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賢者の対話〜幻素が漂う世界で生きる〜  作者: 世界情報記述製本装置
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会話記録P02




「やぁ、時間通りに来たね」


「わざわざ個室にする必要があったのか?私は周りの雑音にあるほうが食事に集中できるんだが」


「君……もう少し自分の立場を考えた方がいいよ。君は"応用幻素学の権威"なんだから、そんな有名人がお店に来ていることがバレたら大混乱を招くだろうね」


「大袈裟だな。大体お前も"基礎幻素学の始祖"だろう」


「だからこうして機密性がしっかりした料亭を選んだんだよ。今回は僕の奢りだからなるべく安い場所にしたかったんだけど……まぁ、仕方ないか。ほら、はやく座って!料理は東方料理のオンパレードだよ!」


「酒はあるんだろうな?」


「もちろん。……あ、きたきた。はい、そこに置いてください。……ほら、君の大好きな赤龍酒だよ」


「ふん……で、確か私の方法論について説明すればいいんだな?」


「そうそう、料理を食べながらでいいからね」


「では、まずは私の"目標"から説明しよう。私の目標は、お前はもう知っているかもしれないが、"安眠"することだ」


「……理由は、聞かないほうがいいんだよね?」


「そうしてくれると助かる。さて、私の目指す"安眠"は、誰にも干渉されず、神、世界、あるいは"死"でさえ私を邪魔できない状態で眠ることだ。これを達成するためには、やはりお前と同じで"真の永遠"を利用する他ない」


「君の言う安眠したい場所なら、第4の水面下理論を用いたらいいんじゃない?あれなら概念よりも"上の位置"にあるからね」


「その第4の水面下理論には致命的な欠点がある。第4の壁に到達できる存在に、"制限はない"」


「つまり、条件さえ整えば誰でも到達できるってこと?」


「そうだな。より具体的にいうなら、人数制限がないんだ。第4の壁に到達した人間が2人いても問題はない」


「それじゃあ君の言う安眠はできないか。僕が到達したら間違いなく君にちょっかいをかけるからね」


「……………」


「ごめん、話を続けて」


「……私の目標を達成するためには、自分"だけ"が永遠になる必要がある。……唐突だが、お前は"透明被膜"についてどれだけの知識を持っている?」


「本当に唐突だね。透明被膜ってあれだろ?幻素を覆っている透明な膜のことだよね?」


「そうだ。私だけが今のところそれを摘出できる」


「君が権威である理由の一つが確かそれだったっけ?……考えてみると不思議だよね。だって最小単位であるはずの幻素に"切れ込み"を入れるなんて本来不可能なはずなのに。……ねぇ、僕にだけ内緒でその方法を教えてくれないかな?」


「それは無理だ。方法論だけで我慢しろ。あと、お前の透明被膜に対する知識はまだ浅い。透明被膜には被膜同士であれば癒着する性質がある。逆に言えば、それ以外の干渉は一例を除いて全て受け付けないということだ」


「その一例というのは、君の摘出方法と何か関係があるのかな?」


「……今それは重要なことではない。……また、透明被膜は驚くべきことに、"概念さえも通さない"」


「根拠は?」


「私の書いた論文を少し要約して伝えるぞ。"概念は実体をもつことは本来ないが、紫の源幻素はそれに実体性を付与している可能性がある。透明被膜摘出の際、副産物として得られた紫の擬似源幻素が、実験中にその場にいた研究員並びに職員のとある共通認識を消失させた。医療検査の結果を鑑みても、どの職員も脳内の異常が発見されていない。また、その後に行われた体内の幻素分布並びに種類の検査では、職員全員の身体から少量の擬似源幻素が発見された。それらを摘出し凝縮させた結果、驚くべきことに、失われたはずの共通認識に関する情報をその場いた全員が再び知覚した"」


「……長い!!全然要約できていないじゃないか!!」


「それじゃあ内容は理解出来なかったか?」


「いや、つまりは本来実体がないはずの概念——共通認識が、紫の源幻素という"実体"を持って現れた、ってことだよね?」


「理解出来てるじゃないか」


「理解するのが大変なんだよ!というか、その論文、学会に提出してるのかい?僕は見たことないんだけど」


「提出したが、マリー教授の査読の時点で没になった。どうしてあの人が学会に提出される予定の全ての論文の査読を担当しているのか未だに理解できない」


「まぁ、あの人は世に出すべき情報をしっかりと精査できる人間だからね。けど流石に一人で査読するのは無理があると僕も思うけど。君みたいに一日に何枚でも論文を書いてしまう奴がいるからね」


「そんなことは今はどうでもいいだろう。話を戻すぞ。……この結果を受けて、私はある実験を行なった。得られた共通認識と思われる擬似源幻素の凝縮体を、透明被膜で覆い観察するというものだ。実験の結果、予想通り凝縮体は透明被膜を抜けることなくその場に留まり続けた」


