表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

鑑札

サリーナは今、王城へ来ている。


応接室に通され、目の前にひとりの男性が座っている。


「いつも父がお世話になっております。娘のサリーナ·スウィンティーでございます。よろしくお願いいたします。」

「ああ、はじめまして。この国の国王だよ。そこへ座って。」

「は、はい。失礼いたします。」


私は陛下から机を挟んだ場所にあるソファへ座った。ソファの背もたれの上にはアル、足元にはルーフが座る。


陛下?…で良いのよね?

何か軽い?


「早く申請の受理をお願いします。」


陛下の横に立つお父様が無表情で言った。


「ジャック。そんなに慌てないでくれよ。」

「チッ。」


お父様、舌打ち!?


「ほら。サリーナちゃんが驚いているよ。」


お父様はそれを聞くと、慌てたような顔に変わった。


「リーナ、大丈夫だ。早く終わらせて、帰ろうな。さあ、早くお願いします。」

「お父様…。」


それにしても、二人の関係性って…。


「はいはい。…まずは魔力の量を。」


そう言いながら、机の上へ体重計のような物を出した。


陛下って、こんな事もするの!?


「さぁ、ここに手を乗せて。」

「えーと、こうですか?」

「そうそう。それで、魔力を流し込む。」

「流し込む?」

「魔力操作は出来るんだったよね?」

「1度だけ試したことはあります。」

「うん。ジャックにきいてるよ。」

「それと同じ要領で…。何かあっても私達がいるから大丈夫だよ。思いっきりやって。」

「は、はい!」


魔力操作と同じ…。


サリーナは目を閉じた。


血が流れるように…。

身体を巡って…。


サリーナの髪が揺らめく。


「ほぉ…。」


陛下が面白そうに笑った。


指の先から魔力を、機械に…。


サリーナは少しずつ魔力を流す。

体重計のような機械の目盛が大きい数字を指していく。


数字は、どんどん大きく、大きく、大きく…。


「まだか…?」


機械から煙が上がる。


「はい!ストップ!」


サリーナは、パッと目を開けた。


「えーと…。」

「リーナ!体調はどうだ?大丈夫か?」


お父様が、勢いよく近づいてきた。


「はい。問題ありません。」

「ジャック。お前の娘は、お前以上だね。測定不能だ。」

「…そうですか。」

「次は、契約獣の申請だね。これに記入が必要だが、字はかけるかな?」

「いいえ。」

「私が代筆します。」

「サリーナちゃんもそれで良いかな?」

「はい。」


私は、お父様に代筆を頼んだ。

お父様は、内容もきちんと読んでくれた。


「1、契約獣を悪用しない事。2、管理環境を整える事。3、鑑札を必ずつける事。4、有事には国に協力する事。」

「有事…。」


戦争とかって事よね…。


「リーナ。無理しなくて良い。」

「でも…。」

「現在、その兆候はないけど、もしその時が来たら、どんな協力とは書いていないから、前線でなくても良いんだよ。」


陛下がそれ言っちゃうの?


「分かりました。」


住所と名前を代筆してもらった最後に、私は拇印を押した。すると、申請書が光り輝く。


「すごい。」

「これは私の魔法だよ。改ざんされないようにして…」

「さぁ、リーナ。帰り支度を。」


お父様が陛下の話を遮った。


「お父様!流石に不敬です。」

「あー、良いんだよ。昔からこんな感じだからね。ここには他の者がいないし、王と宰相の前に友人だから。」

「…そうなのですか?」

「そうそう。他の者がいる時は、私もジャックもちゃんとしているよ。」

「そうなのですね。」

「サリーナちゃんは友達が欲しいかい?」

「いや、まだ必要ない。」


お父様が、私の代わりに答えた。


「サリーナちゃんに聞いているんだけど。」

「それでは。」


お父様は私の手を引き、立ち上がらせる。そして、ドアまで連れて行かれた。その後ろをアルとルーフもついてくる。


「鑑札はでき次第ジャックに渡すからね~。」


さらに後ろから、陛下の声がする。


「はい。よろしくお願いいたします。」


お父様は仕事がある為、王城に残る。私とアル、ルーフで馬車へ乗った。


「アル、ルーフ。リーナを頼む。」

「おう。」

「はーい。」

「リーナ。寄り道せずに帰りなさい。」

「はい。」


私達は、王城を後にした。


「ただいま帰りました。」

「サリーナ様。おかえりなさいませ。」


使用人の皆がお辞儀をして、出迎えてくれる。


3歳児に、この対応…。

元ただのOLの私は、いたたまれない。


「あ、うん。忙しいのに、ありがとう。」

「サリーナ様。着替えますか?」

「そうね。楽なものに着替えたいわ。」


登城用の正装ドレスは、重くて肩が凝る。


3歳で肩こり発症…。 

皆そうなのかな?


私は私室に向かった。

後ろからメルがついてくる。


「はぁ…。疲れた。」


私は着替え終わった後に、部屋にあるソファへ倒れ込んだ。


「リーナ。大丈夫か?」


ルーフが心配そうに顔を覗く。


「大丈夫だよ。」

「そうか?リーナは、頑張りすぎるから…。」


そっか。あの時もこんな感じだったか…。


「ルーフ。あの時とは違うから、心配しないで。」

「ん。」


私はルーフの頭を撫でた。アルも近くに来たので、撫でる。


「右も左も、もふもふ。幸せ。」

「ふふふっ。サリーナ様、本当に幸せそうですね。」

「うん!鑑札ができたら、色んな所にお散歩も行こうね。」

「楽しみだ。」

「うん。うん。」





そして、数日後には鑑札が届いた。

銀のプレートに私の名前とアル、ルーフ、それぞれの名前が書かれている。


「サリーナ。このプレートをアルとルーフへ、つけてくれ。どんな形でつけるかは、契約者に任されているから、好きにしていいぞ。」


お父様はそう言うと、加工職人を家に呼んでくれた。

お父様は仕事だった為、加工についての話し合いには、メルの他にロンドも立ち会ってくれる事になった。


「ルーフは首輪にするとして、アルはどうしよう?」

「この大きさでしたら、足につける様に加工することもできますよ。」

「足ですか…。」


“アル。どう?足に付けても大丈夫そう?”

