きなこ
夜、食事をしているとお父様が帰ってきた。
「お父様、おかえりなさい。」
「父上、早かったですね。」
「ロンドから連絡をもらってな。その狼がそうだな。」
「はい。ルーフです。」
「リーナの父だ。よろしく頼む。」
「おお。」
お父様の食事が終わってから、例の話をすることになった。
今回は、事情を知っていた方が良いとのことでロンドとメルも一緒だ。
「光るヤツは、リーナの魔力が強すぎて命を落とす危険があるって言ったんだ。でも、爆発を起こす前にそれを受け止める器があれば助かるとも言った。俺たちはその器になった。爆発する瞬間に間に合って、光るヤツが魔力を俺たちへ流した。その反動か俺たちは飛ばされてしまった。そして、気付いたらでかくなっていた、ということだな。」
「その反動はリーナも受けて、記憶が無くなったと?」
「だろうな。」
「また、そういう事は起こるのか?」
「今後、そうならない様に俺達には道ができ、一定の魔力がこちらへ流れる事になっている。だから、もう魔力が爆発することは無いそうだ。」
「そうなのね。その道が、心の声が聞こえる理由?」
「そうだ。」
…1つ心配がある。
「ルーフ達が爆発することは?」
「俺たちは魔獣になったから、大丈夫らしい。その辺の仕組みは、分からんから聞くな。」
「魔獣か…。君達はリーナの契約獣として、申請した方が良さそうだな。」
そして、何やらお父様とロンドがコソコソ話始めた。
「旦那様。サリーナ様の魔力の件、報告しなくてはいけなそうですね。」
「ああ。面倒な事にならなければいいが…。」
どうしたんだろう?
「お父様?」
「あ、すまん。なんでもないよ。」
「そうですか?それならいいですけど…。あの、契約獣って?」
「ああ、そうか。リーナは知らなかったか。魔獣と契約し、生活を助けてもらったり、一緒に戦ってもらったりするんだ。」
「お父様は契約していないですよね?」
「昔は沢山の人が契約していたみたいだが、今している人はほとんどいないな。」
「そうなのですね。」
「今の所、他の国とも良い関係を保てているし、平和だからな。」
ああ…。
昔、魔獣との契約が多かった理由が分かってしまった…。
戦争とかに利用してたんだ…。
「魔獣は今もいるの?」
「いるよ。基本的には森の奥に。たまに街にも出てくるかな。」
野生動物とかと同じ扱いなのかな?
「出てきたときはどうするの?」
「うーん、捕まえて森に返すか……」
「………殺すか?」
お父様が言いにくそうにしたので、予想した事を口に出してみた。
「ふぅ…。そうだな。」
お父様は息を吐いてから、肯定する。
「そう…。」
「魔獣は、人を襲う事があるからな。仕方のない事なんだ…。」
「この子達を外に出して、殺されてしまうことは無い?」
「契約獣の鑑札をつければ問題ない。その鑑札をもらう為に申請が必要なんだ。」
「分かりました。」
「えーと、きなこだったか?は、いつ頃来るか分かるのか?」
お父様はルーフとアルをみた。
「いや。近くには気配を感じない。」
「うん。まだ来なそうだよね。」
「ねぇ…。途中で捕まったとかはない?」
「ない、とは言い切れない。」
「え?」
「でも、殺されてはいないのは分かる。」
「ちょっと良い?」
リオン兄様が、手を挙げた。
「はい、リオン兄様。」
「心の声というやつで分からないの?」
「「「あ…。」」」
私達は、きなこへ呼びかける事にした。
“きなこ”
“おーい”
“今どこだ?”
“きなこ~”
個々で呼びかけていると、
“なに~?”
女の子の声が聞こえてきた。
「きなこ!」
「近くにいなくても出来るもんなんだな。」
「便利~!」
“何よ!呼んだのにそれだけ?”
“どこにいるんだよ。俺たちはもう着いてるぞ。”
“え?そうなの?早くない?”
“僕は近かったから、魔力を感じた日に着いたよ。”
“俺もまっすぐ走ってきて、次の日には着いたぞ。”
“体力バカとは一緒にしないで!”
“は?”
こんな関係性だったんだ…。
ま、うん…思い当たる節もあるか。
“ちょっと、喧嘩は会ってからにしてね。”
“和菓!早く会いたいわ!でも、こうやって話せると分かったし、疲れたから少し休んだら行くわね~。”
“おい!何だ、それ!おい!猫!”
“きなこらしいね。”
“そうね。無事ならいいわ。”
「お父様。きなこは、まだ来そうにありません。」
「どう言う事だ?」
私は、お父様に今の内容を話した。
「なんというか…。随分、マイペースな子なんだな。」
「はい。そんな所も可愛いのです。」
「そうか…。いつ来るか分からないのなら、先にアルとルーフの申請をしておこう。」
「はい。」
「陛下へ話し、日程が決まり次第教える。」
「王城へ行くのですか?」
「ああ。不本意ながら、手続き上仕方ない。」
「分かりました。」
そして、登城する日はすぐに決まった。
話し合いの次の日、仕事から帰ったお父様は暗い顔をして言った。
「明日に決まった…。」
「随分早いですね。」
兄様達も驚いている。
「しかも、いつもは承認だけして、後は部下任せなのに、今回は自分が立ち会うと…。」
「陛下って暇でしたっけ?」
「そんな筈ないだろう。」
「嫌な予感が。」
「ですよね。」
兄様達とお父様は、顔を見合わせる。
「リーナ!逃げる準備をして行こうな!何かあったら、すぐに逃げよう!」
「え?」
それを聞いたルーフと、アルも騒ぎ出した。
「そんなに危険なのか!?リーナ、行くのをやめろ。」
「僕がリーナを守る!」
「そうだよな!よし!行くのをやめよう!」
「旦那様、そういう訳にも行かないでしょうが…。」
そのやり取りを見ていたロンドに、止められる。
サリーナは何なのか分からず、キョトン顔である。
「分からなくていいんだ。私がなんとかするからね。」
「?」
「うん。そうだ。……弱みはいくらでもある。」
最後の方が聞こえなかった。
「お父様。ごめんなさい。最後の方が聞こえなかった。もう少し大きい声でお願いします。」
「大丈夫だよ。さて、明日の準備をしようか。」
にっこり笑ったお父様が、少し怖く感じた。
目が笑ってない…。