異世界のアフレクションネクロマンサー333
あの日、父さんは一人で出兵したのではない。
敵からの侵攻に備えるために、多くの仲間達と出兵し、その中で斥候を行う為に派遣された際にドラゴンに襲われた。
部隊から離れた、少数の人数の所を狙われては一溜まりも無く、ドラゴンは父さん達をエサとして貪り食べて、その食べ残しが遺った事で、
「残ったのは俺達だけだもんな」
「……あの時に、心が病気になってしまったからね」
残された家族の心を折った。
自分の父が顔の半分が遺ったように、手の平だったり、膝下だけが遺ったりと、ドラゴンの食べカスになって帰って来た者達を見て、母達が顔を涙で濡らしながら、ぐちゃぐちゃの食べカスに手を伸ばして、自分の夫を探す。
その様は、愛ゆえにというよりは狂気そのもの、誰かが掴んだ食ベカスを、自分の夫だと言って奪い合う。
怒鳴り声なのか、金切り声なのか、悲鳴なのかよく分からない声が安置所に響くと、兵士の人達が奪い合うのを止めて、遺体を分け合う事でその場を収拾させた。
そして、それからどうなったかというと、自分の子供を父親と同じように、食べカスにされたくないと、子供を預ける事無く町へと移って行ってしまった。
「みんな…元気にしてるかな?」
「……してるだろうな。俺みたいに一緒に町に行って欲しいというのを蹴って、親不孝な復讐の道より、家族を支えて生きるという、献身的な道を選んだんだ。不幸になる訳が無い」
そう言うと、同期の彼は目を細めて横を向いてしまう。
あの日の光景を見てしまっては、みんなが四苦八苦しているのは想像に難くない。
それに、時折送られてくる手紙には、母の様態が前より良くなったといつも書かれている。
次第に、少しずつ、ゆっくりと……ずっと続く、治らない良くなっていく病気。
自分を気遣って、良い事しか書かれていない手紙が、逆に母の様態の悪さを伝える。
しかし、それが一転したのが、
「なろうぜ…ドラゴンスレイヤー」
「なるよ…なってみせるよ」
爆弾気球でドラゴンが退治された後の手紙。