“軽ければ問題ないよ~。”


「軽量加工はできますか?」

「少し削る許可をいただけるなら、可能です。」

「そうよね。お父様に確認しないと…。」

「すぐに確認いたします。」


そういうと、ロンドが部屋を出た。


「それでは、先に首輪のデザインを考えましょう。」

「よろしくお願いします。」

「まず、素材はどうしましょうか?チェーン、革、布がございます。」

「うーん。強度的にはチェーンが1番ですよね?」

「そうですね。」

「でも、重いと動きづらいかしら。」

「それは、あるかもしれません。革なら、強度も軽さも申し分ないかと。」

「そう…。チェーンと、革、両方のデザインを考えていただく事は可能?」

「もちろんでございます。」


職人はサラサラと、デザインを書いていく。


「すごいわ。」

「…そんなことありません。」


言葉は素っ気ないが、職人の頬は少し赤くなっている。


「できました。いかがでしょうか。」


チェーン、革、その2つを組み合わせた物の3パターンを出してくれた。


「ルーフ、どう?」

「うぉん!」


ルーフは、チェーンと革を組み合わせたデザインの紙の端に足を乗せた。


「確かにシンプルでかっこいいわ。そして、ここの編み込みは可愛いくもある。うん。これでお願いします。」

「畏まりました。」


コンコンコン


「失礼いたします。旦那様へ確認が取れました。」

「早かったわね。」

「手紙を飛ばしましたら、すぐに返ってきました。」


この世界は、対の魔法陣でなら手紙のやり取りができるのだ。

我が家には、お父様の仕事場と陛下の所ヘ繋がる手紙魔法陣がある為、今回はそれを使ったのだろう。


「それで、どうでしたか?」

「文字が消えなければ、問題ないそうです。」

「畏まりました。では、もう1つは足用に作ります。それでは、サイズを測りたいのですが…。」


それを聞くと、アルとルーフが職人に近寄る。アルは右足を差出し、ルーフは胸を張って、測ってもらうのを待つ。


「賢い子達ですね。」

「そうなんです!そして、可愛いのです!」


職人はすぐに作業に取り掛かると言って、帰っていった。



次の日に、職人が完成品を持ってやって来た。


「もう出来上がったの?早い!」

「それはもう。頑張りました。」

「ありがとう!」

「長さや締り具合の調整もしますので、私がつけてもよろしいですか?」


私はアルとルーフを見る。二人が小さく頷いたのを見て、職人につけてもらうことにした。


「お願いします。」


アルとルーフは大人しくしている。


「終わりました。いかがでしょうか?」


アルもルーフも得意げに胸を張る。

その様子が愛らしい。


「クスクスッ。ふたりとも似合うわ。とてもいい。」

「メンテナンスは無料で行いますので、ご連絡ください。」

「分かったわ!ありがとう。」

「こちらこそ。ありがとうございました。」


職人が帰ると、アルとルーフはサリーナの私室から続く衣装部屋へ行き、大きな鏡の前で自分の姿を見ている。


「アル、ルーフ。気に入った?」

「ああ。これにしてよかった。」

「僕も足なら邪魔にならないし、軽くていい感じ!」

「良かったわ。これで、気兼ねなく外出が出来るわね。…そうだ!せっかくだから皆でピクニックに行くのはどう?お弁当を持って行って、外で食べるの。お父様に聞いてみましょう。」


私は、お父様が帰ってくるのを待って、ピクニックの話をしてみた。


「ピクニックか?久しく行ってないな。」

「そうなのですか?」

「ああ。昔、お前達の母とデー…ゴホン、遠乗りに行ったが、それ以来だ。」


お父様は照れくさそうに話してくれた。


「お母様とですか?」

「ああ。まだ、リックもいなかった時だ。」

「まぁ!新婚時代ですね!」

「…そうなるな。」

「お父様とお母様は恋愛?それとも、政略結婚ですか?」

「難しい言葉を知っているな…。」

「それでどうなんですか?」

「れ、恋愛だ。同級生だった。」


お父様の顔が真っ赤になっていく。


何か可愛いな。


「お父様が、お母様と行った所に行ってみたいです。」

「…そうか。それなら、次の私の休みに行こうか。」

「本当に?良いのですか?」

「もちろんだよ。」

「やったぁ!お父様ありがとうございます!…リック兄様、リオン兄様!」


サリーナは、すぐに兄達に知らせに行った。


「あんなに喜んでくれるとは…。仕事を調整しないとな。」


ジャックは、笑顔でサリーナが出ていったドアを見つめる。


「旦那様も嬉しそうですね。」

「可愛い娘からの誘いだ。嬉しくないわけがない。」

「奥様が亡くなられてから、心配しておりましたが、最近の旦那様は以前のようで、安心いたしております。」

「……心配かけたな。」

「サリーナ様のおかげですね。」

「そうだな。」


そして、あっという間にピクニックの日がやって来た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