第六話 『娼酒場』
「ありがとうございました!!今日はお客様のおかげで命拾いしました…。普段のエスデンド様は…あんなお優しく無いのです…。また、お越し下さい。」
――ギィィィッ…
――カランカランカラン…
店員さんがお店の扉を開けてくれた。
「はい。また利用させて下さい!では!!」
にこやかに私は買った服と靴を身に纏い、店を後にした。
宿屋に向かう私の足取りは…かなり重い…。
結局、服と靴と下着で、金貨九十五枚かかってしまった。
「全く…。ボクのお金無くなったじゃないか…。」
誰…?!
滅茶苦茶…タイプなんですけど…。
「あのぉ…?お兄さん?どちら様…でしょうか…?」
急に私の横に…紫がかった長髪、褐色の肌、黄金色の瞳、長身で細身なのに鍛え抜かれた肉体、長く尖った耳のイケメンが現れたのだ。
「ああ、声違うし…分からないかな?ユナ。ボクだよ?」
あ…。
他の三人に…目移りしてしまっていた自分を…殴りたい。
「リヴくん…なの?!例の…ダークエルフ!?」
「そうだよ?ユナが…好きかなー?と思って…。」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
四人の中で…今のリヴくんが一番好き!!
どうしようどうしようどうしようどうしよう…。
「ねぇ…?リヴくん?今から…甘えたいです…。」
もう…我慢の限界だった。
どうなっても良いと思ったら…口走っていた。
「ユナ?残念なお知らせがある。今日、これから泊まる予定の宿屋だけど、一泊金貨二十枚かかるんだ…。だから、泊まれないかもしれない。だから今は、ボクに甘えるの我慢して欲しい。」
何よりも…リヴくんに甘えられないのがショックだった。
今、リヴくんの手元には、金貨は残り五枚しかない。
現状このままでは、どうにもならない。
「うそっ…!?私は、ど…どうしたら良い?」
宿屋の方向に向かいながら、リヴくんと話している。
やはり、何処かのお店で働くしかないのだろうか。
「うーん…。そうだ!!実は…ユナには言ってないんだけどね…?」
急に…何なのか。
いったいリヴくんは、何を言い出すのだろう…。
「うん…。」
「ボクがユナの恋人になった日、万一の時、ユナを守れるようにって…ユナの胎内に、ボクの一部を常駐させたんだ…。だから…有意義に使って欲しいんだ。」
まず、リヴくんの身体の一部が常駐しているなんて…聞いてもなかった。
恐らく、有意義にと言うのは…リヴくんの一部が常駐サポートするから、大人のお店で働いても…怖くないと暗に言いたいのだろう…。
急にそんな事言われて…”うん。そうするね?“なんて言えるはずもない。
「ねぇ…?有意義にって…何なの?!」
「ああ…ちゃんと言わなきゃダメだよね…。実はね?ボクも、他の三人と同じく…冒険者ギルドに所属しているんだ。だから、依頼をこなせばいつでもお金は稼げるんだよ?でもさ…別の世界から来たユナは、娼酒場等でしか働き先が無いと思うんだ…。だから…望まぬ妊娠をしないようにだよ。」
娼酒場…?
元いた世界で言うところの、本番有り系な…大人なサロンや、大人なキャバレークラブの事だろうか?
でなければ、リヴくんが望まぬ妊娠なんて言うはずない。
流石、異世界と言うべきか…。
大人な酒場では、何でもありなのだろう。
「ねぇ?私も、冒険者ギルドに所属するのはダメ??」
パーティ全員で、報酬の良い依頼を一緒にこなせば…良い稼ぎになると思う。
なのに、どうして…娼酒場勧めるのは何故なのだろう…。
「ユナ?厳しい事言うかもしれないけれどね?冒険者ギルドに所属するには…実技テストがあるんだよ?」
「え…。私、紙に書いて登録するだけだと思ってた…。」
ゲームの世界のようには、そう簡単には進めないようだ。
「まぁ…そう思うよね?でも、今のユナでは…実技テストは無理だと思う。本当に…やらせではなくモンスターを討伐するんだよ…。だから、倒せるくらいまで…鍛えたり、色々習得しないとね?でもね?能力の習得には凄くお金がかかるんだ…。だから、娼酒場で働いて…短期間でお金を稼ぐ子が多いんだ。わかったかな?」
確かに私自身、お金は全く持っていない。
でも…誰かに借りれば良いという甘い気持ちがあった。
「なら、私が…知らない男に滅茶苦茶されても平気?」
「娼酒場の娼嬢は立派な仕事だから…?それを否定してしまえば、恋人を知らない男に寝取られそうになっている…哀れな男になるだけだから…。」
きっと…恋人の仕事として、割り切るだけ…。
実情については、リヴくんは平気ではなさそうだ。
お金がないカップルは…こう言う風に涙を呑むのだろう。
そんな事を言っている間に、宿屋が目の前に見えてきた。
――――
「その服の一揃えで金貨九十五枚だったのですか?!」
イヴェリザさんが驚きの声をあげた。
ここは…宿屋のウエンディルさん達の部屋の中だ。
この部屋は、ウエンディルさん、アヴィラズさん、イヴェリザさんが借りて拠点にしている三人部屋だった。
そこに、私とリヴくんがお邪魔しているのだ。
「んで、ユナちゃんは、冒険者ギルドに入る為の資金集めで…娼酒場で働きたいって事か?」
