異世界のアフレクションネクロマンサー376
『…………』
何も言わずに彼が、戦闘機を斜めにして、ドラゴンの最期を見せてくれる。
弾丸があたった鱗がボロボロに砕けて血が溢れ、頭に当たった二発の弾丸で左側の頭部が完全にめくれて壊れている。
夕闇の炎に照らされて、テカテカと赤々と頭を光らせながら、ゆっくりと滑空していく。
バランスを崩さずにゆっくりと…ゆっくりと……
「終わったね……」
心の底からの声が漏れた。
先程の頭を完全に潰されたドラゴンと違い、落ちていくドラゴンには右側の頭部が残っている。
きっと、残された右側の目には空の景色が映り、残された右側の頭がそれを見ている。
いきなり闇の世界に堕とされたドラゴンは、道連れという道しか見えなくなってしまったが、このドラゴンには空が見えてる。
これから死ぬ…それを分かっているからこそ、最期に空を味わいたいのだ。
止めの一撃の弾丸を込めない。
復讐を選んでこっちに向かって来るなら迎え撃つが、そのまま静かに死んでいくというのなら、静かに見送る。
ゆっくりと落ちていくドラゴン…そのまま……そのままバランスを崩さずに降りていく。
これ以上、死にいく者を見るのは下品な行為。
こちらの視線を感じたら、最期の時間も興醒め。
落ちていくドラゴンを見るのを止めて、視線を上げると、
『もう…終わるな……』
「そうだね…弾を込めるよ……」
自分達から少し離れた所で、もう一つの炎の雲が浮かんでいる。
それは先生と、最後のドラゴンが戦っているのだろうが、
『先生は…本当に人なのか?』
炎の雲が流れている。
ドラゴンが羽ばたいた時の炎の雲の動きは覚えたからこそ、先に見える炎の雲が流れる動きが尋常じゃないのが分かる。
「生きた心地がしないだろうね……」
それは逃げているのだ…必死になって逃げている……自分が生み出した難攻不落の炎の雲の中で。
ドラゴン同士でしかいられないはずの世界に……
『ギャァァァァァァァァ!!!!』
『ブゥァァァァァァァァ!!!!』
エンジンを鳴り響かせながら侵入してきた化け物から、怯えた声を上げてドラゴンが逃げている。




