第二話 『外出』
リヴィルスさんが私を…この異世界へ召喚した日から、気づけば一週間経過していた。
いや…違う…。
正しくは…リヴィルスさんは、『主人召喚』で人間のお姉さんをと願い、召喚しただけ。
何故、時間の経過が分かるのか?
それは…例の、リヴィルスと命名した際…空間にメッセージ等が表示されたアレだ。
あの後、リヴィルスさんから説明されたのだが、『状態表示』と呼ばれる、この異世界で生きる誰もが使うことのできる能力の表示機能からくるものだった。
更に、『状態表示』の機能を使って、ゲームのようにパーティを組む事が出来るのには驚いた。
それで、パーティを組んでいると、『パーティ状態表示』も利用できるようになる優れものなのだ。
少し話が逸れてしまったが、時間は『状態表示』の右側に、日付と共に表示されている。
それにだ…。
理由は不明だけれど、私にはこの異世界の言葉が分かるみたいだ。
でなければ、この異世界の言葉で書かれている『状態表示』なのに、リヴィルスさんに命名した際…新着メッセージが読めるはずがなかった。
「あの…ユナさん?」
「あ、はい。どうしました?リヴィルスさん。」
一週間前、私は裸のまま召喚されてきた。
そして、このリヴィルスさんの棲家には、人間のお姉さん用の服が一つも無い…。
いや…その言い方には語弊がある…。
人間用の服が一つも無かったのだ。
その為、リヴィルスさんが私の服代わりになっている。
と言うか…一週間前とほぼ同じ格好をしている。
リヴィルスさんの身体で、私の胸から下腹部にかけてと、脚を覆っているのだ。
だから、私とリヴィルスさんは、常に目の前で会話している状態だった。
「こんな朝からなんですが…少し、ユナさんに…甘えても良いですか?」
私達の“甘える”とは…私とリヴィルスさんとの二人の間で決めた隠語で、まぁ…そう言うことだ。
「はい…。宜しくお願いします…。」
実はもう…私は病み付きになっていた…。
――――
「ふぅ…。ユナさん汗すごいですよ…?ボクが汗吸収しながら、お身体を綺麗にしときますね?」
「そうっ…ですねっ…。はいぃっ…。お、お願いっ…しますっ…。」
リヴィルスさんの甘え方が、日を追うごとに…凄い…。
私の頭の中がリヴィルスさんの事以外…受け付けなくなってしまう程だ。
「何か、恋人同士らしい事…出来てませんよね?甘える事なんて…誰とでも出来てしまいますし…。」
一週間、リヴィルスさんと一緒に居て思った事がある。
結構、話しているとロマンチストな面が見え隠れする。
ただ外見がスライムなだけで、中身はすごく優しい。
だから、そのギャップが際立って見えるのかもしれない。
「私、この棲家から…外に出てみたいです!!近くに街とかあれば…リヴィルスさんと、お買い物…してみたいです!!」
「お買い物デート!!良いですねぇ?あ…でも、ユナさん…服持って無かったですねぇ…。でも!お金はボクが持ってますので、とりあえず…街までボクがユナさんの服に擬態して、まず服を買いに行きましょうか?」
お買い物と私が言っただけなのだが、お買い物デートと返して…反応してくれた。
私にとって服が無い事は本当に死活問題だった。
この一週間の食事は、リヴィルスさんが過去に倒した事のある種族に擬態し、仕入に行ってくれていたのだ。
――――
「さて…。ボクは人間の服っぽく見えますでしょうか?」
「全身を写すものが無いので、後ろ姿がよく見えないのですが…大丈夫、そう…ですよね?」
どこでこんな服を…リヴィルスさんが見たのかは知る由もないけれど、水色の肩出しのフリル付きワンピースに擬態してみせたのだ。
「透けては、絶対にダメですからね…?きっと…私、男の人達にどこか連れて行かれて、襲われちゃいますよ?」
「それはダメです。ユナさんはボクの恋人ですので!!もう…ユナさん?まだ行けないじゃないですか…。脚が…服に合ってないです…。どうしましょう?」
そう言われてみると…そうだ。
肝心な靴の事、私達は忘れていたみたいだ。
今の状態はと言うと、リヴィルスさんの身体の一部を分離させ、私の膝からつま先までを覆っている状態だった。
まぁ、履き心地と安全性を考えると、この形状が一番なのかも知れない。
「ブーツ…みたいな形状の靴…なれるかな?」
やはり、このお洒落なワンピース姿には、不釣り合いな形状のようだ。
だから現在脚を覆っている箇所を、もう少しだけ擬態させられたたと思ったのだ。
「はい!この前、ユナさんの言っていた、ショート丈のブーツでも…良いですか?」
私は頷いた。
すると、みるみる私の脚を覆っていたリヴィルスさんの一部は、ショートブーツの形状へと変化した。
「わぁぁ…!!ありがとうございます!!私のイメージ通りのブーツです!!」
「あのぉ…。ユナさん?もう少し、恋人同士の雰囲気が出る距離感…なれませんか?」
リヴィルスさん…急に、何でだろう。
名前の呼び方なのだろうか?