「はい…。ウエンディルさんは…嫌ですか?私が…知らない男に滅茶苦茶にされるのは?」
リヴくんにした質問をパーティリーダーのウエンディルさんにも聞いてみた。
「正直言って嫌だな。まぁ…冒険者ギルドの件は、俺らがユナさんに金注ぎ込めば、終わる話なんだが…。装備とか揃えるにはそれなりの金がいるし、金を貯めるって意味なら…俺の行きつけだった娼酒場を紹介するぞ?あそこなら、どこまで許すかの設定、出来たはずだからな?ちょっと行って話だけ聞いてこようぜ?」
流石、騎士のウエンディルさんと言うべきか。
私の事を想う気持ちは、本当にあるようだ。
「私も嫌ですねぇ…。お金なら、余る程ありますからね?でも、この世界の社会勉強という意味で、本日だけ体験するのは良いでしょう。」
悪魔のイヴェリザさんは本当に言う内容が違いすぎた。
社会勉強とは良い言葉かもしれない。
「リヴ?その姿、この前の冒険者ギルドの集会で見たぞ?」
「それ、ボクですよ?アヴィラズさんに見られてましたか…。」
私達三人の話をよそに、エルフのアヴィラズさんとダークエルフの姿をしたリヴくんの話が盛り上がってきていた。
「アヴィラズ!!お前、ユナさんが娼酒場で働いても良いのか?」
見かねたウエンディルさんは、リヴくんと話に夢中のアヴィラズさんに対し…声をかけた。
「そんなのダメに決まってるだろ!!当たり前の事を聞かないでくれ?ユナは俺達のモノだからな?」
やはりアヴィラズさんは…独自の世界観で生きていた。
私の事も、恋人として認めてくれている様子だ。
「とりあえずユナさん連れて、悦楽の園クレムパイズに行って来るわ。」
は…?!
私以外にもこの世界へ転移してきた人が居るのだろうか。
ネーミングセンスが…ダイレクト過ぎる。
「ユナさん?無理しないでくださいね?お金ならありますから。」
イヴェリザさんから、二度目の心強い言葉を貰った。
「はい。この世界で女性がお金を稼ぐ大変さを、社会勉強してきます。」
ウエンディルさんに手を引かれ、宿屋を後にした。
――――
「…てな訳でさ?俺の恋人のユナなんだが…今日限定の体験入店でさ?お金稼ぐ大変さ教えてあげてくれ。」
悦楽の園クレムパイズの事務所のような場所で、女主人とウエンディルさんが話していた。
「良いけど…大丈夫?ユナさんだっけ?ウエンディルの恋人なのよね?最悪…言わされて、本番あるからね?」
言わされる…?
どう言う事なのだろうか…。
「お金稼がないといけないので…宜しくお願いします!」
「まぁ、良いわ?ウエンディル、この子預かるわよ?」
「ああ!頼んだよ?レジーナ。ユナさんも無理しないでね?」
「はい。」
そう言うと、ウエンディルさんは事務所から出て行った。
「さて…。」
――――
この話の主な登場人物
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名前:望月結奈 ふりがな:もちづきゆな
通称:ユナ
年齢:二十七歳
性別:女
種族:人間
職業:無職
魔法:不明
能力:不明
肌:肌色(ブルベ系)
髪:ロング(黒色)
目:焦茶
身長:百六十cm位
体重:五十kg位
バストサイズ:Dカップ
足の大きさ:二十三cm
その他:リヴ達四人の恋人、リヴの主人
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名前:リヴィルス
通称:リヴ
年齢:不明
性別:不明
種族:スライム
職業:暗殺者、召喚士
魔法:不明
能力:外見習得、機能習得、能力習得
擬態:ダークエルフ、ゴブリン
肌:水色
髪:―
目:◉
身長:変幻自在
体重:変幻自在
その他:ユナの恋人の一人、ユナの使い魔
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名前:アヴィラズ
通称:不明
年齢:三百二十歳
性別:男
種族:エルフ
職業:魔法剣士
魔法:不明
能力:不明
肌:透き通る白色
髪:ウルフ(銀色)
目:翆色
身長:百八十cm位
体重:七十kg位
足の大きさ:二十六cm
その他:ユナの恋人の一人。リヴを気に入っている
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名前:イヴェリザ
通称:不明
年齢:千歳以上
性別:男
種族:悪魔(高位)
職業:司教(自称)
魔法:不明
能力:不明
肌:血の気の無い蒼白い肌
髪:ボブカット(真紅)
目:真紅
身長:百六十cm位
体重:五十kg位
足の大きさ:二十四cm
その他:ユナの恋人の一人、蛇のような舌
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名前:ウエンディル
通称:不明
年齢:二十七歳
性別:男
種族:人間
職業:騎士
魔法:不明
能力:不明
肌:少し浅黒い肌色、髭面
髪:長髪(金色)
目:碧眼(右側が隻眼)
身長:百九十cm位
体重:九十kg位
足の大きさ:二十八cm
その他:ユナの恋人の一人、昔魔王に恋人を攫われた