後編
「大宮! 鉄板の上のバナナ、取ってくれよ!」
ガサガサとチョコビスケットのパッケージを開けた山口君は串刺しされたマシュマロと焼きバナナを手際よくビスケットに挟んでお皿に並べていく。一方、大宮君はおもちゃみたいな大きさのコーヒーメーカーで1杯ずつ豆挽きしてコーヒーを入れている。なんでも百均のお店に1,100円で売っていたそうだ。
私と藤田さんの前にスモア(このお菓子はそういう名前らしい)とコーヒーが置かれたが、藤田さんは飛び切りの笑顔で「ありがとう! でも私達も作ってみたいから大宮君達も食べなよ」と大宮君にスモアを勧めた。
けれど大宮君は「ありがとう、でもオレ、猫舌だから後でもらうね」とコーヒーメーカーにお湯注いだ。
しかし藤田さんは諦めず、「いいなあ~! 面白そうだな~! 最後の一杯は大宮君の分でしょ?私に作らせてよ」とスモアが載ったお皿を大宮君に差し出した。
藤田さんは、こういう気遣いが得意だから男女問わず好かれているのだろう、「それに比べ私は……」と、少しばかりブルーになり掛けた私に
「加藤さんもスモア作ってみる?」と山口君が声を掛けてくれた。
みんな優しいな。私も雰囲気を壊さないよう、頑張らなきゃ!
楽しい食事が済んで、お決まりの後片付け。洗い場の水が冷たく「ひえっ~!!」と声が出てしまう。隣では大宮君がガシガシと焼き網を洗っている。
「水、冷たいよね」
割と平気な顔で大宮君が言うので、オトコの子は手の皮まで厚いのかしら??と思ってしまう。
「冷たいよぉ~! 手、荒れそう!!」
「でもさ! あったかいお湯だと却って荒れちまうんだぜ! 手の皮脂が落ちて」
「そうなの?? 大宮君って何気に詳しいよね!手慣れてるし」
「家ではいっつもやってるからね!」
「いつも?! 水で?」
「はは、『ぬるま湯で手早く』が食器洗いのモットー!! 家事は大抵やってるかな。仕事から帰って来た母親にはなるだけ負担掛けたくないから。炊事、洗濯、掃除と」
「えっ?! 洗濯も??」
「うん、洗濯ネットも色々持ってるよ、なんせキモいマザコンだから……だからオレなんかより山口達と仲良くした方がいいよ。 ホント、さっきは親子して失礼しました」
そう言いながら大宮君は洗い上げた食器たちを抱えて向こうに行ってしまった。
何だか! モヤモヤモヤとムカつく!! “耐熱グローブの下心”の事じゃない何かに……ムカつく!!
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帰りのバスでは、山口君は向うの席に出張してるし、クラス委員の矢野さんが藤田さんのところへ何かを聞きに来たので、私は藤田さんの隣を彼女に譲って、前の……空いている大宮君の隣の席に座った。正確に言うと窓側の席を大宮君が譲ってくれたのだけど。
二人、特に会話するわけでも無かった。
私はさっきからのモヤモヤが取れないでいて……気まずい空気になるのも嫌だから窓の外を眺めていたし、大宮君はどこかで貰って来たガイドブックのページをめくっていた。
外の景色はどんどん流れて川沿いを抜け、立ち並ぶ工場へと変わって行ったので私は窓から目を離し、ふと隣を見た。
いつの間にか大宮君は膝に抱いたリュックに顔埋め、居眠りしていた。
「なんだか、こういう犬、居るよね」
後ろの席から声がして藤田さんがシートの向こうから私達を覗き込んだ。
「うん居る!モップ犬!」
「アハハ!それそれ!“コモンドール”っていうの! あれ、お手入れ大変なんだって! 色んな物を吸い寄せるから」
そう言いながら藤田さんは大宮君の髪にくっついている灰を摘まみ上げた。
「ホント!そっくり! で、かわいい!!」
「かわいい?!」
藤田さんの言葉に私は少しドキリとする。
「加藤さんはそう思わない?」
肩に掛かった髪をサラサラさせて藤田さんは私の方を見る。
「えっ?! ど、うかな……」
「ほら! まつ毛とか長いよ!」
促されて覗き込むと確かに長いし……スヤスヤの寝顔は……
藤田さん、ひょっとして……
「ま、私のタイプじゃないんだけど」
振り返って見ると、藤田さんは悪戯っぽくウィンクした。
「ポッ●ー食べる?」
渡されたポッ●ーの個包装を破るとフィルムのカケラがスイっと“モップ”に吸い寄せられた。
「あっ!」
慌ててカケラを摘まみ上げようとしたら、カレの髪に指がポスン!とはまって、薄目を開けたカレの瞳を垣間見て……
私の視線も吸い寄せられた。
おしまい
何とか間に合いました(^^;)
しろかえでらしく、安心安全!!
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