P801 悪役令嬢になった場合の対処法
意識が戻ると、私は鏡の前に立っていた。確か、私は不治の病で入院していたはず、どうしてこんな豪華な部屋に居るのかしら?
戸惑っている内に、鏡の向こうの自分が突然勝手に動き出し、話しかけてきた。
「あなた、戸惑っているようね。前世を覗く術は上手く機能したの?」
ああ、そうだ。思い出してきたわ。確か、私は先ほど自分に自身の前世を覗く術をかけたのだったわ。
「ええ、上手く機能しましたわ、前世のことがはっきり思い出せるわ。」
私は愛用の魔鏡を安心させると、ふと、鏡が置かれている化粧台の上に、一冊の本が置かれていることに気づいた。
「ああ、気になりますよね、この本。この本はあんたが前世を覗いて呆然としていた時に、空間に穴が開いて、そこから落ちてきたの。」
私は驚きと怖さで冷や汗をかいた。私は一応この世界で最も強い魔女であると自負している。この私が全力で張ったこの結界を無視して、本を届けるような芸当が本当にできるような存在が本当にこの世に居るのでしょうか?
「本当ですわ。あと、本を届けた穴から、“初犯だから許すけど、前世を覗く魔法をまた使ったり、他の人に教えたりしたら、殺すからね。”と言う声がしましたわ。」
結界を無視できる存在の警告か…怖がってるわけじゃないけど、一応、この魔法は封印しようかな?一応ね。
私はその特に魔法の気配がしない分厚い本を手にした。タイトルは、『初心者にやさしい異世界ガイドブック(共通版)』。品がないタイトルですわ。ふーん、なかなか面白い内容ですわ。
ペラペラとページを飛ばしていると、あるページに指がひっかかりました。そのページには、「悪役令嬢になった場合の対処法」というサブタイトルがあって、それは何故か私の目を引きました。
「悪役令嬢?」その単語は、私の前世の記憶を呼び起こした。そう、悪役令嬢とは主人公の健気で優しい女の子を陰湿な手段でいじめる悪役。ほとんどの場合、悪役令嬢は物語の終盤で断罪され、ひどい目に遭う。
そして今気づいた、私、悪役令嬢だわ。私は本の内容を読み始めた。
「異世界に悪役令嬢として生まれた場合、まずは落ち着いて、今後の物語の流れを出来る限り思い出して、忘れない内にその流れを事細かく記録しましょう。」
私は魔法で羽毛ペンを操作し、思い出せる前世で読んだ話を紙に書き留めた。
「次に、過去にすでに起こった事件と書き写したシナリオがどれくらい合致するかを確認しましょう。合致度が高いほど、今後断罪されてしまう可能性が高い。」
私は今まで起こった事件などを書き留めた流れと照らし合わせた。ほぼすべて一致している。
「断罪を回避するためには、現実とシナリオの合致度を下げる必要があります。シナリオとは異なる行動や選択のを取ったり、シナリオで発生する事件を阻止したり、シナリオで発生しなかった事件を起こしたりすることで、合致度が下がります。」
ふむ、シナリオ通りだと、私はこのままでは断罪されて死んでしまう。森の中に逃げた生意気な娘にちょっかいを出そうと思ったが、この計画は諦めた方がいいわね。
「鏡よ鏡、世界で最も美しいのは誰かしら?」
鏡に映る私は不敵な笑みを浮かべた。
「それはもちろん…」