夢の中9
深い海の底に沈んでいたはずの礼人は呪いの言葉の声に苛まされ、さらには自分を無理矢理呼び起こす声が届いたことによって頭がクラクラする感覚を覚えながら目を覚ますと、
「……んぅ」
「礼人目が覚めたか!!」
そこにいたのは旧日本兵の服を着ていたみんなであった。
これは一体?―――そう尋ねようとした時だった。
「礼人、一回深呼吸しなさい」
それは礼人が何を言いたいのかを読み取ったかのように、アニーの方が先に礼人に対して指示を出す。
礼人はアニーの言葉に従う形で目閉じ、クラクラする頭を少しでも正常に戻そうと頭を振った瞬間であった。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
頭の中に呻き声が聞こえて来る。
耳に聞こえるのではなく直接頭の中に響いてくる。
集中することなく向こうから頭の中に声が響いてくる。
それはまるで力があるものが一方的に力を誇示するように……これほどのことが出来るというのは……
「えぇ、我々はとんでもないものに目を付けられてしまったのですよ」
「…………」
それは想像もしていないことであった。
「もし、礼人がこの声が聞こえない程に疲弊していたら置いて行くとこでしたが、大丈夫そうですね」
「自分も行くんですか?」
「そうじゃ、身動きが取れないのなら止む無く置いて行くとこじゃった」
「でも……付いて行っても邪魔になるんじゃ……」
礼人は確かに一日でも早く霊能者として認められたかったが、それは一日でも早く戦場に出たかった訳ではない。
まさかこのような形でいきなり……
「何を勘違いしているんですか礼人?」
「えっ……」
「良いですか礼人、これからあなたを連れて行くのは戦場に慣れさせるとか手柄を取らせるとかではありません」
「そうじゃ礼人、こういう時に一人になるのはとても危険なんじゃ」
二月とアニーの危険という理由。
映画でよく、我がままなことを言ったりして一人行動をした人物が殺されてしまう…そんなシーンを見ないだろうか?
このシーンをはお決まりのパターンと嘲笑されてしまうが、これは非常に理に叶ったことなのである。
我がままで無神経な人物が孤立して殺されたりするから笑い話にもなるが、実際、群れにいる者と孤立している者では、圧倒的に後者が狙われてしまうのが自然の摂理。
群れを成すということは、個々での力が弱くても数的有利や戦術を組むなどの行いによって、個で力を持つものに対抗する事が出来る。
逆を言えば個の力が弱いものが、個の力が強いものに一人で立ち向かうのは無謀であり、力の強い個もまた、群れることにによって力を手にしている群れより、一人で孤立して対抗出来ない個を狩るのが定石と分かっている。
だから、礼人を一人にするのは礼人が身動きが出来ない程に疲弊していた時の最悪のパターンであり、その場合は礼人をどこかに隠すつもりであった。
そうしなければ、それこそホラー映画のように一人になった礼人が狙われ殺される可能性があったからだ。
だが、実際には礼人はちゃんと意識があり、霊力もある程度は戻っている。
それならば群れに加わり、自分の身を自分で守ればそれだけで良い話なのである。