一言が、原因だった。
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この話の主な登場人物
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名前:望月結奈 ふりがな:もちづきゆな
通称:ユナ
年齢:二十七歳
性別:女
種族:人間
職業:無職
魔法:不明
能力:不明
肌:肌色(ブルベ系)
髪:ロング(黒色)
目:焦茶
身長:百六十cm位
体重:五十kg位
バストサイズ:Dカップ
足の大きさ:二十三cm
その他:リヴ達五人の恋人、リヴの主人
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名前:リヴィルス
通称:リヴ
年齢:不明
性別:不明
種族:スライム
職業:暗殺者、召喚士
魔法:不明
能力:外見習得、機能習得、能力習得
擬態:ダークエルフ、ゴブリン
肌:水色
髪:―
目:◉
身長:変幻自在
体重:変幻自在
その他:ユナの恋人の一人、ユナの使い魔
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名前:アヴィラズ
通称:不明
年齢:三百二十歳
性別:男
種族:エルフ
職業:魔法剣士
魔法:不明
能力:不明
肌:透き通る白色
髪:ウルフ(銀色)
目:翆色
身長:百八十cm位
体重:七十kg位
足の大きさ:二十六cm
その他:ユナの恋人の一人。リヴを気に入っている
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名前:イヴェリザ
通称:不明
年齢:千歳以上
性別:男
種族:悪魔(高位)
職業:司教(自称)
魔法:不明
能力:不明
肌:血の気の無い蒼白い肌
髪:ボブカット(真紅)
目:真紅
身長:百六十cm位
体重:五十kg位
足の大きさ:二十四cm
その他:ユナの恋人の一人、蛇のような舌
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名前:ウエンディル
通称:不明
年齢:二十七歳
性別:男
種族:人間
職業:騎士
魔法:不明
能力:不明
肌:少し浅黒い肌色、髭面
髪:長髪(金色)
目:碧眼(右側が隻眼)
身長:百九十cm位
体重:九十kg位
足の大きさ:二十八cm
その他:ユナの恋人の一人、昔魔王に恋人を攫われた
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名前:エスデンド
通称:不明
年齢:不明
性別:男
種族:ハーフドワーフ
職業:戦士
魔法:不明
能力:不明
肌:肌色
髪:ショートモヒカン(黒色)
目:焦茶
身長:百五十cm位
体重:八十kg位
足の大きさ:二十三cm
その他:ユナの恋人の一人、街ユルシェドの領主の息子、実はウエンディルの舎弟