異世界のアフレクションネクロマンサー334
具体的に一切掛かれる事の無かった、良くなっているという手紙とは違う、初めて書かれた「母がカーテンを開けて外を見た」という手紙。
それは自分の母だけでなく、あの時の人達が快方に向かっているという知らせ。
一生治らないと思っていた不治の病に、希望の兆しが見えたのだが、問題はその後。
ドラゴンが襲るるに足らないと街中、町中でもひっきりなしに話題になったにも関わらず、それでも、母がドアを開けて外の世界に出たという手紙は来なかった。
それは母の心が、まだ解放されていないという証明。
心に掛けられたカーテンを開けて、窓越しになら外を見れるが、重く閉ざされたドアを開けて、外に出る勇気は無いのだ。
「俺たち二人でやってやろうな。俺達の家族だけじゃない、みんなの家族を救う為にも」
「うん、みんなの心を救おう」
それは決して、他の人に任せられない事。
無理矢理重く閉ざされたドアを壊せば、心が壊れてしまう。
ドラゴンの犠牲になった父の子供が、ドラゴンスレイヤーとなって敵討ちを果たした時、母は自らドアを開けて祝福してくれる。
そして、その時こそが、真の心の開放となり、その光景を見た他の家族も、哀しみと苦しみが終わって、祝福の時が告げられる。
「さてと、俺も飯を食いに行って来るわ」
「腹八分目だよ」
「はっ、気を付けるさ」
直接、食堂に行かないで、ここに来てくれたのは自分に檄を飛ばす為。
踵を返して食堂へと向かう彼に、自分も背中を向けると、
(絶対に、パイロットになるんだ)
最後になるかもしれない、パイロット候補生になるチャンスを掴む為にも、先生に指定された場所へと向かうのであった。
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「丁寧に扱えよ!!」
「壊さないようにですね!!」
先生に指定された場所は、飛行機の格納庫の横にある整地された土地。
納品された物を一時的に置いておく為の場所なのだが、今日はそこに町から来た工房の人達が、運んで来た荷物をせっせと置いている。




