黒い海8
唯一感じる感覚に、朦朧と消えていきそうだった意識を取り戻して、蠢くモノを見るとそこには、
(魚……?)
大きな魚、鯨のように大きな魚が黒い海の中を蠢いている。
鯨のように大きな生き物だがその見た目は哺乳類の鯨ではなく、魚類の鯉のような姿をしていた。
黒い海の中を泳ぐ大きな鯉は、口をパクパクさせながら黒い海を食べていく。
パクパクと黒い海を食べる大きな鯉を見つめていると、
(そう…だったんだ……)
あることに気付く。
自分の体の外にある黒いモノが人だということを。
それは人の形をしているわけではない、人の魂?意思?思念?肉体を無くした人がそこにいる。
この黒い海は人の中身で成り立っている。
自分のように長い時を苦しみに悩まされて、誰にも救って貰えなくて、この黒い海に沈んで一つに溶けてしまったのだ。
人が溶けて産まれた黒い世界、自分の苦しみと痛みが消えたのは、この黒い世界に吸われたからなのだろうが、もしここで自分の肉体が溶けて黒い世界と同化したら、きっと、この黒い世界の苦しみと痛みを共有することになるのだろう。
だが、ここが苦しみと苦痛に歪む黒い海で、そこに自分がいて、そこに取り込まれそうになっていて、それを食べる大きな大きな鯉がいても、
(………………………………)
何も考えることも無く、そこから逃げ出そうともせずに黒い海に漂う。
それは何故なのだろうか、この黒い海に取り込まれたら永遠に続く苦しみと痛みに歪まなければならない。
黒い海と化した人の歪みは様々な人が生きている時に感じた絶望が混じりあった混沌、この中に混ざるのは激流の川の中に落ちた木の葉のようなものだが、
(………………そこに……つれてって……………)
黒い海を食べながら泳ぐ鯉を朧げに見つめる。