それとも…。
「あぁ…。ユナさん、そんな緊張されなくても…。」
今、リヴィルスさんを身に纏っている状態だ…。
心音や汗、筋肉の動きで、私の事は全てお見通しなのだ。
「ゴメンなさい。何か私…しちゃったのかなって。」
「いえ。ただ…もう少し気楽に、ユナさんとお話ししたいなって。呼び捨てでも愛称でも良いので、呼び合いたいなぁ…なんて。」
「良かったぁ…。何言われるのかなって…少し怖かった。」
この一週間はある意味、リヴィルスさんに私の身体を監視下に置かれている状態だった。
恋人同士という観点から見ると、人によってはリヴィルスさんの行為は…羨ましい限りなのかもしれない。
でも…高鳴る胸の鼓動や、高揚時の身体の火照りや汗等、気付かれたくない時だってある。
私が…服を欲しがる本当の理由は、実はそこにあった。
でも…リヴィルスさんと一緒に居ると、私の心は安らぐ。
程良くの距離感…が私には丁度良い。
ずっとは…私の心がもちそうにない。
「じゃあ…。リヴくん?」
リヴィくんでも良かった。
でも…私は、リヴくんの方が良いと思った。
そうだ…。
リヴくん、私の事を何て呼ぶんだろう。
そう思うと…急にドキドキしてきてしまった。
「ありがとうな?ユナ。」
まさかの呼び捨て…キタァ!!
付き合って一週間。
なかなか、私には呼び捨てはハードルが高かった。
前の彼氏には、呼び捨てで呼ばれるまで…一年近くかかったから…。
「うん!!あのね?リヴくん?」
「ユナ、凄くドキドキしてるけど。どうした??」
バレバレなのは承知の事。
そう言えば、リヴくんの凄いところが一つある。
それは…甘える時以外、私の大事なところには悪戯してこない。
逆に…ガッチリ覆ってガードしてくれている。
「私…ね?リヴくんに、呼び捨てで呼ばれて嬉しいの…。リヴくんのモノになった感じするから…。」
「ユナはモノじゃない!!ボクの大事な…婚約者なんだから!!」
キュンとしてしまった…。
でも、何故このタイミング…。
リヴくんには…知られたくないのに…。
私の身体が激しく昂揚し…求めてしまっている事を。
――――
長かった…。
ようやくリヴくんの棲家から外出する事ができる。
実は…つい先程までリヴくんに…甘えられていた。
私の身体の変化を、リヴくんは見逃さなかったのだ。
「ねぇ?ここから、どうやって外に行くの?出口はどっち?」
一週間前に召喚されてきた場所が、まさにリヴくんの寝床だった。
なので…私はその場所から殆ど動いていなかった。
因みに…ここにトイレのような場所は無い。
リヴくんが私のなら良いと…吸収してくれていたのだ。
「まずは、左の方向へ行って?そうだ、暗いからね?『光』!!」
――ポウッ…
目に前にほんわかと明るい光の球が浮かんだ。
「これで、ユナも見えるようになったかな?ボクは暗くても見えるんだけどね?」
こんな灯りを見るのはここに来てから、初めて見た気がする。
そう言えば、リヴくんは買い物へ行く時、暗い中を普通に行き来していた。
「じゃあ、行こうか。この光はボク達についてきてくれるからね?」
そう言われて、私はリヴくんの棲家としていた洞窟の中を、灯りを頼りに歩き始めた。
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この話の主な登場人物
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名前:望月結奈 ふりがな:もちづきゆな
通称:ユナ
年齢:二十七歳
性別:女
種族:人間
職業:事務職
魔法:不明
能力:不明
肌:肌色(ブルベ系)
髪:ロング(黒色)
目:焦茶
身長:百六十cm位。
体重:五十kg位。
バストサイズ:Dカップ。
足の大きさ:二十三cm。
その他:リヴィルスの婚約者にして主人。
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名前:リヴィルス
通称:リヴ
年齢:不明
性別:不明
種族:スライム
職業:不明
魔法:不明
能力:外見習得。機能習得。能力習得。
肌:水色
髪:―
目:◉
身長:変幻自在。
体重:変幻自在。
その他:ユナの婚約者にして使い魔。