兄、登場
サリーナは、兄達が帰るのをベッドに入ったまま座って待っていた。
帰ってきたら、声をかけてくれるわよね。
…が、帰宅予定時間になっても何もない。
「帰宅時間は過ぎていますのに、おかしいですね。少し見てきます。」
「お願いします。」
メルは部屋から出て、時間が経たずに戻ってきた。
「申し訳ございません。こちらのミスで、お帰りになった旨の連絡が入りませんでした。」
「お兄様達は、すでにお帰りに?」
「はい。」
「そうですか。」
申し送りができていないのか。
それとも…。
コンコンコン
サリーナが考えを巡らせていると、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ。」
ガチャ
ドアが開き、眉間にシワを寄せた少年と、それとは逆ににこやかな顔をした少年のふたりが入って来た。
「目を覚ましたと聞いた。調子はどうだ?」
えーと、多分お兄様達だろうけど…。
この感じ、記憶が無い事を知らされていないのかな。
「申し訳ございません。お兄様達でよろしいでしょうか?」
「「!?」」
ふたりとも驚いてる。ビンゴか。
「おい。ふざけているのか?」
「話し方もおかしいよ?」
「?」
サリーナは、首を傾げる。
「パトリック様、ダリオン様。こちらへ。」
ふたりは、メルに付いて1度部屋を出る。
「「はぁぁぁ!?」」
ドアは閉まっているが、驚く声はサリーナまで聞こえてくる。
そして、父親のジャックにも聞こえていた様だ。
「リーナの身体に障るだろう!静かにしなさい!」
怒鳴る声が聞こえた。
再度ドアが開き、ふたりとジャックが部屋へ入ってくる。
「話を聞いた。本当に、記憶がないのか?」
「そうみたいです。…すみません。」
「「!」」
また驚いてる?
少年ふたりが、顔を見合わせている。
そういえばさっきも話し方がどうのって…。
「俺は、パトリックだ。10歳だ。」
「僕はダリオン。8歳だよ。」
「ふたりともリーナの兄だ。」
眉間にシワが寄っているのが、パトリック。
にこやかな顔は、ダリオン。
「パトリックお兄様、ダリオンお兄様。よろしくおねがいします。」
サリーナは頭を下げた。
「はぁ、本当に記憶がないんだな。」
「そうみたいだね。」
「だから言っただろう。」
「「父上からは何も聞いておりません。」」
「そうだったか?」
「帰ってきて、会ったばかりですが?」
「さて、仕事に戻ろうかな。リーナ、無理は駄目だぞ。」
「はい。」
ジャックは部屋を出ていった。
「全く。」
「あの…」
「何だ?」
「私、そんなに違いますか?」
何を、とは言わなかったが伝わった様だ。
ふたりは、顔を見合わせてから話し始めた。
「違う。」
「うん。もっと、馬鹿っぽかった。」
「ば!?…そうですか。」
「3歳だから仕方ないのかもしれないが、わがまま放題。頭を下げるどころか、お礼や謝罪も聞いたことない。」
「それは…」
誰も教えなかったの?
「母上が亡くなってから、父上はサリーナを甘やかしていたしね。注意する所なんて見たことないよ。」
「父上に俺達が何を言っても駄目だしな。」
「うん。」
10歳、8歳なのになんてしっかりした子達!おねえさん、感動!
「ご苦労おかけしました。」
「それにしても、はっきり話しているし、変わり過ぎじゃない?口調がおばさんみたい。」
「おばっ!?」
おねえさんでしょ!?
サリーナは、肩を落とした。