ピッピとの再会
「リーナ!大丈夫か!?」
お父様とリオン兄様がこちらへ走ってくる。
「状況は?」
お父様が真剣な顔でリック兄様へ聞く。
「魔法について知りたがっていたので、俺の練習風景を見せました。そしたら、リーナがその真似をした時に髪がなびいて。止める様に言ったら、すぐに止めました。暴走した感じはありませんでした。」
「そうか。…リーナ、身体に異変は?」
「ないです。」
「それなら良かった。あのな、魔力操作は体調を崩す者もいる大変なものなんだ。だから、少しずつ練習をするんだよ。3歳で、しかも1回目で出来てしまうと言うのは、聞いたことがない。」
え?
私、出来てたの?
何かマズい状況?
「天才だ!魔法の才能がある!だからこそ、身体を壊さないよう少しずつ覚えよう。私が見ている時以外は練習をしてはいけないよ。」
「え?お父様が見ている時は良いのですか?」
「ああ。」
「駄目と言われると思っていました。」
「魔力爆発を起こしてもいけないからなあ。」
「魔力爆発?」
「1度、魔力が身体を回ったのだ。すでに魔力の道ができてしまった。放っておいたら詰まって爆発、暴走する事があるんだ。」
「そうなんですね。」
怖っ!
「リック、リオン。リーナを大切に思うなら、この事は他の者に話すな。」
「「?」」
「変な事に巻き込まれかねない。」
パトリックとダリオンは顔を見合わせた後に、同時に頷いた。
その直後、ジャックが勢いよく顔を上げ、空を見た。
「なにか来るな。」
「「「?」」」
パトリック、ダリオン、サリーナの3人もジャックの視線の先を見た。
「「「鳥?」」」
視線の先には、鳥が飛んでいる。
あれって、鷹?鷲だっけ?
「いや、魔力の気配がする。」
「そんな事も分かるんですか?」
「私はな。どうだ?すごいか?」
ジャックは鳥から視線を離さずにいるが、声から自慢げなのが伝わる。
「この状況で言うことか?」
「父上のこういう所だよね…。」
パトリックとダリオンは小声で話す。
「来た。」
鳥は鷹だった。4人の頭上を旋回している。
「私から離れるなよ。」
「「「はい。」」」
“いた!”
ん?
サリーナは声が聞こえた気がして、周りを見た。
「どうした?」
それに気づいたパトリックが声をかける。
「いえ、声が聞こえた気がして…。」
サリーナがパトリックに答えていると、鷹がこちらへ降りてくる。
ジャックは、そっと3人の子供と鷹の間に立つ。サリーナは、鷹をジャックの背中越しにみた。
鷹は、こちらをじっと見てステップを踏み始めた。
「「「「え?」」」」
踊ってる…。
このダンスって…
“わか”
「ピッピ?」
どこからか聞こえた声と、サリーナの声が重なる。
鷹は嬉しそうに羽をバタつかせた。
「やっぱりピッピなんだ!」
サリーナは、鷹に駆け寄ろうとしたが、ジャックに止められる。
「リーナ、待ちなさい。…知っている鷹なのかい?」
「知っている子は鷹ではなかったけれど、本人…いや、本鳥?だと思います。」
「しかし、まだ安全とは言えん。」
「安全に決まっている!」
私達4人とは別の声が聞こえた。今度は私だけに聞こえたのではなかったようだ。お父様も兄様たちもキョロキョロしている。
サリーナは、声の主に気がついた。ジャックの横をすり抜け、鷹に腕を伸ばした。
「ピッピ!どうして?なんで?どうなっているの?」
「わか。随分可愛い姿になったね。きちんと説明するから落ち着いて。」
「今の私はサリーナよ。リーナと呼んで。」
「分かったよ、リーナ。」
「リーナ。どういう事か説明してくれるか?」
「あ…」
お父様に後ろから声をかけられた。
忘れてた。
どうやって説明しよう…。
私達は、場所をお父様の執務室に移した。
そこにいるのは私達4人と1羽だ。
「さて、説明してもらおうかな。」
お父様に話しを促される。
「説明と言われても、どう話したらいいか…。」
「それなら質問をするから、それに答えてくれるか?」
「はい。分かることでしたら。」
「その鷹と会ったのはいつだ?」
「うーん。ずっと前?」
「記憶を無くしているのに、そこは覚えているのか?」
「はい。不思議な事に。」
前世的なものは覚えています。
口には出さず、心の中で付け足した。
「それは僕達のせいかも。」
「僕、達?もしかして…」
「うん。あんこと、きなこもそのうち来るよ。」
「本当なの!?」
「わ…じゃなかった、リーナに嘘は言わない。」
「そっか。会えるのが楽しみ。……でも、ここに来るということは。」
前世で亡くなってしまったと言う事よね…。
「それは違うよ。」
「ん?私、口に出てた?」
「ううん。僕達は繋がってるから。」
「どういう事?」
「そのままの意味だよ。」
「ちょっと待ってくれ。話を戻してもいいか?」
私とピッピが話していると、お父様は脱線した話を元に戻そうとする。
「あ、お父様ごめんなさい。つい…。」
「いや、今の話にも聞きたいことはある。だからこそ、順番に聞いていきたい。」
「記憶がないのが、君達のせいとはどう言う事だ?」
“リーナ、前世の話をしても良い?”
