異世界のアフレクションネクロマンサー379
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「お母さん…カーテン空ける?」
「……怖いわ」
「そう…じゃあ閉めておくね」
お父さんがドラゴンに殺されてから、お母さんは外を見るのを怖がるようになった。
外の世界には恐ろしい存在がいると怯えて……
アタシは、お父さん達の亡骸を見ていないから、気が触れるまではいかなかったけど、お母さん達は外の世界と隔てる事を望むようになってしまった。
家の中の小さな部屋、そこが世界と隔たりを生み出し、お母さん達を怖い世界から守ってくれるが、それは狭い部屋の中に閉じ込める。
「ごめんなさい…今日の仕事は?」
「今日も、この布を裁縫して欲しいって」
「変わったお仕事よね……お洋服を作る訳でも無く、小物を作る訳でも無く、大きな一枚の布を作って欲しいなんて」
部屋の中で塞ぎ込んでいたとしても、生きる為には働かないといけない。
私達の事情を理解して、ここの町の人達は部屋の中で出来る仕事を与えてくれる。
その優しさに甘えながら、今日もこうして母は安全だが、牢獄のような部屋の中で生きる。
「じゃあ…アタシは仕事場に行って来るね」
「外には…気を付けてね」
「うん…分かってる」
きっと「外にはドラゴンがいる」そう言いたかったのを堪えたのだろう。
自分の感じている恐怖を、娘に伝播させないように。
娘が、部屋から出て行き、怖い外へと繋がるドアを開けて出て行く音を耳にして、
「本当に…ごめんなさい……」
頭では、自分も外に出て働かないと思っても体が震えてしまう。
グチャグチャに…食べ残しの細い肉のようになってしまった夫達……あんなのは普通の人の死に方では無い。
目をつぶれば鮮明に思い出す事が出来る……冷えた肉のつめたさ、血の腐った臭い、固く強張った皮膚……あの時の事が、この時になる。
いつまでも前に進めない…進む為の方法が分からない……
娘から渡された布を強く握り締めて、悔しさを噛みしめる……あの怖いモノさえいなくなってくれればと……
預かった布を強く握り締めたまま……何も出来ずに、あの時の事を感じていると、
『パタン!!トタトタトタトタ!!!!』
突然、家のドアが開いた音が聞こえたかと思ったら、せわしい足音が聞こえ、
「お母さん!!お母さん!!」
娘が、私の事を呼ぶのであった。




