黒い海10
キラキラと光りながら浮いてくるガラスのウロコ、自分の側へと近付いてくるのは嬉しい。
ガラスのウロコを触ろうと強く体を捻って、体をバタつかせて無重力の黒い海の中を泳ぐ。
自らそんな事をしなくても、ガラスのウロコは自分に近付いてくるのだから、側に来るまで待ち続ければ良いのかもしれないが、無垢な赤ん坊は抑えられない好奇心のままに、黒い海の中をくるくる回る。
くるくる、くるくる黒い海の中で回って遊んでいると、ガラスのウロコが自分の側に来てくれる。
心から待ちわびた瞬間、もう、体をよじって足をパタパタさせる必要はない、手を伸ばせ触れる事が出来る。
魅惑のガラスのウロコ、焦らすかのようにゆっくりと近寄って来たそれが目の中で輝く、高まる心のままに手を……
(あっ……)
心高まるままに手は伸びて、伸びた手の肌とガラスのウロコが触れるという瞬間、ガラスのウロコの中で何かが動く。
それはもしかしなくても、目を凝らさなくても間違いなく……
(……命だ)
ガラスのウロコの中の胚。
細長く、これから体になるであろう頼りない茎のような細長い肉と、それに相反するように大きな目。
それがガラスのウロコの中にいる。
ガラスのウロコに触れるのを止めたのは、きらきらと輝く美しい物の中に、形になる前のグロテスクな命に気持ち悪さを感じて躊躇したからではない。
きらきらと輝いていたガラスのウロコの役目が赤子になる前の命、形になる前の不完全な命を包み込むゆりかごと分かったから。
その命を守るガラスのウロコは触ってしまえば簡単に弾けてしまう、シャボン玉のように脆いものだと分かったから。
それを何故分かったのかと言われたら自分も肉体を無くした命の塊だから、感覚だけで分かることを肌で感じるというが、命になった今だからこそ同じ存在である命が置かれている境遇を感じ取れたのかもしれない。
自分の目の前を浮いていくガラスのウロコ、命を抱いてゆりかごとなって、このどことも分からない黒い海をゆらゆらと揺れて目の前を通り過ぎて、そのまま空を目指すシャボン玉となって現世へと飛んでいく。
現世へと還る命を羨ましく思うがそれを妬んではいけない。
もしも、このまま姿で現世に還れたとしても、再び誰にも救って貰えないことに苦しむだけ。
だけど、ガラスのウロコの中にいた新たな命はか細くて少しの事で消えてしまいそうだったが、現世で孵って育てばあるいは……