「そりゃそうだろうね。透明被膜は元々その源幻素を包んでいたんだから」


「この結果で最も重要なことは、"その凝縮体が概念であること"だ。以上の要因から、私は透明被膜は概念をも通さないという結論に至った」


「なるほど。理屈は理解したよ。だけど概念を通さないことが君の方法論に何の関係性があるんだい?……っと、ちょっと一回ストップ。料理が来たみたいだ」


「……ほぉ、随分と豪勢じゃないか」


「君結構食べるでしょ?だから多めに注文しておいたんだ。食べてから話してもらっても構わないけど、どうする?」


「いや、話ながら食べるとする。すまないがテーブルを回してくれないか?」


「この料理が食べたいのかい?……よし、これでそっちにいったかな」


「ありがとう。さて、透明被膜が概念を通さない性質は、私にとあるひらめきを与えてくれた」


「それはどんな?」


「"謎という概念"を、透明被膜で覆う」


「……わぁお、それは良いアイデアだね。僕が使いたいぐらいだよ」


「それは無理だな。今から言う方法は私にしかできないものだし、もしお前が紫の源幻素を用いて謎という概念を実体化させようと考えたのなら、それは諦めた方がいい」


「……なぜ?」


「"純粋な謎"というものを我々は想像することが出来ないからだ。謎という概念を頭の中で想像する際、われわれは必ずその謎が含まれている生命、物体、事象を伴っている。それが紫の源幻素に反映されてしまうんだ」


「なるほど実験したんだね。けどそれだと君も永遠を手に入れられないことになるけど」


「私自身が、"謎という概念"になる」


「……へ?……君でも冗談を言うんだね」


「ふん、黙って聞け。まず、私の身体を透明被膜で隙間なく覆う。そして私の身体と透明被膜との間に"私を根源とする概念の紫源幻素"で満たす。するとどうなると思う?」


「……透明被膜の中が、君と、君を根源とする概念のみになるね」


「これは"世界"が持つ謎の概念の根源性の構図となんら変わりない。透明被膜の中は、一種の別世界だ。それは"世界"が透明な壁で覆われていることからもわかる。その世界の中で、私を根源とする概念しか存在していないということは、つまりそれらの概念の行き着く先が全て私であるということに繋がる。"世界"の全ての"事柄"が謎という概念に帰着するなら、別世界において、私を根源とする概念しか存在しない場合、"私は謎という概念と同一の性質をもつ"」


「あはは、つまり、君は"永遠"になる」


「そうだ。透明被膜を破る方法は私にしかできないので、外部からその方法論が崩れる心配はない」


「うーん筋は通ってるけど、ちょっと強引すぎない?だって"世界"の謎の概念と"別世界"の君を同一だとみなすためには、"世界"と"別世界"が同じぐらいの存在レベルである必要があるはずでしょ?」


「だからこそ、私を根源とする概念を量産するつもりだ。世界を見渡して、私の発想や理論が使われていないものが存在しないぐらいにする。そしてそれらの概念を紫の擬似源幻素にして保存する。……どれくらい必要かはわからないが、地道に増やしていくつもりだ」


「そうなると、もし君の理論が使われた機械があったとして、その機械の元となった理論を誰が作り出したのかわからない状況になるね」


「多少の混乱は予測できるが、人は案外、根源には何の興味はなく、ただ目の前の機械がどのような利益をもたらすのかだけを考えるものさ」


「……タオ、言いにくいんだけど、君の話を聴いて、僕は君の方法論の決定的な誤りを見つけてしまったよ」


「ほう、それはなんだ?」


「君は"別世界"の根源となる気でいるけど、そもそも君には、"君自身の根源"があるじゃないか。君の生まれの親、その祖先、連綿と続いた人類の歴史が、君を形作っている。その時点で、君は謎の概念のような、最終的な到達点にはなることが出来ないよ」


「……ふふ」


「……君が笑うなんて珍しいね」


「言っただろう?"これは私にしか出来ない方法"だと」


「……………まさか、君は———


「それ以上言うな。……気分が悪くなる」


「……わかった。……はぁ、せっかく食事に来たのに、僕たちまだひとつも料理に手をつけてないよ」


「そうだな。冷める前に食べるとするか」


「———ふぅ、そういえば、君の目的は"安眠"だよね?だったら別に永遠にならなくとも、透明被膜で身体を覆うだけで十分なんじゃない?」


「———透明被膜で覆われたとしても、時間の流れには逆らえない。確かに外部からの干渉はないが、"死"から逃れられていない」


「……そこまでして、"安眠"したいんだね」


「"安眠"でなければ、私は眠れないからな。おい、そこの醤油を取ってくれ」


「これ?はいどうぞ」


「助かる。……確か、お前は明日ルルとデートだったな。他に誰か行くのか?」


「他の誰かがいたらデートにならないでしょ」


「それもそうだな。だったらルルにこれを渡してくれないか?」


「これは……マリー教授からの手紙?」


「そうだ。"博物館"のメンバー以外には見せるなと言われている」


「じゃあ僕は見ていいんだね。…………へぇ、これ、君はどうするつもりなの?」


「私は承諾するつもりだ。お前はどうする」


「僕はルルの判断に任せるよ」


「お前はいつもルルの行動に合わせているな」


「それはルルが正しいからだよ。彼女が正しくなかったときなんて、一度もなかった。僕はルルのためだったら何だってするよ!」


「気持ち悪いことを言うな、酒が不味くなる」


「……君の飲んでる赤龍酒、そんなに美味しいのかい?」


「ああ、私でさえ少し酔いの感覚を得られるほどだ」


「君はアルコール度数で美味しい酒かどうか判断してそうだね……一杯もらってもいいかな?」


「別に構わないが、お前酒に強かったのか?」


「分からない。あんまり飲んだことないから」


「……ほら、注いでやったぞ」


「ありがとう。———ぷは、味は結構いいね」


「当たり前だ。飛龍山の山頂から流れる新鮮な水を———


「ひっく……ZZzz……」


「………はぁ、酔ったら寝るタイプか。……この大量の料理、私ひとりで食わなければならないのか……?」





——記録終了












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