頭の中に声が響いてくる。
「え?」
ピッピがこちらをじっと見る。
テレパシー?
これが繋がっているということなのかな?
この事も説明して貰わないと…。
前世に遡らないと説明ができないなら仕方ないのかな…。
“リーナに危害を加えるようなら僕達が守るから安心して。”
「そういう事じゃないんだけどな…。」
「リーナどうしたんだ?」
「何でもありません。…ピッピお願い。」
「それじゃ、リーナの前世まで遡るね。」
ピッピはあの日あった事を話し始めた。
「リーナは、前世で僕達の主だった。でもあの日の夜、眠りについたリーナはそのまま起きなかった。僕達が呼んでも、揺すっても動かなかった。どれ位経ったか僕達には分からないけど、ある日男の人と女の人が来た。その人達はリーナ…その時は和菓だね。和菓に抱きついて泣いてた。」
きっとお父さんとお母さんだ…。
「僕達はそのふたりに引き取られたけど、度々元の家へ和菓を探しに行ったんだ。道が分からなくて、いつも辿り着けなかったけど…。何かしてあげることができたんじゃないか。僕達がいたから、あんなになるまで頑張ってしまったんじゃないか。毎日考えてた。」
「ピッピ…。」
「そしたら、光る人が出てきて僕達に言ったんだ。『そんなに思っているなら、生まれ変わった和菓を助けてあげて。』って。」
「光る人?」
「そう。もちろん、僕達は即答した。その瞬間、目の前が明るくなって、知らない場所でこの姿になっていた。その時にふたりと離れたみたい。だけど、僕の中に和菓を感じる事ができたから寂しくなかった。」
「私を感じる?」
「うん。」
私はお父様へ視線を移した。
「……お父様。私はこちらへ生まれ変わってからの記憶はありませんが、生まれ変わる前の記憶はあるのです。まるで、中身が入れ替わったようだと感じていました。すぐに話せなくて、ごめんなさい。」
「謝らなくていい。リーナはリーナだからな。」
兄様たちも頷いている。
「ありがとうございます。」
少し、涙が出た。
「事の流れは分かったが、サリーナを助ける為に来たというのは、どういうことだろうな。君が来たのと、記憶を無くしたのは関係があるんだろう?君の中にリーナを感じるのも気になる。そして、君が『達』と言っているからには、まだ仲間がいるんだな?」
「あんこと、きなこがいるよ。僕がここに一番近かっただけ。」
「あんこと、きなこ?」
「犬と猫です。でも、ピッピもインコから鷹に変わっているから、どんな姿かは分かりません。」
「僕もこっちでは会ってないから分からないよ。」
「そうか。どうしてここが分かったんだ?」
「今日、来た時には感じなかった和菓?サリーナ?の魔力を感じたから。」
「さっきのあれか。」
「うん。後の事は、なんとなくとしか言えない。」
それ以上は分からず、今日の所は終了となった。
「お父様。あの…ピッピですが、部屋で飼っても?」
「飼うという表現が正しいかは分からないが、リーナの助けになる者だ。近くにいた方がいい。それと名前だが、不要な詮索を受けない為に、こちらの言葉の呼名も付けた方がいいと思うぞ。」
「そっか。ピッピは別として、あんこやきなこはないか…。」
「そうなの?」
「うん。」
「良く食べていたのにね。」
「餅もないの…。」
サリーナは、肩を落とした。
◇
ピッピの呼び名は、『アル』に決まった。こちらでは一般的に使われる。
元の世界のどこかの国で、鷹の事をアルコンと言っていたし、ぴったりだと思う。