第三話 『遭遇』
暗い洞窟の中。
その足元には、ゴツゴツとした岩場。
リヴくんのブーツのお陰もあり、難なく歩けている。
そんな時だった。
光を灯しながら歩く私達の目の前に突如、広い空間が照らし出された。
――ぷにょん…ぷにょん…
しかも、桃色のスライムの姿まで…。
「あれ…?!人間のお姉さんが…何で!?」
とても可愛らしい声のスライムさんだ。
仲間が居る等…リヴくんからは聞いていない。
「ボクだよー?」
「わぁっ?!び、びっくりしたぁ…!!また、人間が探検に来たのかと思ったよぉ…。」
どうやら、人間が来る場所のようだ…。
リヴくんはこの一週間、何処かへ買い物へ行ってた。
という事は、近くに何らかの集落があるのかも知れない。
「人間の男は…怖いからね?今、洞窟の入り口にはね?人間の男が通ると、世界の何処かへ転移する魔法、かけておいてあるよ?」
「やっぱり!?入り口までは人間の声するんだけど…。急に大騒ぎしたと思ったら、声がしなくなってたの。おかしいなーって思ってた。」
結構、リヴくん…やる事がエゲツない…。
でも…この一週間、リヴくんがお出掛け中、裸の私が無事に過ごせていたのは、恐らくそのおかげだろう。
下手したら、人間の男性に…酷いことされたり、連れて行かれていたかも知れない。
「あ、そう言えば…恋人出来たって自慢してたのって、その人間のお姉さん?」
「うん!そうだよ?この人が、ボクの恋人のユナさん。」
「へぇ…。今度のお姉さんは…もつと良いね?」
今、一番…聞きたくない言葉だった。
やはり…リヴくんは、訳ありなのかもしれない。
でも、束縛強めとかなら、別に大歓迎なのだが…。
「えっ?!もつって…!?」
わざとらしく、桃色のスライムさんにカマをかけた。
「お兄ちゃんが、連れてくるお姉さん、暫くすると…みーんな出て行くの。」
さりげなく、お兄ちゃんと言った。
スライムに…兄妹という概念はあるのだろうか?
それよりも、もつという意味が…リヴくんに食べられたとか、殺されたとかじゃなくて、内心ホッとした。
「ダメだよ!!その話、言わないって…言ったじゃないか!!」
「お兄ちゃん…それ、ズルくない?ユナさんには、聞く権利あると思うんだけど?」
この洞窟まで…スライムがどうやって?
まず、それが一番最初に浮かんだ。
「リヴくん?どうやって…お姉さん連れてきたの?教えて?」
「依頼の手伝いをしてあげたり、魔物から助けてあげたりして、お姉さんと仲良くなってから…。」
もう、不純な動機すぎて…私は絶句した。
純粋な気持ちで、人間のお姉さんと結婚したくて、召喚してみました!とは訳が違う。
恐らくリヴくんには…肌から、脈拍から私の怒りと失望が伝わっているだろう。
「ユナ、ゴメンなさい…。ボクはスライムだし…そうでもしないと、人間のお姉さんとは知り合えなくて…。でも!!ユナの事は真剣に…結婚したいと思ってるから!!」
確かに…。
人間がスライムと結婚するメリットって、何か…あるだろうか?
でも、私も…リヴくんとの身体の相性が凄く良かったからっていう…不純な理由なのだけど。
そう、メリットは…人間の男性とは色んな意味で違うって事。
「なら、お姉さん達がもたなかった理由…教えて?」
「えっと…。」
急に、リヴくんは黙ってしまった。
「あぁ…。ユナさん?お兄ちゃんね…トラウマなの。お兄ちゃん?私が話しても良いかな?」
「うん…。」
リヴくんの、トラウマ?
もたなかったことが?
出て行ったことが?
果たしてどんな理由なのだろうか…?
