P5 会話が出来ない場合の対処法
ここはどこじゃ?
吾輩は確か…を追って、トンネルに入ったはずじゃ。しかし、トンネルから出てきたら、あやつはおろか、見たことのない巨大な建物が並ぶ奇妙な場所にいる。
何じゃ、頭の中に何か変な記憶が…『初心者にやさしい異世界ガイドブック(共通版)』?
わしは、トンネルを抜けて別世界にきてしもうたとでも言うのか?
後ろを見ると、トンネルはすでに跡形もなく消えておった。
向こうから何者かがやってきたぞ。2体ほど並んで移動しておる。随分大きいのう、わしの数倍はある。しかもとても変な移動のしかたをする。よくあんな動きで倒れないものじゃ。
何か喋っておる。
「τ″、ナ、ぇ、キまぇ@ヶ─≠ゃカゞめっちゃぅま<τ」
「ξぅナょωナニ″、⊇ωー⊂″レヽ⊇ぅカゝナょ」
うーむ、さっぱりわからぬ。おや、吾輩に気づいたようじゃ。
「、キゃ─、ね⊇ι″ゃω、カゝゎレヽレヽ!」
「レまωー⊂ナニ″!レニゃω⊇ちゃω⊇っちぉレヽτ″」
なにやら吾輩を見て驚いているようじゃ、幸い敵意はなさそうじゃな。しかし、会話が通じないこの状況、どうしたものか?
突然、吾輩の脳内に勝手にインストールされておった奇妙な記憶の中からあるページが浮かび上がった。なになに、会話ができない場合の対処法?
〈初めて異世界に来た場合、現地生物との意思疎通は多くの場合上手くいきません。このような時、まずは落ち着いて、言葉の代わりに、現地生物が取る行動を良く観察しましょう。
敵対的、中立的、友好的な現地生物の行動パターンを統計したデータによると、友好的な現地生物の82.1%はまず距離を保ったまま会話を企み、場合によってはゆっくりと距離を縮める行動を取ります。中立的な現地生物の68.5%は距離を保ったまま一通り会話を試した後、その場を去ります。〉
なるほど、今のところ2体の現地生物は距離を保ったまましゃべっておるな。
「ξぅレヽぇレよ″、ゎナニιぉカゝιもっτナニ」
「ぅξ、ξれね⊇ちゃωレニぁレナ″τゐょぅょ」
あやつら、なにやら変な動きを取り始めたぞ、何か変なものを出してきたぞ?この場合はどうすればいいのじゃ?
〈敵対的な現地生物の場合、74.1%は距離を保った会話による警告後、攻撃行動を取ってきます。攻撃行動は種族それぞれで、近距離の攻撃の場合、急激に距離を詰めてきます。この場合、逃走や回避の余裕があり、また87.2%の場合捕虜にするため殺傷力の低い攻撃から企みます。逃走が難しい場合、抵抗せず囚われる方が生存確率は高いです。〉
〈しかし、遠距離攻撃の場合、その多くは殺傷力が高い上に、回避が難しいです。なので遠距離攻撃を発する前に回避や逃走、もしくはおすすめしませんが、こちら側から攻撃行動を取り、相手を無力化する必要があります。〉
〈現地生物の遠距離攻撃を事前に見分けるコツとして、まず遠距離攻撃の多くは予備動作があります。もし会話の途中に通常とは異なる行動をしてきた場合、遠距離攻撃を想定して行動してください。また、86.2%の遠距離攻撃は何らかの器具を利用しています。もし、現地生物が会話中とは異なる動作を取り始め、何らかの物体を取り出したりしてきた場合、危険な遠距離攻撃を取ってくる可能性が極めて高いです。すぐに回避行動を取り、逃げることをお勧めします。〉
「あ、にげた。」
玲奈が鞄の中にあるはずのエサを探していた時、加奈子が声を上げた。
「え、まじ?」
玲奈が慌てて頭を上げると、さっきまでおとなしくしていた猫は建物の間の隙間に逃げ込んで姿をくらましていた。
「あれ、あの猫、しっぽが2本なかった?」
逃げる猫を目撃した加奈子が少し不安そうな顔をして玲奈を見た。
「え、良く見えなかった。きっと走ってたから見間違えたんじゃない?」
「そ、そうだよね!」