「お兄ちゃん、人間のお姉さん連れてくるのは良いんだけどね?床に、お金とか宝石とか無造作に置いてあるの!ユナさんも…見たでしょ?」
「うん、確かに…。あ…。まさか…そういう事!?」
何となく理由が…分かってしまった。
リヴくんがお買い物行っている隙に…。
恐らく…。
「流石…お兄ちゃんを尻に敷くユナさん!!そうなの…。何日目かに、お兄ちゃんが食料の買い出しに行ってる間に…。お金とか宝石持って、出て行ったきり…。」
大体私の予想通り…。
「勝手に恋人のお金に手を出しちゃダメだよね…。それはリヴくん…トラウマだよね…。でも…何人くらいにやられたの?」
「三人…。」
案外、人間のお姉さんとの経験人数少なくて…私もホッとした。
と言うか…四人付き合って三人持ち逃げとか…ホントに悲惨だと思う。
「依頼の手伝いをしてあげた人と、魔物から助けてあげた人?」
「依頼の手伝いで二人…。出会い方がダメと思って、魔物から助けたのが一人…。でもダメで…。これで人間のお姉さん相手にするのは最後と決めて、召喚してみたら…ユナが来たんだ。思い切って召喚したこと、間違いじゃなかった。ユナ?ボクの恋人になってくれて…ありがとう!!」
何か…今すぐリヴくんの事、抱きしめてあげたくなった。
「私も…こんな身体張って、尽くしてくれる恋人は初めてだよ?これからも…リヴくんが人間の姿手に入れるまで、頑張っていこうね?」
「悪い人間でも…良いかなって、ボク…思い始めてきた…。」
そんなこと言ったら、あっという間に…私達の冒険が終わりそうな気がしてしまう。
「とりあえず、目標は大きく…でしょ?」
「そうでした!!じゃあ…ボク達行ってくるよ。暫く…戻れないと思うから。気をつけるんだよ?」
リヴくんは桃色のスライムさんに声をかけた。
確かに、これから私達の…結婚する為の…冒険が始まるんだ…。
「ユナさん?お兄ちゃんの事、少しの間…宜しく頼みます!!」
「少しの間でいいの?」
「はい!私も…人間の女性になりたいから…。悪いヤツ倒して、あとを追います!!」
一瞬びっくりしたけれど…。
兄妹で人間に憧れるスライムがいても…良いよね?
「今日から、アナタの名前はリナちゃん!!」
――ピロン!
――「新着メッセージ」
――「スライムピンク に名前 リナ を命名しました。」
スライムピンクっていう種類だったんだ…。
「わぁ!!お兄ちゃんがリヴィルス、私がリナ。ユナさんありがとう!!」
「よかったね?これで…誰かに名前聞かれても、言えるね?」
「うん!!じゃあ、リヴお兄ちゃんとユナさん、またあとでね?行ってらっしゃい!!」
「いってきます!!」
そう言うと、リナちゃんの棲家から私達は離れた。
どうやって後をついて来れるのだろう?
少し疑問が残ったが、リヴくんに言われるまま洞窟内を進んで行った。
――――
「わっ?!眩しい!!」
洞窟の入り口には、陽の光が射し込んでいた。
勢いよく外に出ようとした時、洞窟の外から声がした。
「人間かもしれない。気をつけて?」
「ねぇ?リヴくん?私、人間だよ?」
「あ…!!いつもボクだけで出てるから…忘れてた。」
恐る恐る、洞窟から出てみる事にした。
「魔物め!!って…おい!!お前ら、やめろ!!人間の…お姉さんだぞ!!」
洞窟から出た途端、一人の男にいきなり剣を向けられた。
冒険者のような出立ちの男三人組だった。
すぐに私が女と分かったのだろう…。
男は剣を下ろし、手のひらを返したようになった。
「で、お姉さんは、その洞窟にはどんなご用で?」
「そうですよ?そんな軽装で入るような洞窟じゃ無いです。」
「それにしても…お姉さん、良い身体してますね?恋人は?指には指輪してませんよね?」
三者三様の質問だ。
完全に一人は…身体目的な質問だが…。
その質問の時、リヴくんが…私の胎内を蠢かせた。
きっと激しい独占欲がリヴくんにはあるのだろう…。
あろうことか、男達を前に…身体が火照ってきてしまった…。
――――
この話の主な登場人物
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名前:望月結奈 ふりがな:もちづきゆな
通称:ユナ
年齢:二十七歳
性別:女
種族:人間
職業:事務職
魔法:不明
能力:不明
肌:肌色(ブルベ系)
髪:ロング(黒色)
目:焦茶
身長:百六十cm位。
体重:五十kg位。
バストサイズ:Dカップ。
足の大きさ:二十三cm。
その他:リヴィルスの婚約者にして主人。
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名前:リヴィルス
通称:リヴ
年齢:不明
性別:不明
種族:スライム
職業:不明
魔法:不明
能力:外見習得。機能習得。能力習得。
肌:水色
髪:―
目:◉
身長:変幻自在。
体重:変幻自在。
その他:ユナの婚約者にして使い魔。
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名前:リナ
通称:リナ
年齢:不明
性別:不明
種族:スライムピンク
職業:不明
魔法:不明
能力:外見習得。機能習得。能力習得。
肌:桃色
髪:―
目:♡
身長:変幻自在。
体重:変幻自在。
その他:リヴをお兄ちゃんと呼ぶ。